第29話
薄暗い中、階段を下りていくと徐々に明るくなっていった。同時に騒がしくなってきた。
「おら、さっさと運べ!お前らは休む場所と食事が用意されているだけましだろうが!」
男の怒号が地下に響き渡る。
「これは、一体、、」
「ここは奴隷地区だよ。シバも知っている通り人間は魔族のことを嫌悪しているがその次に嫌悪している存在、そう亜人だ。」
今この地下で亜人たちが強制的に労働を強いられているのだ。よく見ると全員が首輪をつけられている。その首輪には魔法陣がありそれが奴隷としての証なのである。老若男女問わず皆与えられた仕事をこなしていく。子供や年寄りはある植物の栽培を行い、大人はタンクのような機械から伸びた20本ほどの管に交代で腕を入れていた。自分の番が終わった者の顔色は悪く地面に膝をつき苦しんでいるが首輪の魔法陣が光り強制的に立たせる。これの繰り返しである。
「子供たちが栽培している植物は薬草や回復薬、そして違法な薬物の原料となるものだよ。あっちのタンクみたいなのは魔力を吸っている。全魔力の8割の魔力を吸って亜人たちから魔力を集めているんだ。」
「8割って危険な状態じゃないですか、」
「だから首輪で強制的に回復させて何度も魔力を吸わせるようにしてるのよ。」
「そんなことしたら体が壊れてしまいますよ、それになんでこんな地下に?学院のある王都では路上で奴隷として働く亜人も多くいたのに。」
「過去に一度亜人たちによる反乱があったんだ。その影響は都市全体に広がり多くの商人、富裕層の人間から犠牲者が出た。だから奴隷を地下に送りより厳しい労働を強いるようにしたんだ。」
「そうか、亜人たちの反乱でポリスへ商人がやって来なくなり物の流通がストップして都市全体の経済が低迷してしまうのを防いだのか。」
「まあ、あえてもう一つの理由を挙げるとしたら単純に王都とポリスに暮らす人間の格差っていうのもあるね。」
「格差って王都の人間は富裕層が多くポリスはあまり富裕層が多くないってことですか?」
「うん、王都には富裕層がいっぱいいるよね。それに奴隷って言ってもかなり高額で取引されているから奴隷を連れてるってことはそれなりの資産があるってことを周囲に見せつけられる。王都にはそう言う自己顕示欲の塊みたいな人間が多いんだよ。」
「だから事実上地下に幽閉してるってことになるのか、」
「その通り、でもこれはねこのポリスという都市のビジネスにも関係しているんだよ。」
「ビジネス?」
「そう、子供たちが栽培していた植物類はすべて他の都市に輸出される。その代わりに奴隷として亜人が連れてこられるんだ。そしてその仲介をしている奴隷商の男の名がレオポルド・スラベだ。」
するとそこへ先ほど怒鳴っていた小太りの男のもとに一人の男がやって来た。
「やあやあ調子はどうですか?エルゴドーティス君。」
「これはこれはレオポルドさんお久しぶりです。今日はどうしてこちらに?」
「いつも通り視察に来ただけですよ。うちの“亜人たち”がきっちり仕事をしているかをね。おや?いつもよりも植物の収穫が少ないようですが?これはどういうことなのでしょうねぇ?それよりも問題なのは、」
レオポルドが魔力タンクに目を向けた。20本ほどの管が伸びる先にある大きなつぼ型のタンクには半分の量を示す指標線よりも下までしか溜まっていなかった。
「確か一日のノルマはタンクを満タンにすることでしたよね、お昼を過ぎているのにこの量しか溜まっていないのはおかしいですねぇ。」
「おい!今日この仕事に当たっていた者はここに来い!」
魔力の吸収の一日のノルマを達成できそうになかったため今日の担当の大人をエルゴドーティスが前に集まるように怒鳴りつけた。
「あの黒いスーツに黒いシルクハットの細身の男がレオポルド・スラベ、シルクハットとモノクルが彼の特徴だよ。その隣のさっきから怒鳴ってる太った男がエルゴドーティス。亜人たちの主人ということになっている。」
「あのモノクルがなんか気味悪いですね、それと、気づいたんですけど、亜人たちの中に片腕や片脚のない亜人がいるんですけどまさか、、」
エルゴドーティスに怒鳴りつけられてぞろぞろと20人の亜人の大人がレオポルドとエルゴドーティスの前に跪いた。皆冷や汗を流し怯えている様子だ。周りで他の仕事をしている亜人たちも動揺を隠せない様子だ。
「前にもノルマをこなせないようなゴミはここで生活する権利はねえって言ったよな!おめぇらみたいなゴミには知っての通り罰を受けてもらう。しっかり体に刻んでやるよ。」
「まあまあ、エルゴドーティス君、あまり怒鳴り散らかすだけではだめですよ。」
レオポルドがエルゴドーティスをなだめるように言うと目の前にしゃがみ込む亜人たちを見下ろして言った。
「君たちは人間に魔族と同様に嫌悪され迫害されてきました。そんな中君たちに住む場所と、食事、わずかではありますが硬貨も与えています。その見返りとしてこのように働いているのでしょう?しかし一日のノルマを守れないような者にはそれなりの罰があります。当然ですよね?わかりますよね?」
レオポルドの言葉に周りの亜人たちも手を止めてしまっている。これから起きることがわかるのでもともとひんやりとしていた地下の温度がさらに下がったように静まり返った。
「おら!自分がどうなるかわかってんなら早く行動しな!腕か脚か切られたい方を出せ!」
「ほらほら、またそんな物騒な言い方しなくてもいいじゃないですか。エルゴドーティス君は強引なんですから。ほら君たち急いでください、」
自分の意志で手足を差し出すのはやはりどんな状況であっても躊躇してしまう。20人の亜人たちは中々差し出すことができずにいた。それを見かねたレオポルドが亜人たちよりも早く行動に移った。
「全く、君らは本当にしょうがないですねぇ、」
そう言うと右腕を真横に伸ばした。
するとその先の空中に魔法陣が浮かび上がり中から一本の剣を引き出した。その剣先は赤いオーラを纏っていた。
そのまま剣を亜人たちに向け単純に振り下ろした。他の亜人にはそう見えただろう。しかしマーニとシバには20回剣を振ったのが見えた。20回、つまりレオポルドの前にしゃがみ込む亜人たちの数と同じである。
「「「「ああああああ!ぐあああああああ!」」」」
まさに一瞬の出来事であった。




