戦いの果てに
(さっきと同じシチュエーションこれならまた、私の勝ち)
(このままだと負ける、考えろ考えろ)
ゼルの一の太刀の正体。それは強烈な突きである。しかも繰り返し行っていた動作のためかなり早い。だがゼルはまだ人を殺す程の確かな決意は持っていない。だからこそ、剣の柄を利用したのだ、だが、そのせいでリーチに差ができてしまう。それにより先ほどは負けてしまった。つまりこのままいけば敗北は必然だった。
「勝ったこれで終わりだ」
「これだ」
その瞬間ゼルは素早く、そして力強く踏み込む。それにより突きはさらに加速する。
「ぐはぁ」
剣の柄が、メイルにぶつかる。メイルの剣はゼルに届くことはなかった。そしてメイルはゆっくり倒れた。
「私は、勝たなきゃ存在する意味なんて無い、だから立つの、立つんだ」
頑張ってもがき立とうとする、メイルにゼルは近づいていく。そして剣を振り下ろそうとする。
(あ、だめだ、私がみんなにやったように傷をつけられるんだ)
そして剣は振り下ろされる。メイルは目をつぶった。だがいつまでたっても痛みはこない。そして恐る恐る目を開けた。
「どうしてやらないの」
「俺はお前に傷つけられる気持ちを味わって欲しかっただけなんだ。他は望んでない」
情けをかけられたことに、メイルは怒りを感じる。それと同時に完全敗北も認めた。
「降参します」
「試合終了、ついに無敗の女王に傷をつけたものが現れた、その名もゼル・ベルゼリオンだーー」
観客は思い思いに歓声や、罵声を浴びせたりした。だがゼルは相当消耗していた、なのでそこでゼルは意識を離す。
「俺いつも気絶してばっかかよ」
そしてゼルが目を覚ましたのは、闘技場の急患室のベッドの上だった。
「おう起きたか、ゼル」
「鈴蘭」
「私もいますけどね」
「アイラ」
そこからエルも、アイも部屋に入ってきた。
「もう本当に心配しました、途中止めに入ろうかと思っちゃいましたよ」
「悪い悪い」
みんなから無茶しすぎなどの言葉を嫌というほど受けた。それは鈴蘭にも言えることだと思うが、なぜこいつまで俺に説教をしているのだろう。まあ、今回は鈴蘭のおかげで勝てたのだからいいか。
「鈴蘭」
「なんじゃ」
「お前のおかげだよ」
「なんじゃ急に、気持ち悪い」
本当に鈴蘭が相棒で良かったと思う。
「まあ、でも約束守ってくれてありがとうなのじゃ」
少し照れくさそうに鈴蘭笑いながら言った。そのあとは、みんなで他愛もない話をした。
「みんな帰っちまったか」
誰もいなくなった病室はなんか寂しかった。
「友達が多くて良かったね」
ふてくされたような声が聞こえた。前を向くとそこにはメイル姫がいた。
「これはどうもメイル姫」
「メイルでいいよ、試合中はそんな感じだったし」
「ああ、そんじゃメイル何でここに」
「私に勝った奴の面を見に来ただけだよ」
そこから少しの沈黙が続く。そして意を決したようにメイルが話す。
「今度は負けないから、それじゃ」
そうして足早にメイルは、走り去っていった。
「ちょっとゼル、今のはメイル姫だろ、なんかされたりしてないか」
「心配すんなよ、アイ、なんもされてねえから」
「ああそれなら良いが、かなり危ない人だから」
「大丈夫だよ」
「何で」
「そんな気がするから」
アイは不思議そうにこちらを見つめる。だがゼルはメイルの心の何かが変わっていることが分かった。彼女からは、何故かいつもとは違う、暖かい雰囲気が感じ取れたから。




