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占いガール  作者:
星座占い
9/41

ニアミス


「先生、出来ました」

その声に、膝の上の本から顔を上げる。


「じゃ、採点するね」

ここの所、涼香ちゃんの小テストは満点が多い。

最近は引っかけ問題も難なく解いてくるので、今まで伸び悩んでいたのは勉強の仕方だったんじゃないかと思う。


「は~い」

笑顔で足の間に両手をついて、椅子に座ったままくるくるとその場で回る辺りは、まだ小学生だなと、微笑ましい。

赤ペンで採点を行いそうながら、次はレベルアップした問題を作らなきゃと考える。

涼香ちゃんは、元々頭が良いからきちんと教えればそれを吸収してくれる。

教える側としては、凄くやり易い。


「よし、満点だよ。今日も調子いいね」

大きな花丸を最後に付けて、プリントを返す。


「やった」

ガッツポーズをして嬉しそうに笑う涼香ちゃん。


「今月、ずっと満点だった涼香ちゃんには、私からご褒美だよ」

用意していたプレゼントを鞄の中から取り出して、涼香ちゃんに差し出した。

この間、紀伊ちゃんと買い物に行った時に、雑貨屋で可愛い髪飾りを見つけて買っておいたんだよね。


「ありがとう、先生。開けていい?」

目を輝かせて手元のプレゼントを見つめる涼香ちゃん。


「うん。高いものじゃないけど、良かったら使ってね」

そう言って頷くと、涼香ちゃんは笑顔で包装を解いていく。


「わぁ、可愛いバレッタ。先生、ありがとう」

涼香ちゃんにあげたのは、パステルカラーの花飾りのついた銀色のバレッタ。

長い髪を止めるのに、ちょうどいいと思うんだぁ。


「気に入って貰えて良かった」

フフフと笑った私に、

「早速つけるね」

髪を束ねてバレッタを止めた涼香ちゃん。


「似合ってる?」

「うん、凄く似合ってる」

「嬉しい」

手鏡を覗き込んで嬉しそうに笑ってる彼女を見て、買ってきて良かったなぁと思う。


「これからも勉強頑張ろうね」

「はい、先生。あ~塾なんて止めて、毎日先生に来てもらいたい。先生の教え方凄く分かりやすいんだもん」

そんなに慕って貰えると嬉しい。


「毎日は無理かなぁ」

他のカテキョもあるし、コンビのバイトもあるしね。

それに、毎日なんて来てたら北本先輩に遭遇する確率が増しちゃう。


「だよねぇ。お兄ちゃんも毎日は出掛けてくれないもんなぁ~」

涼香ちゃんは不服そうに言う。

鋭い涼香ちゃんの言葉に内心ギクッとした。


涼香ちゃんはカテキョの日は静かに勉強したいからと、北本先輩に遅く帰ってきてほしいってお願いしてくれたらしい。

よほど、私と会わせたくないのか、お陰で助かってる。

北本先輩も、可愛い妹の頼みは聞くしかないもんね。


「涼香ちゃんはお兄さん、嫌いなの?」

ずっと気になってた事を聞いてみる。


「ううん、好きだよ」

意外な返事に目を丸くする。

あんなに、女ったらしだとか言って怒ってるのにね。

まぁ、兄妹だもんね。嫌うことはないか。


「お兄ちゃんの生活態度が嫌い。涼香の事は可愛がってくれるけど、変な女の人ばっかり連れてくるし、会うたびに違う人だし」

本当やだ、と溜め息をついた涼香ちゃん。

思春期の女の子には、北本先輩の行動は理解できないんだろうなぁ。


北本先輩、遊びを家に持ち込んじゃダメだよ。

可愛い妹に、本当に嫌われちゃうよ。


「そっかぁ、それは嫌だね」

「うん。いつか、お兄ちゃんを真っ当な道に戻してくれる彼女が出来たらいいなぁ」

「彼女は良いんだ?」

「不特定多数じゃなきゃいい」

「フフフ、確かにそうだね」

「先生みたいな可愛くて優しい人だったら、もっと嬉しいなぁ」

涼香ちゃんの望みは叶えられないなぁ。


「見つかると良いね。そんな人」

