繋がる思い
千尋side
ボーリングの日以来、私の前に姿を現さなくなった北本先輩に、ちょっと寂しさを感じながらも、私は静穏な学生生活を送ってた。
今日だって、紀伊ちゃんと二人で校内のベンチでのんびり過ごしていたんだ。
まさか、北本先輩がやって来て、こんな派手な告白をされるなんて思わなかったよ。
前から軽いノリで好きだとか言われてたけど、目の前の北本先輩は真剣な告白をしてる。
この間の事が気になってなかったのか? と言えば否。
彼女とどうなったのかは、やっぱり気にかかってて。
北本先輩から連絡が来なかったので、それを知るよしもなかった私は、悶々としていた。
告白と同時に、彼女の事が解決した事を知って、ほっとする気持ちもあるけれど。
それを上回る衝撃が私を包んでた。
周囲にはギャラリーと化した沢山の生徒達がいて、私達の一挙手一投足をつぶさに観察している。
真剣な表情で私を見つめる北本先輩。
そんな彼にドキドキしてる私がいる。
「俺、情けない奴だって思われても何度も言うよ。君しか好きじゃない。千尋ちゃんだけが好きだ」
「・・・・・」
「千尋ちゃんを大切にするし、浮気なんて絶対にしない。君だけを愛していくから、どうか俺を好きになってください」
北本先輩のなりふり構ってない様子に、この人なら信じられると思えた。
大翔の時とは違う、高揚していく気持ち。
心の中にあった不安や、葛藤が全部吹き飛ばされたような気がした。
再び頭を下げたままの北本先輩の後頭部を見て、小さな息を漏らした。
あぁ、認めなきゃいけないなぁ。
私も北本先輩が好きだってことを。
「どうする? 千尋。相当厄介な奴に本気で惚れられたみたいよ」
そう言って肩を竦めた紀伊ちゃんは、ちらりと北本先輩を見て苦笑いした。
紀伊ちゃんは、分かってるもんね。
私が北本先輩に惹かれてるってことを。
「北本先輩、顔上げてもらえません?」
「・・・千尋ちゃん」
北本先輩は私の方に手をつき出したまま顔だけを上げる。
「こんな恥ずかしいことされるとは思ってなかったです」
「ご、ごめん」
申し訳なさそうに眉を下げる北本先輩は、捨てられた子犬みたいな顔をしてる。
「でも・・・気持ちは伝わってきました。私のペースで付き合ってくれるなら、いいですよ」
そう言って彼の差し出した手を掴む。
「えっ? ま、マジで」
戸惑い過ぎです。
「冗談で告白したんですか?」
「ち、違う。本気も本気、一世一代の告白だよ」
慌てたように顔を前で手を振った北本先輩は、繋いだ手をギュッと握りしめる。
「痛いんですけど」
力入れすぎですよ。
「あ~あ、ごめん。マジで俺情けない」
「倫太郎君の新しい一面が見られて良かったです」
力の緩んだ倫太郎君の手を握り返して微笑んだ。
せっかくなので、呼び方を変えてみました。
「倫太郎って・・・うわっ、千尋ちゃんの笑顔破壊力半端ない」
そう言った倫太郎君は、空いてる方の手で真っ赤になった自分の顔を押さえて悶絶してる。
女ったらしだった倫太郎君に、こんな純情な一面があるんだって思うと、なんだか可笑しくなった。
「倫太郎君、顔真っ赤ですよ」
「千尋ちゃん、言わないで。俺今、マジで恥ずかしい」
「フフ・・・なんだか新鮮です」
「千尋ちゃん・・・」
そんな捨てられた子犬みたいな顔で見ないでくださいよ。
「なんですか?」
「本気で俺と付き合ってくれるの?」
「冗談でいいんですか?」
「ダメ! それは絶対ダメ。もう君は俺のもの」
倫太郎君は慌ててそう言うと私の手を引っ張って立ち上がらせ抱き締めた。
「「「キャー!」」」
女の子達の様々な悲鳴が周囲にこだました。
ふんわりと私を包むのは、倫太郎君の香水の香り。
慣れていたはずのそれに、ドキドキしてしまった。
両手で私をギュッと抱き締める倫太郎君が微かに震えていたのを知ってるのは、きっと私だけ。
今の倫太郎君なら、信じられる。
「千尋を泣かせるような事をしたら承知しないから」
紀伊ちゃんは立ち上がって倫太郎君を睨み付ける。
「分かってるよ。千尋ちゃんを泣かせない。別の意味では啼かせるかもしれないけどね」
いつもの口調に戻った倫太郎君。
別の意味で、泣かされるのはちょっと困るかなぁ。
でも・・・別ってなんだろう?
「はぁ? 結婚するまで清い関係でいなさいよ」
紀伊ちゃんが真剣に怒ってる。
「さぁね。もう千尋ちゃんは俺のものだからね。紀伊ちゃんの口出しはいらないよ」
「千尋、ダメ。やっぱりこんな手の早い男はダメよ」
紀伊ちゃんが焦ったように私に手を伸ばす。
「おっと、千尋ちゃんは貰ってくよ」
倫太郎君は、私を抱き抱えたまま紀伊ちゃんから距離を取ると、私の手を引いて走り出した。
「へっ? ど、どこ行くんですか」
「二人になれるところだよ」
倫太郎君は嬉しそうに笑うと私にウインクして、走るスピードを上げた。
足がもつれそうになりながら、必死で倫太郎君のスピードについていく。
倫太郎君と繋いだ手は温かくて、胸の奥がじんじんしてた。
この先に何かが待ち受けていても、きっと私は大丈夫。
倫太郎君の手から伝わってくる愛情を信じられるから。
「千尋ちゃん、大好きだからね」
倫太郎君が蕩けそうな微笑みを浮かべる。
「信じますよ、その言葉」
「もちろん、ずっと、ず~っと信じてて」
倫太郎君がどさくさに紛れて私の額にキスをした。
「なっ、なにを」
ポッと赤くなった頬。
今日の占いは、珍しく当たってた。
激甘彼氏が出来るって言う占い結果に、ちょっとだけ・・・ううん、かなり満足できた。
私の占いもたまには当たるんだね。
たぶん、微笑み合いながら校内を走る私達は、学生達の注目の的だっただろう。
この噂は、瞬く間に流れるんだろうな。
ちょっと、面倒くさいと考えていた私の背後で、紀伊ちゃんの「ちょっと、待ちなさいよ~!」と叫ぶ声がこだましていた。
おしまい




