第5話
二人と一匹は歩く。
既に太陽は落ち、暗幕に小さな穴をたくさん空けたかの様に光が満面に鏤められている。
行く先が決まっていたら、溜息混じりに感嘆する景色なのだが、目的も何もなく、唯々歩く。
と、言うか、この世界で未だに人を見ていない。
最初に見たのは蜥蜴の人?
ハルシは何故か作れたし、
次は兎(角つき)
「なぁ、ハルシ?」
ハルシはこちらを一瞬振り向くがまた俯いた。
何故か耳が赤い。
小さな小さな微かに聞こえる程度の声で言った。
「私の名前の意味を教えて」
「ん?何?」
全く聞き取れない声に聞き返す。
キッと睨む様にこちらを見据え
「わぁたぁしぃのぉ~ぉ、なぁ~まぁえぇぃのお、いぃぃみぃぃ~はっ!」
口から強大なエネルギーが照射される。
慌てて避ける事に成功し、恐る恐る後ろを見る。
一直線、そう、一直線だ。
何もない景色が続いている。
ギギギと古めかしい扉が開く時の様な音と動きで振り向くと瞳に溢れ零れ落ちる雫が一条
つぅと、流れ落ちた。
思いつきだけで付けた名前だが、ハルシの顔を見るととてもではないが言えない。
呪われる程度で済むはずがない。
「か、、」
「か?」
ハルシが聞く。
「か、、、」
「か、、、?」
真横に首をコテンと、音がしそうな感じに傾げるハルシ。
誤魔化すしかない。背中に冷たい物を感じる。
兎はその場でその小さな体を一層小さくしてガタガタと小刻みに震えている、、、
か、から始まる言葉で誤魔化せる言葉を探す。
「ハルシ、自分の姿を見ていないだろう?」
小さくても良い。何か鏡の様な物は無いか?
現状。今いる場所にあるはずが無い。
さて、賢明な方々はもうそろ私の右手が気になるだろう?
違った。
眼前には、キラキラと輝く薄く小さな円形の何かが浮かんでいる?
良く見ると
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魔法 リフレクション
効果 反射
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ふむ、これでは鏡にならない。何か黒い物は、、、
はい!ここで右手に注目。
何故か黒く持ち手のついた丸い鏡が。
地団駄しつつ、その鏡をハルシに渡す。
ハルシは黒い方をジッと見ながら首を傾げる。
「反対だ」
鏡を上下逆さまにするハルシ
わざとだろ?
キョトンとした顔で、こちらを向くハルシ。
うん、子供の無邪気な顔だ。
澄み切った瞳でこちらを見ている。
「裏返してごらん?」
鏡を裏返し、そこに映る物を見た途端
「かわいい」
ハルシが言う。
「この娘と友達になりたい!」
素っ頓狂な事を言い出すハルシ。
違う物でも映っているのかと疑問を感じその鏡を覗き込む。
そこに映るのは間違いなくハルシだ。
ただし、その小さな鏡を二人で覗き込む状態。
つまりは、顔がくっつく位の距離だ。
勿論、鏡にその二人が映る。
見る間に真っ赤になるハルシ。
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コマンド
謝る
逃げる
飛ぶ
ハルマゲドン
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「ハルシがかわいいから、そのイメージで付けたんだよ?」
コマンドとか突っ込まないからな。
ぼふっ。
溝落ちに頭突き。
さらに両手で腰を締め上げるハルシ。
くの字に曲がる体と、息が詰まり軋む腰。
コマンドを無視してはダメだったか、、、
なんて考えていると、、、
「ありらと」
涙いっぱいに瞳に、湛えながら微笑むハルシがいた。