「うん。今のお兄ちゃんには先生を会わせられないもんね。先生が遊ばれちゃうとか嫌だもん」

今時の小学生はそんな事も知ってるんだね。


「ハハハ」

乾いた笑いかけたあとが漏れた。

なんて返していいのか分かんないよ。


「でもね。涼香とお兄ちゃん、半分しか血が繋がってないんだぁ」

足をぶらぶらさせながら呟くように言う涼香ちゃん。


「そ、そうなんだ」

「うん。お兄ちゃんのお母さんは、お兄ちゃんを置いて男の人と出て行ったんだって」

ダークな話になってきたな。

涼香ちゃん、出来ればお家の内情はあまり話さない方がいいよ。


「へ、へぇ~」

反応に困る。


「お兄ちゃんが女の人に執着しないのはそのせいなのかなぁ」

「・・・・・」

私にどう答えろと。


「ママに置いていかれたら、涼香だったら泣いちゃう」

「そ、そうだよね」

「お兄ちゃんも悲しかったと思うんだぁ。自分より男の人を選んだママの事恨むかも」

「・・・・・」

もう苦笑いを浮かべるしかなかった。

ダークな内情は、あまり聞きたく無かったよぉ。


まぁ、状況が状況だから北本先輩の気持ちも分からなくないけど、だからって女遊びに興じるのは違う気がするな。


「お兄ちゃん、ママにもよそよそしいんだよねぇ」

「そ、そっかぁ。あ、涼香ちゃん、そろそろ勉強に戻ろうか」

これ以上、内情を話されると困っちゃう。



「はい、先生」

素直に頷いてくれて良かったぁ。

北本先輩の秘密を意図して聞いた訳じゃないけど、ちょっとモヤモヤした。

あの人にもあの人なりの、言い訳や事情もあるんだな。


「さ、じゃあ、今度は算数ね」

テキストを片手に勉強を始める。

その後は、涼香ちゃんもお家の事を話す事なく、しっかりと勉強に励んでくれたので助かった。




「じゃあ、今日はこれで失礼します」

玄関先に見送りに来てくれた鏡花さんと涼香ちゃんに頭を下げる。


「遅い時間なので、気を付けて帰ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」

「先生、また来週来てね」

跳び跳ねながら、微笑む涼香ちゃん。


「うん。宿題きちんとやっておいてね」

「は~い」

片手を上げて返事した涼香ちゃんは可愛い。


「神宮寺先生、涼香ちゃんに可愛らしいプレゼントをありがとうございました。来週はぜひ、一緒に夕飯を食べていってくださいね」

「大したものじゃないので、お気になさらないでください」

当たり障りない返事を返す。

休憩の時に、飲み物を持ってきてくれた鏡花さんに、涼香ちゃんが私からプレゼントを貰ったと嬉しそうに話した事で、鏡花さんがお礼にと夕飯に誘ってくれた。

今日は都合が悪いのでと断れたけど、来週はどうやって断ろうかな。

夕飯なんてご馳走になってたら、北本先輩が帰ってきちゃうかも知れないし。

そんなリスクは犯せない。


「神宮寺先生こそ、気を使わずに気軽に夕飯をご馳走させてくださいね」

「あ、はい。都合が合えばお願いします」

そう言って頭を下げて、彼女達に背を向けた。

長居して、話が進むのは困っちゃう。


「先生、バイバーイ」

涼香ちゃんの声に、門の所で一度振り返って手を振ると、すっかり日の落ちた住宅街へと足を踏み出した。


はぁ・・・今日も会わずに済んだ。

ほっと一息ついたのも、束の間。

前方に賑やかな集団を発見した。

男女のカップルが二組、静かな住宅街に声を響かせて歩いてくる。

反対側の歩道を歩いてるその集団に聞き覚えのある声がした。


「だから、今日は俺んちは不味いんだって」

女の子を腕にぶら下げた北本先輩だ。


あっちゃ~ニアミス。

このまま、こちらに気づかないでくれたら良いんだけど。

出来るだけ目立たないように俯いて道路の端を歩く。



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