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侯爵の決断


 これしか方法はない。


 私はそう結論を出した。

 我が家は侯爵家。

 代々続く由緒正しき名門だ。王家の剣になり、盾になり忠実に守ってきた。それは今までもこれからも変わらない我が侯爵家の在り方だ。


「嫌です! 父上の意見には従いません」


 硬い表情で私の意見を否定するのは長男だ。妻に似て優しい顔立ちをしており、女子供には人気があるようだがそれでは侯爵家の後継者としてはいただけない。強く反発されて、不機嫌に眉を寄せた。


「父上、僕も間違っていると思います」


 長男の隣に立つ次男が私を睨みつけていた。こちらは私に似て少し厳ついが、男子ならばこれぐらいでちょうどいい。今は見習いであるが数年もすれば立派な騎士になれるだろう。


「お前たちの意見を聞いているのではない。決定事項だ」

「しかし……!」


 長男が珍しく声を荒げた。優男だと思っていても反抗すればそれなりになるものだと、どうでもいいことを思いながら話は終わりだと告げる。


「父上、それは本当に王家のためでしょうか!」


 鋭く発したのは次男。痛いところを突いてくる。このことが王家のためかと言われれば、疑問に思うのも不思議はない。もしかしたら、とんでもない秘密を抱えることになる。だが、現段階ではこれが最上の選択である。


 ぐっと拳を握りしめた。私だってこのような手を使いたいわけではない。他にいい方法があるのなら、教えてほしいぐらいだ。


「父上は最低だ。王家のためであれば、我が子を犠牲にするのですか」


 長男も厳しい声で私を非難した。

 重苦しい沈黙が部屋を支配した。どのくらいそうしていただろうか、唐突に私は力を抜くとふっと息を大きく吐いた。


「これしか手がないのだ。わかってくれ……」


 2人の息子に詰め寄られ、私はとうとう弱音を吐いた。

 息子たちの成長を嬉しく思う。私の間違いを正し、諫める気概はこれからの彼らにとって必要な心だろう。だが、我らは高位貴族なのだ。清いだけでは国を回すことはできない。誰かが汚れを引き受ける必要があるのだ。


 若いながらも高潔な気持ちを持つ長男、正しいことを貫く気持ちを持つ次男。

 次世代を担う若者の美しい気持ちは眩しい。だがいつか。いつかは気が付くときがくる。輝きは闇があってこそだと。その闇を担うのもひとつの忠義なのだと。


「……父上が王家のためだと思って決定したことだと理解はしています」


 長男が静かな口調で話し始めた。私はじっと長男の言葉を聞いていた。


「ですが、あの子を王太子の後宮に差し出すことが正しいとは思えません」

「何故だ? 本人も理解している」


 頑なな長男に聞いてみた。


「それが問題だとどうして父上は理解できないのですか!」


 次男がしびれを切らしたように怒鳴った。私はその無作法に顔をしかめた。


「我が侯爵家の後ろ盾のある妃がいれば王太子の基盤もより強いものになる。国がこれ以上乱れないためにも必要な措置だ」


 そうだ。これ以上の混乱はこの国に必要ない。寵姫の産んだ第一王子の失脚と共に王妃を母に持つ第二王子が王太子となったのだ。第一王子についてはもはや語る必要ない。ただの甘やかされた子供だったという事だけだ。政治的な背景がわかっているだろう長男はそれでも納得しきれない顔をしていた。


 私は少し軽い調子で言葉を続けた。


「なあに、エメリーを正妃に据えると言っているのではない。第一側室にすると言っているのだ」

「ですから! エメリーは男なんですよ! いくら見た目が母上そっくりでそこらの令嬢よりも美しいからといっても女ではないのです」


 長男が叫んだ。私は耳をふさいだ。


「そもそも王太子とエメリーは仲のいい友人同士ではないですか。それを……」


 次男も怒っているのか握りしめた拳が震えている。


「そうは言うけどな。王太子も国のためだから問題ないと快諾したぞ。エメリーは王宮に上がるときはいつもドレスを着ていて男とは思われていない。本人も王太子のためになるなら受けてもいいと言っている。実に美しい友情だな」

「ああああ! そもそもそこが間違っている!」


 長男が吠えた。がりがりと髪をかきむしっている。それ以上かきむしると将来禿げるから後で注意しなくては。


「何が問題だ? 私は個性を大切にしたいという信念のもとお前たちを育ててきたのだぞ」


 三男の性癖が一般的にはおかしいことはわかっている。だがそれ以外はとてもいい子だ。王太子を友として大切に思っているし、まだ14歳ではあるが国のためだときちんと理解している。性癖など些細なことだ。


「父上……」


 がっくりと長男が項垂れた。


 ふふふ、私の勝ちだな。

 エメリーには褒美におねだりされていたドレスでも作ってやろう。

 満面の笑顔で嬉しそうにする三男を思い、思わず笑みがこぼれた。




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