料理が上手なタイプのJK
「おぉ……いっぱいいるね」
城壁の上へ登って外の様子を確かめると、数えきれない程のゴブリンが整然と並んでいた。えっもしかしてちゃんと統制が取れてる系なの? これはちょっと大変かもね。そんなことを考えていると頭上に半透明のウィンドウが表示される。
「タンクと近接アタッカーは外で少しでも敵の進撃を食い止めてくれ! 遠距離攻撃が可能なプレイヤーは防壁の上から攻撃を頼む! 生産職は所定の場所で矢とMP回復アイテムの生産を続けてほしい!」
この町最大規模のクラン”フォートシュロフ神聖騎士団”のクランマスター、ヨイニの全体チャットだ。
全体チャットにはクランポイントを消費する。この町で最も多くのクランポイントを保有しているクランマスターが陣頭指揮を取るのは自然な流れだろう。そもそも事前にそういう話で決まってたしね。
「私も思いっきり暴れたいけど……ここは我慢だね」
指示通りに動くなら私は外に行って少しでも多くのゴブリンを叩きのめすべきだろう。だけど多分、ヨイニは大門を閉じて2度と開ける気は無い。有限のリソースであるNPCを極力温存して 戦う為にほとんどの前衛は切り捨てる算段だろう。
こう言う、打算的な決断ができるのはヨイニの才能だよね。もちろん、捨て駒にされたって怒る人も居るだろうけど。
「まぁそれでも貢献度は稼げるから良いっちゃ良いんだけどね……」
仮に大門を最後まで守り切れるなら、おそらく功績ポイントは外で大門を守り続けた前衛に集中するだろう。だけど大門が守りきれない場合、前衛は大一番をデスペナで逃す事になる。
そして何より、この状況で外に出て目立っちゃうと……与一君に"黒煙の暴君"がアニー・キャノンだって事が露見しかねない。
私の抱える欲求が他人へ与える印象ぐらいは理解できる。高校で再会して今、唯一の友達である彼に嫌われたくはない。
「んー、読めないな」
ゲームのコンセプトは"公平で不平等な世界"だ。
イベントの様子を見て敵の強弱を決めたりはしないはず。想定よりプレイヤーが全然強くて余裕で守り切れる可能性もあれば、ゴブリンが強すぎて街がボッコボコに破壊される可能性も十分にある。
「よし、まだ決めない事に決めた!」
アニーなら城壁は簡単に上り下りができる。とりあえずはMP回復料理を作って功績ポイントを稼ぎながら、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応する作戦で行こう。
「みんなープランBでー」
私は城壁の内側へ飛び降りる。周囲に潜ませていたカオスルーラーの子達に声をかけてその場を後にする。
「MP回復料理ください!」
「はーいどうぞー」
大門に程近いテントの中で、ひたすら料理を作ってプレイヤーに渡していく。中には私の尻尾を見て身構える人も居たけど、完璧なスマイルを作って料理を配り続ける私と“黒煙の暴君”は結びつきにくいのだろう。
すぐに態度を変えて、料理を受け取ってくれる。
「お、フランクフルトか。立ったままさっと食べられて、戦闘中の回復アイテムとしては良い形状だな」
「でしょでしょー。持てるだけ持ってっていいからねー」
気さくなおじさん風の戦士にも渡していく。今日のメニューは即効性を優先したMP効果のある三種の辛味合わせ灼熱フランクフルトだ。
この世界のMP回復はジワジワと回復していく方式だけど、このリジェネ間隔を極端に短くする味を実現して実質即効回復みたいに調整している。形状的にも直ぐに食べられるし今の状況にピッタリだ。
「えっMP回復料理くださぁい……」
ちっちゃいエルフの女の子が涙目で入ってきた。宝石が埋め込まれた木製の杖を抱えている。
「はいどうぞー」
「これ、辛くない料理ですか?」
「死人も目覚めるぐらいメチャメチャ辛いよ」
「ひぅっ」
私の回答に、幼女エルフが小さな悲鳴をあげる。だってしょうがないじゃん、辛いとMP回復効果が高いんだもん。
「あっ大丈夫安心して! ただ辛いだけじゃなくて、ちゃんと激辛好きには美味しくできてるから!」
もしかしてただ辛いだけで美味しく無いと思って悲しい表情をしているのかな? そう思って一応、料理として成立している事を伝えてみる。
「ど、どれぐらい辛いですか?」
私の言葉に、幼女エルフの少女は不安そうな表情で見上げてきた。あ、もしかして料理のMP回復効果の方が気になったのかな?
