集結するタイプのJK
*「お帰りなさい、|IAF《Inequality And Fair》へようこそ」*
と言うわけで今日はヨイニと一緒に私の部屋からIAFへログインだ。もう約束の時間だからね。
親の顔の次ぐらいによく見た真っ白い部屋で、いつものAIボイスが聞こえてくる。
「うん、ただいま」
体が現実の物からIAFのキャラクター、アニー・キャノンへと切り替わる。
「ちょっと鏡だして?」
*「承知しました」*
AIが答えると、眼前に大きな鏡が出現した。
黒いショートヘアに赤のメッシュが織り込まれた髪型、額から生えるねじくれた角が鋭く空を突いている。角を境に前髪を左右に分けて、顔立ちを際立たせている。
鏡の中から私を見つめ返す瞳は、人間離れした異形の美しさを湛えていた。瞳孔は縦に細長く、まるで蛇のように凛としていて、どこか冷酷な印象を与える。
黒い瞳の中で、その赤い蛇目が不気味に輝く。
「よっと」
身を翻すと、腰から生えた翼は、空気を切る音を立てながら強靭に動く。その黒さは闇夜を切り裂くようで、先端は鋭く尖り、攻撃的な印象を放っていた。その姿には恐ろしさと美しさが同居している。
足元に目をやると、ティラノサウルスを参考に魔改造が施された早く、そして力強い足があり、長くしなやかな尻尾が床に軽く触れていた。
*「どうされましたか?」*
「うーん」
無機質なAIの声への返答を一旦、保留にして私は鏡を見つめる。その全身を覆うのは黒を基調とした金属鎧。鎧の随所に施された赤い縁取りが、暗闇の中で怪しく光っていた。
「改めて見ると、とてもプレイヤー側のキャラクターには見えないなって思って」
*「はい、他プレイヤーから評価も同様です。いくつか例をお伝えしますか?」*
「いや、良いよ。大体わかってるから」
AIの提案に、私は苦笑いを浮かべてそれを否定する。だいたい"妖怪頭潰し"とか"PKの権化"だとか"1人だけ無双ゲームやってる人"みたいな、およそ一般女子高生の通称とは思えない単語が羅列されるだけだ。
*「アニー・キャノンの容姿を現時点から変更するのは困難です。新しくキャラクターを作成しますか?」*
「大丈夫、この私も、割と気に入ってるから」
*「承知しました。次はどうされますか?」*
「前回のログアウト地点に転送して」
*「承知しました」*
AIが返事をすると同時に、視点が暗転する。
転移先は、オーディアスの地下ダンジョン。天井には木の梁が見えて、壁は土塗り、床には石畳が敷かれてる。壁の端に等間隔で並べられた竹灯籠の光が妖しくその空間を照らしていた。
道の少し先には場違いな焚き火が燃えていて、近づくと優しい暖かさが伝わってくる。IAFではこの焚き火の前に椅子を置いて座ると空腹遅延とバフ効果時間の延長の効果が得られる。
「アニーちゃん、速いな」
焚き火には先客がいて、アウトドア用品みたいな折りたたみ式の背が小さい椅子に白を基調とした武者鎧のプレイヤーが座っていた。
「シマーズさんの方が早いじゃん」
「俺は枠立てとかオープニングとか色々あるからな」
シマーズさんはそう言ってサムズアップする。彼はSNSで人気のゲーム実況配信者で、もちろん今回も配信している。どうやら私がいると同接がやたらと増えるらしく、今日はいつにも増してテンションが高い。
私も椅子を出して焚き火の前に座って、ついでに料理を始める。すると、すぐに背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「や、お待たせ」
振り返ると、ログインエフェクトの光リングから背の高い金髪で中性的な顔をしたキャラクターが現れた。
全身を重厚な金属鎧に身を包み、体格から性別を判断できない。左腕に巨大なカイトシールド、右腕に槍を携えている。今日はお泊まりで私の部屋から一緒にログインしている与一のキャラクター、ヨイニだ。
「や、やっほーヨイニ」
今日、お泊まりになった経緯を思い出してちょっと恥ずかしくなって、変な挨拶をしてしまった。
「やっほーって」
ヨイニは小さく笑いつつ、同じ様に挨拶を返してくれた。彼女も焚き火に集まって、アイテムボックスから椅子を取り出して座る。
「ヨイニもおかえり」
シマーズさんは私へしたのと同じ様に軽く挨拶をした。間をおかずに、またログインエフェクトのリングが現れる。
光の中から現れたのは、淡い金髪と長い耳、小さな身の丈を超える大きな杖を抱えたエルフの少女だ。
「お、お待たせしました」
エルフの少女が焚き火の前まで小走りにやってきて、恐縮した様子でペコリと頭を下げる。正確な年齢は分からないけど、このパーティーでは彼女が最年少だ。多分、待たせた事を気にしてるのかな?
プレイヤーが普通に日本人の女の子だからしょうがないんだけど、ヨーロッパ圏の印象が強いエルフのお辞儀は違和感があるね。
「まだ時間じゃないから大丈夫だよ、シュクレちゃん」
エルフの少女、シュクレの思いを察して、最年長のシマーズさんが優しい口調で安心させるように返事を返した。
「僕も今きたところだ」
自信満々にニカッと笑うヨイニ。
「というか、仮に時間に遅れてたとしてもIAFでシュクレに何か言える人ってほぼ居ないよ?」
私がそういうと、シュクレは苦笑いを浮かべながら両手を左右に振ってそれを否定した。
「いえ、そういうのはちょっと……」
シュクレもアイテムボックスからちっちゃい椅子を取り出して、焚き火を囲む円陣へ加わる。一見すると頼りない印象を受ける彼女だけど、その実力と功績、そして影響力はIAFでも指折りだ。
詠唱革命によってIAFのビルド環境を一変させた麒麟児にして、そのついでにIAFの世界観の考察、研究の最先端を独走する考察ガチ勢。
「まぁ確かに、仮に1時間ぐらい待たされたとしてもそれで文句でも言おうものなら教徒が百単位で助走をつけながら殴りかかってきそうだよな」
シマーズさんがフッと笑って、からかう様にシュクレへ冗談を飛ばす。ヨイニがそれに乗って言葉を続けた。
「何せ、教祖様だからね」
「もう! 私それ、納得してないんですからね!」
2人の言葉に恥ずかしくなったのか、シュクレが怒った様子で両手を上下にブンブンと動かす。ちなみに、可愛い動作に似合わず2人の話は割と事実なのがビックリだよね。
彼女から詠唱やAIFの世界設定に関して教えを乞うプレイヤーは日々増え続け、今や本人は蟻の触覚の先程も望んでいないのに莫大な教徒を抱える"シュクレ教"の教祖になっている。
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