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無能魔法士の復讐   作者: 宮田悠保
第一部
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第5話

 翌日、シバは図書館で教官が来るのを待っていた。それは一時間ほど前に起きたあることがきっかけである。



~一時間前~

「ではこの時間は二日後に行われる学院基礎戦闘大会の概要説明を行う。」

 例のごとく艶のある黒髪の女性教官が教壇に立ち説明を始めた。

「このリャポニヤ国の魔法学院では毎年一回学年別基礎戦闘大会と呼ばれる大きなイベントがある。ここでは主に二つに競技が行われる。一つは全員参加の一対一の戦闘、そして五人一組による学年問わずに戦う集団戦闘の二つだ。ちなみに後者の五人組についてであるが選出方法はクラスで話し合っても良し、教官に委ねるのも良し、となっている。ただし後者の集団戦闘に関しては出なくてもよいが最低でもクラスで一組は出場しなくてはならない。ここまでで何か意見はあるか?」

 女性教官が説明すると一人の男子生徒が挙手して言った。

「集団戦闘に関して僕たち魔法科の一年は講義を受けていないのですが。」

「そうだ、まず、お前たち一年は集団戦闘に関する知識がない状況で上級生と戦うのだ。これはこの学院の伝統であるそうだ。この大会の後に集団戦闘の講義を受けてもらうことになっている。」

 その後口々に意見が飛び交った。というよりはほとんど文句に近かった。

「何も知識のない状態で知識のある上級生と戦いなんていくら何でもおかしいし、効率が悪いと思うのですが。」

 眼鏡をかけいかにも優等生な女子が言った。

「勝てるわけない戦闘のために練習時間とられるなら集団戦闘には俺は出ないわ。一対一の戦闘に向けて訓練するわ。」

「俺も。」

「私も勝てる可能性のある方の練習したいー」

 クラスのほぼ大半が集団戦闘に出ないと言い出した。

 教官も特に口出しするわけでもなく黙ってその様子を見守っていた。だが教官の表情から何か思惑があるようだった。

 シバはこの時集団戦闘に関する教官の様子から何か違和感を感じていた。

(わざわざ何も経験がない中で集団戦闘を行わせるには何か学院側には意図があるようだな。だからあえて教官は何も言わずに静観しているのか。)

 クラスが騒がしくなる中シバだけがこの違和感を感じ取って顔をしかめていたことに教官は気づき教官は少し頬を緩めた。

「フッ、、」

(けどまずこの違和感について考える以前に俺は弱いからこの違和感の正体をつかんだとしても何か戦況が変わるわけじゃないんだよな。どうすれば戦えるようになるか考えることが先だな。やっぱりそもそも俺には魔法で対抗できるほどの魔力がないから戦えないことだな。逆に言えば魔法を除いた戦闘なら十分に戦える可能性があるってことだ。放課後図書館に行ってアイに聞いてみよう。)

 その時おもむろに女性教官が口を開いた。

「言い忘れていたがこの大会では成績によりポイントが付く。勝ち進めばその分ポイントを加算できるが負けるもしくは戦わないなどがあればポイントは加算されない。この大会で最低点だった者は退学となるから気をつけろ。」

 再び教室は生徒たちの声で満たされた。

 しかし、先ほどとは違い少し安堵したかのような、誰かを蔑むような嘲笑へと変わった。

「それならうちのクラスに退学決定の奴がいるじゃんかよ。教官もし最低点者が複数いた場合はどうなるんですか?」

 一人の男子生徒が言った。

「それは、最低点者による一対一の戦闘によって負けたもの一人が退学となる。」

 教官の答えを期待していたのかクラスは再び安堵、そして一人の生徒への哀れみ、蔑みへと変わった。

「分かりましたー、」

 彼の返事は明らかに自分が退学になるはずがないという自信に満ち溢れていた。むろん彼だけではなく、クラスのほぼ大半がそう確信していた。

 ゆえに教室のいたるところからクスクスと笑い声が聞こえてきた。

「では、五人組についてであるが出場したいというものはいるか?」

 教官の問いに答えるものは一人としていなかった。それもそのはずである。自分のクラスに確実に退学になるであろう生徒がいる中でわざわざ効率の悪い集団戦闘の訓練に時間を割こうという者はいないのだ。

 それより一対一の戦闘でより多く勝ちポイントを稼ごうとするのが妥当であろう。教官もこうなることは想定済みだったのか顔色一つ変えることなく言った。

「了解した、誰もいないということは私が決めるということでいいんだな?」

 その時ある女子生徒が言った。

「教官、その5人の一人にシバを入れるのはどうでしょうか?」

「それはなぜだ?」

「シバは明らかに能力に欠けこの大会で少しでも多くポイントを稼ぐ必要があると思いますし集団戦闘で多くの相手と戦うことで少しは強くなれると思うからです。それに、、」

 彼女はシバの方をちらりと見て薄気味悪い笑みを浮かべながら続けた。

「それにこれまで一緒に学んできた仲間が一人かけてしまうのは皆嫌ですし。」

 彼女の発言は明らかにシバをあざ笑うものでありクラス中を笑いの渦に巻き込んだ。さすがにそろそろ何か言おうとシバが口を開こうとした時それよりも早く教官が口を開いた。

(いつからお前はそんなに偉くなったんだよ、)

