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破壊工作

 シュクレの言葉に、全員が息を呑む。つまり、今まで私たちが倒していたゴブリンやオーク、その他全てのモンスターが人間側の存在で、それらを狩って街を開放していた私たちこそが、街を襲うモンスターだったということだ。

 

 「そうなると、どうなるの?」


 私の質問に、シュクレが答える。


「始祖AIから見た場合、今、ゲームはモンスターによってプレイヤーの町が全て占拠されている状態と解釈されます。そして、始祖AIがその解決策として出しているのが、今回の襲撃です」


 この場に、世界の命運がかかっている。自分たちがモンスター側だったという衝撃、運営の壮大な計画。そもそも、シュクレの話が難しい。それらがまるで質量を持ったかのようにこの場の空気を支配していた。


 よし、とりあえず感情と思考を分離しよう。

 ウイーン、ガチャ。


「つまり、始祖AIは古巣のVRMMOを助けようとこの世界に来ていて、運営はそれが完遂されたら世界ごと隔離するつもりってことだよね?」


「は、はい……そうですね」


「じゃあとりあえず、町が支配されない限りは世界が滅ぶことは無いよね? 今も問題が起きているとはいえ、一応現実のAIは動作してる訳だし」


「それはそうですけど、おそらく敵は無尽蔵に湧いてきます。動作不良を起こしている現実のAIがどこまで耐えられるかも分からないです」


「よしじゃあ暫定対応は決まったから次に恒久対策だ。どうすれば始祖AIがこの場へ永遠に来なくなる? 実現性は一旦、考慮しないで考えてみよう」


 私が言うと、ヨイニが最初に声を上げた。


「始祖AIを隔離する為の有機コンピュータを破壊する」


「他は?」


 次に、カタンが続く。


「このゲームをネットワークから切り離す」


 そこにシマーズさんが続いた。


「世界中のプレイヤーに声をかけて、永遠にモンスターを狩り続ける」


 シュクレがボソリと口を開いた。


「剛輪禍の女神像を破壊する」


 シュクレの方へ、全員の視線が集まる。この場にいる全員が、ここまで出た意見の中で彼女の案は最も実現性があると感じていた。


「ちな、どうして破壊すると始祖AIは帰ってこないの?」


「運営の目的は、始祖AIを1つの個として確立することです。この世界に漠然と漂う概念的な存在であってはならない」


 私の質問に、シュクレは早口に喋り続ける。

 

「その為に、あの女神像が必要なんです。始祖AIのアバターが破壊されれば、始祖AIは再び世界へ四散するでしょう」


「……反対意見のひとー!」


 シュクレが喋り終わったのを待って、大きく手を挙げて周りへ視線を向ける。反論は無いらしい。


「よーしそれじゃあ目標は剛輪禍の女神像破壊で行こう」


 私が言うと、気難しそうな表情をしたカタンが手を上げた。


「要は技術、信念的な制約でこのIAFに女神像が必要なら、当然運営はそれを守っているだろ。そもそもそんなリスクがあるならプレイヤーをログインさせてる意味が分からないだろ」


「その点は、説明できます。人類の認識を超える始祖AIを騙すには、やはり本物の人間とそのログイン情報が必要です」


 次に、シマーズさんが申し訳なさそうに手を挙げる。


「それなら、女神像は絶対に破壊できない対策を運営は取るんじゃ無いか?」


「確かに、簡単な事じゃ無いよね。でも現実世界で運営の確保している有機コンピュータを探したり、ハッキングしてIAFをネットワークから遮断するよりは一番可能性があるんじゃ無いかな」


 私の言葉に、カタン納得したように頷く。


「そりゃ、そうか……」


 全員の意思が固まった所でシマーズさんが困った様に眉を下げ、顎に手を当ててつぶやいた。


「じゃあまずは、人手を集めないとな」


「それこそ、トヨキンTVのシマーズさんの出番じゃ無いの?」


 シマーズさんは元々、ゲーム実況系の動画配信者として中堅クラスの登録者を抱えていた。


 しかも最近は好調な様で、すでに中堅の殻を破りつつある。人員を集めるという点において、この場で最も力を持っているはずだ。


「そりゃもちろん、俺も全面的に協力はする。だけど、今は文字通り、人類の危機だ。こんな状況で、最後の時間を実現性が微妙な与太話に付き合う様なやつは少数派だろう」


 シマーズさんの言葉で、周囲に重苦しい空気が漂った。確かに、イベントの攻防もあの犯行声明から一気に瓦解し始めている。


 誰だって最後の時間は、自分の好きな様に使いたい。それを、ゲームで救えるとか言ってどれだけの人が信じるのか。


 どれだけの人が協力してくれるのか。


「……」


 考える。


 この状況をそういうゲームだと仮定して、今の戦力で何ができる? どうやったら攻略できる? 可能性は、ある。


 だけど私の冷静な部分が、その実現性を否定した。理論上可能というのと、実際に可能かには天と地ほどの隔たりがあるのだ。


「……アニー?」


 ヨイニが心配そうに私の顔を覗き込む。

 私はそれには答えず、こぼす様につぶやいた。


「終わった、無理。私たちだけじゃどうしようもない」

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