装備を集めるタイプのJK
約束の10分後、再びログインする。ヨイニは既に処理を終えていた様で、洞窟の壁に背中を預けて待っていた。
「ただーま」
「おかえり……ちょっと背が伸びたか? あと尻尾の形状が少し変わったかな」
ヨイニが私の後を確認する様に体を傾けながら聞いてくる。私はそれにVサインを出して答えた。
「AIがいい感じにやってくれた」
困惑するヨイニへステータスを送る。
名前:アニー・キャノン
種族:カオスルーラーLv5
Lv:5
HP:98/98
MP:25/50
【STR:31】(+10)
【VIT:10】
【DEX:10】
【AGI:80】(+40)
【INT:30】
装備
頭【旅人のバンダナ】(防御力+5)
肩【町民の外套】(防御力+15)
体【旅人の服】(防御力+15)
右手【アウトローナックル】(物理攻撃力+10)
左手【アウトローナックル】(物理攻撃力+10)
尻尾【小鬼将軍のバンクル】(AGI+20、STR+10)
腰【町民のミニスカート】(防御力+1、AGI+5)
足【素早さのバンクル】(AGI+10)
靴【旅人の靴】(防御力+5、AGI+5)
「尻尾? 部位が増えてる……」
「カオスルーラーの種族レベルを5に上げたらゲットできたよ」
「これ、有用なアイテムを装備できれば実は結構強いんじゃないか?」
「そうかもねー、ただ、カオスルーラーはその有用なアイテムを入手するのが大変なんだけど」
わざわざバンクルつけられる様に突起を作ったぐらいだからね。
「AGIがしれっとトップ層に迫る勢いなんだが……早すぎると体の制御が効かなくなるって聞いたけど大丈夫なのか?」
「なんなら尻尾の完成によって過去最高の安定感を持ってるよ」
「そ、そっか……」
ダンジョン攻略を終えた翌日。学校が終わって帰宅RTAの最高記録を更新しつつLAFにアクセスする。ログイン画面からヨイニへメッセージを送った。
「もしもーし、与一君?」
「相変わらず帰宅がはえぇえ!!」
「これでも帰宅部のエースだからね」
「そんな部活はねぇ!」
「ふっふっふ……裏部活21の1つ、裏帰宅部を知ってしまったからには生きて帰さんっ」
「もう帰った所なんだが……」
「oh……思ったより早かった、もしかして与一も裏帰宅部の一人!?」
「その話はもう良い! それより今日はどうする?」
「あー……。イベントの告知って見た?」
「見た、ゴブリンが街に攻めてくるってやつだろ? 功績ポイントでイベント報酬が決定するっていう」
「そう、それ! ちょっとイベントまで、ソロでレベル上げに集中したいなーって」
「そっか、二人だと経験値も半分だしな……アニーの殲滅速度を考えればソロのほうが効率良いのか」
「せっかく与一がゲームに誘ってくれたのに、ごめんね?」
「いや、良いよ。奏音が元気になってくれただけで嬉しい。多少は寂しいけどな? ヨイニが必要になったらいつでも呼んでくれ」
「ありがとう! 与一君もアニーが必要になったらいつでも呼んで良いからね!」
ヨイニとのチャットを終えて、ステータス画面を確認する。まず、どうやら私はPKが大好きらしい。
この大好きなPKをより効率的に行うには相手より優れたステータスとスキル、そして称号を蓄えている必要がある。
「そのためには、このイベントは外せないよね」
ログイン前の何も無い部屋をテクテクと周回しながら考えを巡らせていく。イベント報酬がどの様な物かは分からないけれど、ここまでの経験から鑑みるに"実際のプレイには影響がない"なんて事はまず無いだろう。PKを標榜する私にとって、イベントではちゃんとポイント稼ぎたい。
「そのために必要なのは、レベルと装備だ」
ステータスポイントは40〜50で1つ上げるのに5ポイントを必要とする。要するにAGIを1つ上げるのに実質1レベル必要な訳だ。でも装備によるステータス上昇にそんなルールはない。
