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第一関門を突破するタイプのJK

「ゴットフィストぉ!」


 空中で痙攣(けいれん)するストームブリンガーへ、巨大な半透明の拳が襲いかかる。ムエルケさんの得意技だ。


「視聴者の皆、俺達に力を貸してくれ!!」


 シマーズさんが祈るような声音で叫ぶ。パーティ共有機能によって、彼の視界に映ってた配信チャット画面が共有された。


*「アニーちゃん、がんばれ!」*


*「勝てるぞー!」*


 アリーナの外壁に投射される形で次々と大量の応援コメントと、ダンジョン攻略に関する考察が流れていく。


*「シュクレちゃんの方に一匹行ったぞ!」*


 目まぐるしく戦況が変化する中、コメント欄から警告が飛ぶ。即座に状況を理解して声を上げた。


「ヨイニ!」


「任せて! カバームーブ!」


*「クダンちゃんが動きを止めたぞ!」*


「キヒッキハハハハ!」


 何でよりにもよって風間家がモチーフなのかとか、色々と驚いて調子が出なかったけど、そろそろエンジンがかかってきた。


 思考が加速していき、ロータリーエンジンのように(よど)みなく、クルクルと回っていく。


「「|セット・リボルビングパイル《影踏み》!」」


 風間流裏秘技其乃一かざまりゅううらひぎそのいち多重発声(たじゅうはっせい)


 本来は敵陣を混乱させたり、あのモンスターのように増幅させて使う物だけど、このゲームにおいてはアクティブスキルの同時発動に使える。


「おらぁぁああ!!」


 両腕に釘打ち機(パイルバンカー)をセットしながら、クダンちゃんが動きを止めたシャウトマスターの元へ移動する。


 そのまま渾身の力で殴り飛ばし、インパクトの瞬間に合わせてトリガーを引く。魔力で構成された釘が射出され、モンスターを吹き飛ばした。


*「アニーちゃん、後ろ!」*


「キハッ!」


 前後に開いた両足の踵を起点にくるりと180度、回転。眼前には、短刀を振り上げたデュアルストライカーが見えた。


 ぶっちゃけこいつが一番、粗悪だ。


「それは、こうやるんだよ!」


 短刀へ向けて捩じ切るように釘打ち機を装備した右腕を突き出す。接触の瞬間に腕をねじ切り、刀の腹を弾いて僅かに軌道を逸らした。


 一般的に伝わっている風間流の"白刃弾き"は、籠手で刀の攻撃を弾くだけだ。だけど、本家にはその先の技がある。


*「す、すげぇ!」*


 風間流裏秘技"白刃流し"刀の攻撃を弾くと同時に攻撃を兼任する、攻防一体のカウンター技だ。


 デュアルストライカーの顔面を捉えて、トリガーを引く。魔力の釘が射出され、一気にHPを削り切る。


*「暴君、やべぇ!」*


 退路は立たれているし、意表も突かれた。それぞれのモンスターも強い。だけど、それがどうした。こっちには、1万人を超える視聴者という名のオペレーターがついている。


 現実に居場所のない、どうしようもない私に居場所をくれた最強のサポーター軍団だ。


*「シマーズ! 右だー!」*


 私以外にも、それぞれにサポートが飛んでいる。こうなれば混戦状態はこっちの方が有利だ。







「パイルバンカー!」


 最後の一匹を殴り飛ばす。真っ黒い忍者装束に身を包んだモンスターがアリーナの壁まで吹き飛ばされ、ポリゴンへと変化した。


*「この布陣、強すぎだろ……」*


*「伝説のフォートシュロフ13騎士が4人もいるもんな」*


*「今日は一段とアニーちゃんがアニーちゃんしてた」*


「何だか、今日のアニーさんいつもより動きが凄かったですね」


 シュクレがニコッと笑いながら話しかけてきた。そりゃそうだ、何せ実家で散々見てきた技ばっかりだからね。


 すんなりそう答えられれば楽だけど、本家の人間だと悟られるとワンチャン特定されかねない。


「視聴者っていうサポートがあったからねー」


 真実を内包したそれっぽい嘘で誤魔化(ごまか)す。


 一方で、シマーズさんは配信画面が写っているだろう方向へ元気に手を振っていた。


「皆ー! 協力ありがとうー!」


*「一緒に攻略しているみたいで楽しかったぜ!」*


*「続きも頑張れよー!」*


*「皆がんばれー!」*


 しばらく感想が流れた後、シマーズさんがPTへのチャット共有を切る。あたりが元の様子に戻った。


「さて、ここからどうしようか?」


 シマーズさんの問いに、ヨイニが顎に手を当ててクダンちゃんの方へ視線を送った。


「えっえっと、とりあえずこのエリアは安全そうです。あ、あと、続きの道はあっちです」


 クダンちゃんがヨイニの視線に答えて辿々(たどたど)しく、しかし確信を持ってアリーナの中央部分を指差す。


 私もそっちへ視線を向けるけど、そこには何も無い。だけどまぁ、彼女が言うなら何かあるんだろう。


「ちょっと休憩したいっす!」


 ムエルケさんが元気に手を上げて宣言する。確かに、かなりの集中を要する激戦だった。


 その言葉に、全体の空気が少しだけ弛緩(しかん)したのを感じる。彼女の言葉に全員が頷いた。


「休憩がてら、少し情報を整理したいです」


 各々がアイテムボックスから休憩用の椅子やら何やらを取り出した所で、シュクレが大きなテーブルを広げた。


「お、シュクレ教授の授業っすか?」


 ムエルケさんがニコニコしながら椅子を引きずってテーブルの前に集合する。私たちもそれに続いてテーブルの前へと集まった。

 



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