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一人、ファミレス

作者: 和の心

ミヤザワコウスケさんとテーマを決めて書いた作品です!

テーマは「ファミレス」です!

今後も書いていく予定なので応援よろしくお願いします!

 今、私はファミリーレストラン、通称ファミレスの目の前にいる。


 私が入る事を躊躇しているのは店内が混んでいるからではなく、お金がないという理由でもない。寧ろ店内は空いているし、一食だけにしては十分過ぎる程のお金を母親からもらっている。


 それでも私がファミレスの入店まで行く事ができない理由は



 私が現在たった一人であるから。



 ファミレスと呼ばれているこの種の店は一人で入る事が許される場所なのだろうか?


 いや、入店拒否される事はないだろうが……

 私は女子高生だ。花の女子高生だ。JKブランドなのだ。一人でファミレスに入店する女子高生とは社会的に見てどうなのだろうか?


 そりゃ気にせず入店してもいいとは思うのだが、如何せん初めての一人での外食。孤独のグルメだ。

 店の目の前まで来たはいいが一人で入店というのが想いのほか気恥ずかしくなった。


 まず入った瞬間にお一人様ですかと聞かれる事がもう照れくさい。


 お一人様ですけど何かという顔が私は出来ないだろう。間違いなくキョドってしまう。


 「お一人様ですか?」「うっふ」となる。


 花の女子高生とは……これではゴリラである。


 料理を決める時間、料理を待つ時間、料理を食べる時間、私は一体何をしていればいいのだろうか?


 まあ、料理を決める時と料理を食べる時は料理を決めて食べてろよって感じなのだが、南無さん、常に誰かと話ながら料理を決めて、食べている私だ。


 やっぱり孤独だ……


 何とも寂しい世界だな。ファミレスのあの大人数ようの大きなテーブルに私が一人。まるで広大な荒野に一人取り残されたようではないか。


 実際は店員さんも他のお客さんもいるから大袈裟だけど……まあ、他人がいるからこそ余計にいたたまれなくなるんですけど……広大な海の鰯の群に迷い込んだ一匹の鰆である。あるいは101匹のワンちゃんに紛れた一匹のフェレットだ。もしくは、本屋で日本の純文学が並べられた棚に一冊だけ入れられた英和辞典。もっと言えば…………いや、もう辞めておこう。


 そもそもファミリーレストランという名前も悪い。そんな家族と和気あいあいとするのが前提の名前というのはいかがな物だろうか。飲食店でいいだろ飲食店で。せめてレストランだけでもよかったのでは?

言っても仕方がないけど。例え飲食店と呼ばれていても関係なく躊躇していただろうし。虚しいしお腹が空いたし……


 というか店を変えれば問題は解決するんじゃ?


 ファストフードなら持ち帰ればいいし、コンビニでも同様か……


 うーん……しかし、それでは何か負けた気がする。


 目の前に壁が立ち塞がったからといって、それを乗り越えずに、回り込んだり、抜け道を使っていては結果だけ得る事が全ての過程を顧ない人間になってしまう!


 んーまあ、ファミレスに一人で入る事が出来たって過程があったからどうなんだって話だけど。


 というか、かえって一人って気まずさを感じながら食べる結果が生まれそうで、この壁を乗り越えたからといって見返りがない……どころかマイナス?


 あれ?もしかして入店するメリットない?


 いや、まだだ。まだ、私の中の逆転の火種は消えていない。諦めるな。

 ここまで来れば意地だ。一人で入ってやろうじゃないか。


 ただもう一押しが欲しい。誰かに背中を押して欲しい。私に一粒の勇気をください。


 とは言っても、さて誰に相談するべきか。友達……は馬鹿にされそうだし、親は……忙しいか。


 あ、そうか、どうでもいい相手がいたか。




 ――――。



「もしもし兄貴?」


 私にとってどうでもいい相手、5つ歳が離れた兄貴である。


『急にどしたの?』

「私に勇気くれない?」


『ふむ……何があったか、これから何があるのかは知らないけど……いいか?俺が今から何を言ったとしてもお前には実は関係ないんだ。最終的に自分を信じる事が出来るか重要なんだ。それを踏まえて……』