つまりステータスをより多く伸ばしたいのなら、将来的に装備の持つステータス補正がかなり重要になるはずだ。
カオスルーラーの強みが装備数にあるとするなら、最新の装備を供給できる仕組みの確立は急務だ。自分で作るのも面白そうだけど、それには戦闘に不要なスキルを大量に取らないといけない。
そして何より時間がかかる。そんな時間があるなら少しでも多く狩に行きたい。お金で解決できる問題はお金で解決するのが一番だよね。
(この間0.1秒)
「じゃあまずは市場へごー!」
とりあえず、ステータス補正の高い装備を求めてフォートシュロフの街へリスポーンする。カオスルーラーのデメリットでNPCは私と取引をしてくれないみたいだけど、プレイヤー同士の売り買いにそんな制限は無い。
「うーん」
意気揚々と市場を一通り回ってみたけれど、プレイヤーメイドの装備ってあんまり強く無いんだね。何なら、二日目に出会ったカタツムリお時間の商品がほぼ最高水準だったまである。
「まぁまだサービス開始から3日だし、こんなもんなのかな……またあのカタツムリおじさん探して狩ろうかな?」
「たったすけてくださいっ!」
裏路地にある露天まで組まなく目ぼしい商品を探していると、貧民街の方から飛び出してきた少女が私にぶつかる。そのまま尻餅をついた彼女のフードがハラリと外れ、恐怖に歪んだ彼女の顔と、歪な角が顕になる。
「うん?」
どうやらこの子の角は折られている様で、その断面は荒々しく、無理やりに切断された様子が伺える。
「イベント"カオスルーラーの少女"を始めますか?」
少し遅れて、半透明のウィンドウが現れる。ウィンドウに現れた選択肢にYESと答えると、少女の後方からチンピラの様な風貌で鉈を携えた男が彼女の後ろから現れた。
どう見ても、薪や果物を割るサイズじゃ無い。牛や馬の首も刈れそうな大きさの鉈。切れ味は悪そうだけど、あの大きさならかなりの重量で、大型の戦斧みたいな破壊力が出せるだろう。
「っち、面倒なことしやがって!」
男は私の方を蔑む様に一瞥すると、少女の手を引っ張る。
「ひっ……」
角を折れた少女が、涙に満ちた目で私を見上げてくる。一般的に言えば"助けたい"と感じる場面だろうけど、特にそういう感情は湧いてこなかった。これが"結局はゲームのNPC"って事なのか、私がそういう人間なのかは分からない。
だけれど、ストレスから解放された私の脳は思考がクルクルと回転して、純粋な損得勘定で彼女を助けると決断した。
「何してるの?」
私が声をかけると男は面倒臭そうに答える。
「すまねぇな、娘を叱ったら逃げ出しちまって……」
「娘って事は親子って事だよね? 種族が違うみたいだけど?」
男の言葉に、私は少女の角を指差して答える。
「ああ、ちょっと事情があってな。そうだろ?」
男はそう言って、右腕で手首を掴んだ少女の方を睨み付ける。少女はそれをみてビクリと体を跳ね上げ、震える口を開いた。
「は、はい……」
「ふーん、態々カオスルーラーの子を娘として育てるなんて、優しいんだね?」
「あ、ああ……」
「そんな優しいお兄さんが、なんで同じカオスルーラーの私を見た時には一瞬嫌そうな目を向けたのかな? 娘を叱るのに何で鉈が必要なのかな? 何ですき焼きにはエノキが入っているのかな?」
私の問いに対し、男は数秒間の沈黙と、舌打ちの後に答える。
「うっせぇな! お前には関係ねぇだろ!」
「ま、それもそうだね」
男はもう一度大きく舌打ちをすると、少女の手を引っ掴んで貧民街の方へ歩いて行った。私はその後ろを一緒に歩いて行く。
「おい、どういうつもりだ!」
「私が何処に行こうと、お兄さんには関係ないでしょ?」
男は私の方を上から下まで見回して、ボソリと呟いた。
「……勝手にしろ」