装備一式が偶然落ちてたから拾うタイプのJK
「うーん、こんな感じかな?」
レベルアップの分配を終えてゲームにログインする。ヨイニが来るまでもうちょっと時間がかかりそうだし、街の散策でもしよう。
「じゃあ、まずは武器屋と防具屋!」
今の初期装備はレベル5で強制的に没収されちゃうから今の内に見ておきたい。まずは最優先の外套を買いに防具屋さんへ向かう。
「くーだーさーいなー」
「……」
道に面したカウンターから声をかけたけど、返事がない。アニーは背が小さいからカウンターから顔がでない。
多分気づいてないんだろう。
「もしもーし」
その場でぴょんぴょんしながら、カウンターに向かって手を振る。
「……」
気難しそうなおじさんがカウンターから身を乗り出して私の方を覗き込み、シッシッと出て行けのジェスチャーを返した。これがカオスルーラーの種族でゲームを始めるデメリットか。テキスト上の説明でNPCとの有効どうがマイナスからスタートするとは聞いていたけど、こんなに深刻なんだね。
「もしもし、そこのお嬢さん」
後ろから声をかけられた。なんか私、背後から声かけられるパターン多くない? 後ろにも目を付けておくべきだったかな?
振り向くと見るからに怪しいローブに身を包んだプレイヤーが裏路地の方から手招きしている。ローブの中で大きな鞄でも背負ってるのか、まるでカタツムリみたいなフォルムだ。
「なになに?」
招かれるまま裏路地に入る。良い子はマネしちゃダメだよ? アニーは悪い子だから良いのだ。
「ヒヒヒ、お嬢さん……カオスルーラーだね」
おお……ヒヒヒって言ったよ! 実際にいう人、初めて見た! この人、RPの民かな。ゲーム内のキャラクターとプレイヤーを別々に考えて、キャラクターの設定に沿って遊ぶプレイスタイルだ。
私は割と素でプレイしてるけど、そう言うのに理解はあるし嫌いじゃないよ。
「そうだけど?」
「もしかして買い物ができずに困っているんじゃないかな?」
「そうなんだよー! どうやったら買い物できるようになるの?」
「店員との友好度を高めて、嫌悪されないようにする必要があるよ」
「どうやったら友好度を高められるの?」
「売買を通して友情を育む事ができるよ」
「じゃあ無理じゃん!!」
もう友好度マイナスだから売買できないよ!!
「ヒッヒッヒッ……そこで、だ。おじさんが特別に君へ装備を売ってあげよう」
「わぁい! ありがとう! じゃあとりあえずレベル5以降も使える外套をくださいなー」
「ヒヒッ……じゃあ2000ンッブフェ!?」
がんっ。
カタツムリおじさんの言葉を待たずに彼の顔を裏路地の壁へ打ち付ける。私の方がレベルも低いし体格も小さいけど、相手は商人ビルドだ。【無慈悲なる者】の効果と合わせれば不意打ちで頭を抑える事ぐらいはできる。
「ねぇ知ってる? 嘘つく時は目線を動かさない方が良いんだよ」
「わっ分かった! 1000っギャッ!」
がんっ。ずりずり。
もう一度カタツムリおじさんの頭を壁に打ち据えて、そのまま壁で摺り下ろしながら裏路地のもっと奥へ移動する。
「んー、もーちょと声のトーンを落とした方が良いかな?」
「なっなんでっっ怪力」
裏路地の壁にカタツムリおじさんの頭が削られていく真っ赤なダメージエフェクトが一直線に描かれる。
綺麗だね。
「かつてアメリカ大陸に存在した原種バイソンに関する生物学的特徴の論文って読んだことある? 私もさっき必要に迫られて目を通したんだけどね、前足の骨格と筋肉の接続が面白くって……まぁ、それはどうでもいっか」
「わっわかっ! 定価で! このま、ロス……」
私は気がついてしまった。お店で買えなくたっていい。トンデモ転売やろうしか売ってくれる相手が居なくたっていい。
「んーん、もうちょっとで手に入りそうだからやっぱりいーらなーい」
アイテムを手に入れる手段は、他にもあるじゃん。昨日、私が自滅した時だって、ヨイニが全部拾い集めてくれた。
ずりずり……ガリガリガガガ。さっきまで必死に抵抗していたカタツムリおじさんから糸の切れた人間の様にガクリと力が抜ける。
「アハ……アハハハ、キャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」
ああ……これは、ダメだ。中身の無いNPCとは比べものにならない。生き物を壊した感触がこの手と心に伝わってくる。
「あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁぁあああぎも"ぢい"ぃ"ぃ"ぃぃぃぃ脳から何か出るぅぅぅうぅうううるるぅぅぅ!!!!」
っと、危ない。あまり興奮しすぎるとセーフティが発動しちゃうね。
「レベルアップしました。称号、【キラー】【サイコキラー】【外道】を獲得しました。レベルアップしました」
ゴブリンの時は気が付かなかったけど、アナウンスされてたんだね。所持品は……さっきの人、やっぱり商人だったんだ。初心者のカオスルーラーを狙ってるだけあってしょぼいけど、今の私には十分すぎる報酬だね。
そう。
買えないなら、力で奪えば良い。だってここは、欲望を縛るルールも、自分の身を守ってくれるルールも無い。
「どこまでも公平で、どこまでも不平等な世界……」
AIが教えてくれた、この世界の真理だ。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます!
是非ともブックマークして頂けたら嬉しいです。もしも面白いと感じて、この作品を選んで頂けたらこれほど励みになることはありません。
いつも応援ありがとうございます、本当に励みになっております。