「今の所、私の料理は一番MP回復効果が高いらしいよ?」
「うぅ……」
「はいどうぞー。じゃぁ次のひとー」
灼熱フランクフルトを受け取った少女の表情に疑問を感じて私も試しに一本食べてみることにした。
モグモグ……この辛さ、84256スコヴィル。
ちゃんと想定通りの味だね。
そんな感じで料理を配って功績ポイントを稼いでいく。というかこれ、料理とか関係なく街中で生存してるだけでもちょっと伸びてるね?
「おうさまっ。ほうこく」
カオスルーラーの子達には料理の手伝いと、外の様子を見てきてもらっていた。
「うん、外はどんな調子?」
「そとのぷれいやーは、はんかい。ゴブリン、まだ沢山いる」
「おー」
やっぱりヨイニは大門を開けなかったみたいだね。防壁はまだ持つだろうけど、この調子なら大門は突破される。おそらく、今頃は大門の内側ではバリケードの作成が急ピッチで進んでいるだろうね。
「全プレイヤーへ現状報告。ゴブリン達は統率の取れた動きで進軍してきた。大門前で果敢に戦ってくれていた前衛チームは壊滅状態だ」
全体チャットにヨイニのメッセージが表示された。あーこれは町を捨てる事になるかな。私はどのタイミングで出よう。与一君にバレないタイミングってなると町は崩壊し尽くしたぐらいになっちゃうかなぁ。
「希望はまだある。これまでの戦闘でゴブリン側も前衛が削れて総大将の位置が近くなっている」
あー確かにこの手のイベントでボスを倒せば瓦解するのは定番だよね。ゴブリン側も前衛が削れているなら統率を失えばまだなんとかなる。
もうしばらく持ち堪えられれば最初の方にキルされた前衛プレイヤーがリスポーンしてくるだろうしね。
「これから残った精鋭で総大将への特攻をかける。これから言うメンバーは作戦本部まで来て欲しい」
おお、総力戦だね。ヨイニが次々にプレイヤー名を読み上げていく。どれもトッププレイヤーだったり、このイベントで有名になったプレイヤーだ。
「最後に、プレイヤー名は分からないが"黒煙の暴君"もしこのメッセージを見ていたら来て欲しい」
その言葉を目にした瞬間、ドキリ心臓が跳ね上がった。
「うっ……」
思わず声が漏れた。私の存在が公に認識され、そして求められている。今まで誰かに求められた事の無い私にとってそれは嬉しくもあり、同時に恐ろしくもあった。
"暴君"の名前は某掲示板で割と有名になっちゃったし、詳細が不明でも精鋭で突撃するって作戦ならそりゃ呼ぶよね。だけど、与一君に私がその"暴君"だって事を知られる訳にはいかない。彼には悪いけど、今回は諦めてもらうしか……。
「PKが姿を晒す事が不利益なのは分かる! でも、お前だってイベントに負けるのは悔しく無いのか?」
私の眼前へ表示される全体チャットに、ヨイニの言葉が続く。
「そんなはず無いよな。動画を見ただけでも分かるよ、お前は誰よりもこのゲームを楽しんでいるし、大切に思っている」
「だ、だけど……」
全体チャットのメッセージに、思わず声を返してしまう。これはアニーへ当てたメッセージじゃないし、声を返しても意味ないのにね。
「そりゃお前に装備を取られて恨んでる奴は多いよ。でも……ここは希望と夢の詰まったゲームの世界だ。お前が現実で殺人鬼じゃ無いのと同様に、俺たちも心の底から恨んでる訳じゃ無い。だから、その、なんて言うか……偶には一緒に遊ぼうぜ!!」
メッセージを読み終えて、私は震える声でため息をこぼす。
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