 声に出さずともシバは内心悪態をついた。

「ではシバが集団戦闘に出場するとして他に誰が出場するんだ?お前か?しかしその様子からするに誰もシバと集団戦闘に出るつもりは毛頭ないといったところか。シバお前はどう思う?」

 急にシバに話が振られた。

「急にそんなこと言われても、クラスの反応見れば誰も俺と組む人なんていないでしょう。だから五人そろいませんので僕じゃないほうがいいと思いますよ。クラスで一組は出ないといけないんでしょう?」

 シバの発言を聞いたクラスには鼻で笑う者、口を押さえて笑いをこらえる者、等々様々な反応を示したがいずれもシバを馬鹿にしたものである。

 シバもこれに関してはさすがに頭にきたがギリギリのところでこらえた。

「それもそうだが出場してくれるという者がいないんだ。例外なのだが集団戦闘に五人で出場するところを一人で出場するということが例外として許されているのだがシバ、どうだ?」

 パレク教官はいたって真剣な表情で無理難題を言った。 

「いやいやいや、さすがにそれは厳しすぎるでしょ!その例外ってめちゃくちゃ強い人のためにあるようなものですよ!」

 当然のごとくシバは出場することを拒否したのだがこのクラスにシバに言うことに耳を傾けるものなど教官を除いてほとんどいない。

 そこからは本当にひどかった。教官がいるにも関わらずシバへの誹謗中傷が飛び交った。

「なんかそれ面白そうだな。」

「クラスみんなで応援するよ。」

「けどどうせ勝てないから一人で出場してもあんまし意味なくね?」

 クラスの生徒が皆口々に言った。

 集団心理というものだろう。大衆に混ざることで個人のモラルは最低レベルにまで落ち道徳性の低下がみられるという。また暗示にかかりやすくなり正しい判断ができなくなり心理的な感染が顕著にみられるということだ。

 この集団心理が世に言う『いじめ』の根幹ともいえる。まさに今シバに起こっている状況そのものが集団心理が体現されたものなのである。

 さすがに教官もこれには顔色を変えた。

「おい、黙って見ていれば!言っていいことと悪いことの区別もつかんのか!今すぐ黙れば反省文程度で目をつむるがこれ以上やったら厳罰の対象とするぞ!シバも気持ちはわかるがここは押さえろ。お前も処罰対象になるぞ。」

 教官に言われクラスは静まり返ったがシバの怒りが静まることはなく沸々と今日までのシバへの仕打ちも含め怒りは増大していった。


 シバの中で何かが弾けたようなそんな感覚があった。


 次第にシバの体の奥底からドス黒く、禍々しいものが全身に通った。まるで血管の中を流れる血液が赤から黒へと変わるようだった。


 うっすらと黒く禍々しい湯気のようなオーラがシバ体からにじみ出ていた。


 シバの異変を感じたクラスのだれもが一瞬凍り付いた。


 そしてシバが左手を持ち上げるとシバの手には黒に近い紫色の光が纏った。


 シバの左腕が振り下ろされた。物凄い轟音と衝撃が教室全体に響き渡った。


 教室の机は隅へと吹き飛び窓ガラスはすべて割れた。


 さらに教室の壁の骨組みが露になるほど損傷した。

 

 この教室だけが廃校となっているようだ。


 シバの席は教室のほぼ真ん中に位置していたがシバを中心にして円形に教室の床が抉れていた。


 まるで隕石が落下した後にできるクレーターのようだった。

 

 抉れた床にはかすかに先ほどのシバの左手の光と同じ禍々しい炎が残っていた。


 教官はとっさの判断によりクラス全員防御魔法で守ったが教室のありさまを見て驚きを隠すことはできなかった。長い沈黙が続いた。


 「全員怪我はないな、シバお前は厳罰に処するつもりだ、この後今すぐ教官室に来い。他の者は別の教官を呼ぶからその教官に従え。あと言っておくが、これはお前たちが原因でもあるからな!」

 教官は生徒たちに怒りをあらわにした。そして我に返ったシバを連れて教室を後にした。

 それからは騒ぎを聞きつけたほかの教官がやってきて生徒たちに事情を聞き教室の修繕と次の講義の準備に取り掛かった。

 「とりあえず、お前は気持ちを落ち着かせろ。図書館にでも行ってこい。私は色々準備をしてくるから。それが終わったら図書館に向かうからそれまで待ってなさい。」

 そう言ってシバと教官は別れシバは図書館へと向かった。


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