自宅凸されるタイプのJK
「ゲーム、禁止……?」
閉じられたドアを呆然と見つめながら、情報がじんわりと浸透圧の様に脳へ染みて来た。もう、IAFができない?
所詮、ゲームと言ってしまえば確かにその通りだ。だけど、現実世界で満たされない心を、IAFは満たしてくれた。
あの世界には、私を信頼してくれる人、期待してくれる人、応援してくれる人……私にとって、大切な物がたくさん詰まってる。
「……隠れてやる?」
唇を軽く噛んで頭を左右に振り、その考えを追い出す。隠し通せる保証はどこにもない。
私はただの女子高生、どうしようもなく親に保護される立場の存在だ。親の命令に真っ向から逆らっても私に勝ち目は無い。
これが仮に虐待であれば公的機関を頼ればいいけれど"ゲームを禁止された"なんて理由は社会通念上、鼻で笑われるだけだ。
「あ、これ……ダメだ」
ふら、ふらふらと部屋を歩いてベッドの上へ仰向けに倒れ込む。例えば"成績が良くなっている"と主張するのはどうだろうか。
無意味だろう、だって父は論理的な理由があって禁止しているわけではない。感情的に許せない事へ後付けで理由を付けている。まるで遮音ガラス越しに会話している様な今日に至るまでの彼との会話を思い出す。
「私じゃ、この問題は解決できない……」
様々な打開策が脳内で激流の如くに巡り、脳内の冷静な私がその全てを丁寧に否定していく。
片腕で目の上に乗せて、もう片方の手で枕を強く握りしめる。悔しさのあまり、視界が滲む。
IAFに出会って、私は私を認められる様になった。色々な人と出会って、私みたいな人間でも、誰かを幸せにできるだって。ちょっとだけ、人として成長できたような気がしていた。
「何にも、変わってない。電脳世界で暴君なんて言われても、現実の私は親の言う事に逆らえないただの子供だ」
視線を変えて、ベットの上に転がっていた携帯端末を見つける。まずは、集合時間に間に合わないと皆に伝える必要があった。
*「奏音、どうしたの?」*
電話をかけてワンコール、私をIAFへ誘った張本人にして……私の彼女。与一の声が聞こえる。
*「ゲーム、もうできない」*
*「……どう言うこと?」*
私が絞り出す様にそれだけ言うと、与一が真剣な声で聞き返してきた。私はそれから、彼女へことの経緯を説明する。
*「わかった、今からそっちに行く」*
私の話を最後まで聞き終えると、与一は僅かに震える声音で一言、呟く様に言い放った。
*「えっ、なん……で?」*
*「僕が君の両親を説得する」*
与一の言葉に、頭をガツーンと殴られた様な衝撃が走った。不可能だ、人の声は遮音ガラスを越えられない。
*「どうして、与一が……」*
*「奏音」*
私がさらに疑問を口にしようとすると、与一が少し怒った様な声音で私の名前を呼んで、話を遮った。
*「それは、君が僕の彼女だからだ。それに、告白した時に言っただろ?」*
夕暮れの公園、揺れるブランコ。与一の言葉に、あの日の記憶が鮮明に、脳裏を駆け巡った。
*「僕は、君の弱さを知っているからこそ、君を助けたいって思ったんだ」*
与一が電話を終えて10分、本当に我が家のチャイムが鳴った。チラリと時間を確認すると時計は19時30分を示していた。
ギリギリ……非常識とも言える時間帯だ。
「風間です。どちら様ですか?」
リビングへ移動すると、ちょうど父がモニター越しに対応している所だった。彼の質問に、与一が応える。
「夜分遅くに申し訳ありません、奏音さんの……」
与一はそこまで言って、一瞬だけ言い淀む。そして悔しそうに少しだけ眉を下げて言葉を続けた。
「親友で、与那覇与一と申します」
私と与一の関係について、彼女は恋人とは言わなかった。普段から男装をする彼女も、今は女の子らしい格好をしている。今は話をややこしくしない為に、私たちの関係については伏せるつもりだ。
彼女の言葉を聞いた父が確認する様に私の方をジロリと睨む。私はその視線に応えて小さく頷いた。
「……ご用件はなんですか?」
迷惑そうな声音を隠そうともせず、父が与一へと問いかける。与一はそれに気押される事なく、真剣な声で返した。
「奏音さんのことで心配なことがあります。少しお話しをさせていただけませんか?」
余地の言葉に、父は冷たい表情を浮かべながら、感情を感じさせない口調で言葉を続ける。
「奏音から何を聞いたかは知りませんが、家庭の事情です。口出しされると迷惑です。お引き取りください」
部屋の空気は緊張で凍りつき、私の手のひらには不安で汗が滲んでいた。だけど、与一は一歩も怯まずに返す。
「奏音が困っているなら、僕は黙っていられないんです。だからこそ、こうして直接お話を伺いに来ました」
「お引き取りください」
「お聞き届けいただけないなら、しかるべき所へ相談させていただきます」
与一の言葉を聞いて、私の心は希望と不安で揺れていた。彼女は言外に話を聞かないなら公的な機関へ通報すると言っている。
「……」
彼女の言葉を聞いて、父は顎へ手を当てる。風間家の世間体を第一に考える父にとって、最大級の脅しだ。
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