「いや、兄貴……別にそんな重要な相談じゃない」

『何?そうなの?』


「えっと、兄貴は一人でファミレスに行く人ってどう思う?」

『一人ファミレス?別に普通だろ。俺もけっこう行くし』


「兄貴が行ってるかはどうでもいいの。女子高生が一人で行くのをどう思うかって話よ」

『お前の話かよ。別に女子高生でも、誰が一人でファミレスにいても気にならねえよ。あ、いや小学生が一人でファミレスにいたら気になるけど』


「でも、私って花の女子高生なのよ?」

『花の女子高生ってお前……中身が男じゃねえかよ』

「中身に言及するのはやめて」


『で?ファミレスだっけ?』

「そうよ」


『何が恥ずかしいのか俺にはわからねえな。普通にいるぜ?お前みたいな年頃の子が一人でファミレスで食べてる子』

「本当に?」


『いるいる。大体そんなに一人が嫌なら今から俺がいってやってもいいぜ?』

「兄貴と二人でファミレスに行く方が嫌よ」

『そうかよ……ま、その気持ちは一人で店に入れない気持ちよりもわかるけどよ』


「つうか兄貴は何で一人で恥ずかしげもなく店に入れるのよ?」


『恥ずかしげもなくって……お前は要するに一人ってのが恥ずかしいんだろ?俺は別に一人でいる事を何とも思わないからな。周りの目なんて気にするだけ損ってもんだぜ?花の女子高生かなんだか知らねえけど肩書きばっか気にして窮屈な生活してたら人生面白くないだろ?』


「別に人生とかそんな壮大な話はしてないわ」

『一緒だよ。人生もファミレスも』

「嘘ね。流石に言い過ぎでしょ」


『ま、そうだな。ただ、そんな一人ファミレスなんてどう見られるかなんて考える時間は間違いなく損だろ?時間の損は人生の損とほぼ同義だぜ?」

「…………」


『それにお前は俺の妹なんだぜ?万年クラスのつま弾き者、孤独のランチ、余り1、相棒が先生、永遠の寡黙、カースト圏外、と呼ばれた俺の妹なんだから一人の素質がない事はないだろう』


「兄貴がそんな感じだったから私が必要以上に一人を恐れているのは絶対あると思うんだけど……私はあんたの二の轍は踏みたくないの!」


『ま、俺は好きで一人だったからな。強がりでも何でもなく。お前が俺と同じじゃないってのも理解してる。それを抜きにしても一人で飯を食う事ぐらい気にする事じゃないって話だよ。全然、周りからしたら大した事件でも出来事でもない。女子高生が一人で飯食っていたからって世間が騒ぐわけないだろ?』


「確かに……」


『まあ、初めては何事も緊張するだろうけど、経験するってのが大事。これからお前にどうしても一人でファミレス行かないといけないって事があるかは知らないけどな。まあ、慣れといて損はないさ』


「うん、わかったわ。ありがと兄貴。勇気出たわ」


『あ!でも勇気はな!さっきも言ったけど自分を信じ……』



 ま、あと一押しはこんなもんか。兄貴にしては、まあ、まあまあと言った感じかしら。


 確かに、みんなと御飯食べる時って、話に夢中になって食事に集中出来ない事が多かったし偶には誰の事も気にせずに食材の味を楽しんでもいいかもしれない。


 ただのファミレスでそこまで味わう必要があるのかは疑問だけど。


 兄貴の言うとおり、周りの目を気にし過ぎても仕方がないし、それに、兄貴ほど孤独にはなりたくないが、何時でも誰かが傍にいるなんてありえない。今回はいい機会なのかもしれない。


 今回のは私が孤独を克服するために用意された壁なのかもしれない。


 誰かが言ったらしいじゃないか。神は超えられない壁を作らないと。このくらいは私にだって超えられるという事だ。


 ……ホント、兄貴みたいなのには段差にすら感じないような壁なんだろうけど。


 まあ、他人は他人で私は私。まだ少し緊張するが決心した今のうちだ。

 




 ――彼女が店の入り口の扉をそっと開けた。


 しかし、そっと開けたにも関わらず無常にもセンサー式のベルは彼女を捕え店員に彼女の来店を告げる。


 少しビックリした彼女であったが、しかし、すでに一人で夕飯を食べる決心はついている。まだ緊張するものの顔には出す事はなかった。


「いらっしゃいませー!」


 少し奥のほうからホールを担当しているアルバイトの女性が彼女を出迎える。

 感じの良さそうなお姉さんが接客だった事に彼女はほんの少し安堵するが


「お一人様でしょうか?」


「うっふ」


 彼女の予想通りの幕開けであった。

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