普通にイベントをこなすタイプのJK
チンピラの様な男と、その男に手を引かれる角の折れた少女の後ろをテクテクと歩いてついていく。
「おう、捕まえて来たぞ」
貧民街に入り、下水道の真横に立っている大きな家にたどり着いた。家の中には鉈を持った男と似た様な荒々しい風体の男が5人、散らばる様に座っている。
家の中にいた男たちの内、1人だけファーのついた革ジャンの様な服をきている男が私の方に視線を送って口を開いた。
「後ろのは何だ?」
「自分から着いて来やがった」
革ジャン男の言葉に、鉈を持った男がバカにした様な様子で笑いながら答える。男たちはそれを聞いて小さく笑うと、革ジャン男が答えた。
「はは、自分から奴隷になるたぁバカなカオスルーラーだな」
男の会話に、頭をかしげて質問する。私の思考を反映してなのか、尻尾が勝手にクエッションマークを作る。
「あれ? この街では奴隷は禁止じゃなかったっけ?」
「馬鹿な奴だな、カオスルーラーは人間じゃねぇ。家畜の売買を禁止している国があるか?」
「ふぅーん、じゃあなんでこんな所で商いをしているの?」
「はぁ?」
「公的に認められている商売なら、こんな裏路地でやる必要なんてないじゃん。何か都合の悪いことでもあるから、こんな場所で準備しているんでしょ?」
「ふん、だからどうした? カオスルーラーのお前が、衛兵にでも通報するのか?」
「んーん、私じゃ話は聞いてもらえない。でも今の会話で、お兄さんたちも衛兵を頼れないし、お兄ちゃん達がいなくなっても衛兵が犯人を探す事もないって事はわかったよ」
「それがどうしたって言うんだよ、お嬢ちゃん1人で、俺たち6人をどうにかするつもりか?」
「…………キヒッ」
「あん? 何を笑ってやがる」
なんちゃって直立歩行はここまでだ。踏み込んだ足の力で木の床がバキリとひしゃげるのを無視して一番近くの男へ飛ぶ。
「パイルバンカー!」
発声に合わせてスキルが発動する。突き出した右ストレートのインパクトに合わせて魔力で構成されたパイルが男の顔面を捉えた。彼の顔面がダメージエフェクトに包まれ、やや遅れて男の体がドサリと崩れ落ちる。
「なんっ」
崩れ落ちる男の横をするりと抜けて、次に一番近くにいる武器を構えようとした男の腕を左腕で壁へと叩きつける。サッと足払いで姿勢を崩させ、頭部を壁と縫い付ける様に片手で押さえつけた。
「で、他のカオスルーラーはどこにいるの?」
「は? しら」
「アハッ……パイルバンカー」
ぐしゃり。次のに聞こう。
「てめぇ!」
怒気と共に背後から斧が振り下ろされるのをランプの影が教えてくれる。壁を蹴り三角跳びで斧を躱し、男の背中に飛び乗る。
「ち、地下にっ!」
地面に組み伏せられた男が焦った様子で、先程の男へした質問に代わりとして答えてくれた。
「キヒッ……ありがとう」
ありがとう、助かった、優しいね。つまりもう用済みである。パイルバンカー、ぐしゃり。
「おっおい! 聞け! こいつがどうなっても良いのか?」
残った男の内の1人が、私と一緒に来た少女の腕を掴み上げて首元に剣を押し当てる。少女の方は恐怖で動けなくなって、目をつぶっている様だ。私は気にせず、テクテクと歩み寄る。
「お、おい! 止まれ! これ以上近づくと!」
テクテク。
「おい、本当にやっちまうぞ!!」
「別に良いんだけど?」
男の胸に右腕を当て、パイルバンカー。
ぐしゃり。
男の胸に穴が空いて崩れ落ちる。偶然にも少女は無事だ。残るは、最初にあった男のと、その仲間1人だけ。
「ま、まて! 衛兵に通報するぞ!!」
仲間の1人が、震える手で武器を握りながら虚勢を張る。
「へ? そんなことしたらお兄さんも捕まっちゃうよ? どんな罪状か知らないけど」
「ここでお前に殺されるよりはマシだ! それに、お前だって街で生活できなくなったら困るだろ!」
「? これから死ぬのに、どうやって通報するの?」
「なんっ……」
動揺する男に飛びかかり、そのまま顔面を掴む。
「パイルバンカー」
ぐしゃり。
最後に、私をこの家まで連れて来た男に視線を向ける 彼は腰が抜けた様で、尻餅をついて私から少しでも離れようともがいていた。
「ひっひぃぃぃいいっおた、お助け……」
「地下ってどうやって入るの?」
「あっあん、案内しますっ」
うん、そうだよね。
仲間を殺され、商売を邪魔された怒りより、今は自分の命が惜しいよね。ああ、これはこれで趣がある。自分を見下して来た相手を屈服させる瞬間、癖になっちゃいそう。
きひひっ……反吐が出るね。
「わぁーい! お願い」
男に案内されて、地下に移動する。下水道に通じているらしいそこを進むと、檻の中に何人ものカオスルーラーの子供がいた。
「開けて?」
「はっはい!!」
子供達は怯えた様子で檻の奥で一塊になっていて、出てくる様子がない。私と一緒について来た少女が子供たちへ声をかけた。
「みんな、もう大丈夫だよ! こ、この人が助けてくれた!」
少女の言葉に子供たちは私の方へ視線を向ける。
尻尾をフリフリして答えてあげた。
「お、おうさまっ……」
「おうさまー!」
「もう大丈夫だよー」
今度は全員で家のリビングへ移動した。生き残りの男にご飯を作らせて、皆でそれを食べながら質問する。
「ねぇ、この家の権利はどうなってるの?」
「け、権利書は俺たちが持ってます……」
「ちょーだい?」
「はっはい! 直ちに!」
男から権利書を手に入れると、脳内にAIのアナウンスが流れる。
「建築物を入手しました」
やった、拠点ゲットだ! 全ロスは避けたかったし、本格的に狩りを始める前に欲しかったんだよね。
「やった! ありがとー!」
「い、いえ……」
「じゃあ……もう良いよ」
私の言葉に、男は涙を流して喜ぶ。
「あっありがとうござっぎゃぁぁぁあああ!!」
今にも外へ逃げ出そうとする男の足を蹴り砕く。
「キヒヒッ……聞こえなかったのかな? もう、良いんだよ?」
私は視線をカオスルーラーの子供達に向けて優しい笑みを浮かべた。子供達は何故か怯えたような表情を浮かべつつも私の言いたいことは伝わったようで、それぞれが道具を握りしめて男を取り囲む。
もう、子供たちの目つきだけで。この男達が今までどんなことをしてきたのか察しちゃった。
「や、やめっ。たっ、たすけっ……」
「私には関係ないんでしょ?」
男の作ったご飯を食べながら待っていると、しばらくしてクエスト終了のウィンドウが表示された。
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