ついに現実世界で地獄を作るタイプのJK
それは、まるで砲弾の直撃を受けた塹壕のような有様だった。あちこちへグチャグチャに散らばった人体のパーツたち。白を基調とした部屋が、今は彼らによって極彩色に染め上げられている。
「えへ、えへへ……!」
部屋の惨状を他所に、私はこれから待っているイベントへの期待が抑えられず、思わず笑みを溢してしまった。
視線の先には、古風で繊細な装飾のある立ち鏡があり、真っ赤な胴体がまるで生贄のように吊り下がっている。そんな地獄のような部屋で、私は生贄の吊るされた鏡の前でクルリと1回転。
「……この服で大丈夫かな?」
鏡には、白いワンピースに身を包んだ黒髪の華奢な少女が写っている。頭には深めのチャコールグレーの帽子をかぶっていた。帽子の縁はやや広く、そこに細かいスティッチが施されている。
まぁ、私なんだけど。
「与一は、どんな格好でくるのかな」
立ち鏡に掛けてあった赤い服を後ろに放り投げた。これで、鏡の中に私全体がしっかり映る。
鏡に映る私の表情は少し不安げに見えたけど、瞳には期待とワクワクした気持ちが宿っていた。
夜のヴェールが街をそっと覆う。私は人々が集まる花火会場へ足を運び始めた。息が詰まるほど理路整然とした都会から逃れ、少しの時間だけ特別な空間に浸かるのは心地よい。
「お待たせ」
私は待ち合わせ場所の公園に着くと、一際目を引く背の高い少女、与一へ声をかけた。そのスタイルは、誰もが羨むようなスリムで、どこかボーイッシュな雰囲気を放っている。
男の子っぽい言葉使いや態度が、その特徴を一層、際立たせていた。
「いいや、僕も今来たところだよ」
与一は私に気がついて、口角を優しくあげる。
「浴衣、似合っているね」
与一が身に纏っているのは、鮮やかな青い着物。その色は夏の空を彷彿とさせ、彼女の若々しいエネルギーとマッチしている。
「ありがとう。奏音も可愛いよ」
「あ、ありがとう……」
与一はなんの気負いもなくそう言って、私の方へ手を差し出してきた。私が躊躇いがちに伸ばした手を彼女は力強く握る。
「それじゃ、いこっか!」
2人で手を握って歩き出す。提灯のほのかな光が私たちの足元を照らして、色とりどりの露天が目の前に広がる。
焼きそばの香ばしい香り、わたあめの甘い匂いが鼻をくすぐった。周りには浴衣姿の人々で賑わっている。
「そろそろだね」
与一の言葉に時計をみると、もう時間だ。皆が空を仰ぎ、期待に胸を膨らませる。静寂が続く中、突然、音とともに夜空に鮮やかな光が放たれた。赤や青、黄色が舞い上がる。
その美しさに心が揺れ、周囲から歓声が上がった。
「(テレビで見た時は、何も感じなかったんだけどな)」
そんなことを考えながら与一の手をギュッと握り返すと、彼女は何も言わずに握り返してきた。
1つ1つの花火が消えていくと、私は少しの間、空を見上げてこの思い出の余韻を楽しんだ。
「そういえば、IAFの新しいプロモーションムービーが公開されたらしいよ?」
花火大会の帰り道、待ち合わせをした公園の前で与一が思い出した様に空を見上げながら口を開いた。日頃から遊んでいるVRMMOの新プロモーションムービー、確かに気になる。
「それじゃ、一緒に見てみようよ」
2人で公園のベンチに座り、お互いの携帯端末を接続してAR機能を共有する。眼前には直ぐに動画再生画面が表示された。
*「ここは、どこまでも公平で、そして不平等な世界――」*
真っ白な背景に、いつもログイン画面でお世話になっているAIの声が源界明朝と共に表示され、直ぐに場面転換。
「ぎぃぃいいあ!」
野蛮な声が響く。
目の前に飛び込んできたのは、重厚な金属の鎧に身を包んだゴブリンの大群が、中世ヨーロッパを彷彿とさせる城砦都市に侵攻している場面。
「フォートシュロフだね」
与一の言葉に頷き、この後の展開を予想して嫌な汗をかき始めた。この場面は、ゲームが始まって最初のイベントの場面だ。
「黄昏來て闇が全て飲み込もうと瞬き続ける星屑よ、今、我が元に集いて暁の如く闇を切り裂く閃光とならん」
一瞬の場面転換、今度は城砦都市の内側の様子が映し出される。その中では、ゴブリンの侵攻を防ぐ冒険者風の男たちの後ろで、大きな杖を掲げた金髪の小さなエルフが長い詠唱を唱えていた。
後に大詠唱教授と呼ばれるプレイヤー、シュクレの姿だ。
「シャイニング・スレイライト!」
シュクレが杖を振り下ろされると同時に、極太の光線が解き放たれ、冒険者ごとゴブリンの一団を吹き飛ばした。
せ、セーフ! 彼女の活躍は影響範囲が大きい分、見栄えが良い。この調子なら私が映る事は無い、はず!
さらに場面転換。
「キヒヒヒッ……こっからはアクションゲームだよ」
眼前にはティラノサウルス足と尻尾、猛禽類の翼を腰から生やし民族的な装備に身を包んだ私のアバター、アニーキャノンが獰猛な笑みを浮かべてゴブリンの一団へ突っ込んでいく姿が映し出された。
許されなかった……。
「……なんて言うか、すごくクローズアップされてたね?」
動画を最後まで見終わって、項垂れている私に与一が苦笑いを浮かべながら声をかけてくる。
「うう、不平等だー!」
動画では、他にも大規模イベントでの名場面や、関係ない見どころシーンが散り見事に編集されてた。
そしてなぜか、な・ぜ・か! その大体の場面において現実の私とは対照的に狂喜乱舞しながら圧倒的な身体能力によって敵を粉砕する私こと、アニーキャンの姿。
「でも、僕はちょっと誇らしいな」
「何が!」
「奏音が、実はすごいんだって自慢できるみたいでさ」
「う……私は恥ずかしいよ!」
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