咽せるタイプのJK
「おー、壊れてるねー」
剛輪禍から実夢境街を経由して、オーディアス城砦都市へ辿り着いた。
断崖絶壁の影にひっそりと構えられたそれは、かつての栄光は見る影もなく、ただの廃墟となっていた。
「フォートシュロフより防備は堅そうですね」
大きな杖を抱えるように持つ金髪のエルフの少女、シュクレが眉を潜めながら、穴だらけになった城壁を見つめてつぶやいた。
「師匠とボスとのダンジョン攻略、楽しみっす!」
ムエルケさんが明るく、後輩感の強い口調で声を弾ませる。彼女は継ぎ目が全部ピン留めされたパンクな修道服を着ていた。
「ゴリラマンさんはどう思う?」
「ゴリラじゃねぇ! ゴングマンだ!!」
私の質問に、全身が筋肉に覆われたスキンヘッドの大男、ゴングマンさんが派手なリアクションで答えた。
「お待たせ、アニー」
「待ってないよー」
転移のエフェクトと共に、全身を金属の鎧に身を包んだ金髪の女性、ヨイニが現れた。彼女の背後には、忍者装束に身を包んだ少女、クダンちゃんが隠れて恥ずかしそうに声を発する。
「あうっ……お、お久しぶりです……」
「クダンちゃんもお久しぶりー」
私は視界の端に表示された時計を確認する。
「シマーズさんは?」
「飛んで来るって言ってたよ?」
「それはもしかして文字通り……」
少しだけ首を傾げるように答えたヨイニの言葉に、彼女以外の全員が空を見上げた。
「よぉー! 久しぶりー!」
空から、2メートル程のワイバーンが飛来する。彼は土煙を上げながら着地し、その中から快活な声が響いた。
「シマーズさん、お久しぶりー」
土煙は直ぐに晴れて、全身を白い武者鎧に身を包んだ男性の姿が現れる。有名配信者のシマーズさんだ。
「ヨイニ、今日は取れ高満載のイベントに誘ってくれてありがとう!」
「あはは、まだ取れ高があるかはわからないよ?」
シマーズさんが歯をキラーンと輝かせながら、ヨイニの方へサムズアップをする。ヨイニは軽く笑ってそれに答えた。
「もしかして、もう配信されてる?」
私の質問に、シマーズさんが首を左右へ振った。
「いいや。一応、皆に断ってからにしようと思って」
「配信しながら視聴者の意見も取り入れて、でも私は映らないように工夫するとか、そういうのはできない?」
「いや、そんな曲芸ができたらもうそれで食っていけるわ」
別に食べていくだけならベーシックインカムがあるから困らないんだけど、言葉のあやってやつだ。
「まあそうだよねー。なんかこう、挨拶とかした方が良いの?」
「いいや、そこまで気にしなくて良いよ。自然体でいてくれれば」
「はぁいー」
「ところでシュクレちゃん、どうしてこのダンジョンが怪しいって思ったんだ?」
シマーズさんが配信を初めてから、全員でテクテクとオーディアスへ向かう。道中で彼がシュクレへ質問を投げかけた。
「えっと、主に3つです」
「ほう、それは?」
「まずメタ的な考察として、初期リスポーンの街には多少の差異はあっても極端な優劣は無いはずです。エターナルシア遺跡に隠しダンジョンがあったなら、このオーディアスにもあると考える方が自然です」
シマーズさんの質問に対し、シュクレは滑らかに言葉を繋げていく。シマーズさんはその言葉に頷いた。
「ふむふむ、確かに妥当な考えだな。後ふたつは?」
「以前、この世界を生成するAIに特定の資料が優先的に使用されているってお話しましたよね? それに心当たりがつきました」
「おお、すごいな! それは何なんだ?」
シュクレの言葉に、シマーズさんが興味津々に食いつく。ベースとなった資料がわかれば、このゲームの攻略に役立つ事は間違いない。
「|インフィニット・アルゴリズム・サーガ《Infinite Algorithm Saga》。世界最初の、AI管理によるオンラインゲームです」
「へー!」
シュクレの言葉にシマーズさんが相槌をうつ。そして視線を右上、おそらくはコメント欄の方へ向けた。
「IASって最初の街から徐々に外側へ向かって街を攻略していくゲームらしいけど?」
「そうですね。IAFはその逆パターンになっています。外側から、内側へ向かって攻略していく方式です」
「おー! なるほど! それで、IASでオーディアスの位置に該当する街には隠しダンジョンがあるってことか!」
「はい、シマーズさんのおっしゃる通りです!」
「それで、3つ目は?」
「全体の方針に関しては先ほど申し上げたようにIASを踏襲しています」
「うんうん」
「しかし、それぞれの町の構造に関しては別の資料、特に日本の伝記や逸話、コンテンツなどが古代ヨーロッパ風にテイストを変更して適応されています」
「そうなんだ……全然気が付かなかった! もしかして、このオーディアスの元となった話もわかってるの?」
「はい、詳細は不明ですが……おそらく、オーディアスは日本の風間家の逸話を原点にして創られ……」
「ゴホッゴホゴホ!」
シュクレちゃんの言葉に、思わず咽せてしまった。それ、私の家じゃん!!
「……アニーさん?」
「な、何でも無いよ?」
心配そうな表情向けるシュクレに、私は両腕を左右へブンブンと振って否定する。
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