素直になれなくて
慧side
講義終わりに、千尋ちゃんを迎えにいく倫についていく。
暇潰しに、紀伊ちゃんでも構おうと思って。
めっきり、千尋ちゃん以外の女の子に素っ気なくなった倫。
本人いわく、本気の恋だそうな。
自分の母親の影響で、女なんて欲のままに生きるバカな生き物だって、バカにしながら遊んでたこいつが、恋だとか不思議なもんだな。
入れ食いで女なんて寄ってくるのに、一人に絞るなんて馬鹿げてる。
俺には真似できそうにないわ。
顔と家柄だけ見て、寄ってくる女で適当に遊んでるのが楽しいのにな。
俺んちの親父はちょっと有名な会社の社長で、そのせいもあって昔から寄ってくる女は腹に逸物を抱えた連中ばっかりだった。
中学ぐらいからは、俺の顔に惹かれただけの軽い女も寄ってくるようになって、適当に遊ぶことを覚えた。
倫とはそう言う感じで意見が合って、高1ぐらいからつるんでる。
お互いに楽だったし、楽しかったし。
なのに、ここに来て倫は戦線離脱するらしい。
本当、まったく分かんない。
みょうちくりんな変装を解いた千尋ちゃんは、美少女だけど。
こんなに肩入れする倫の気持ちが分かんない。
確かに占いババって呼ばれてるジミーな女が、あれだったとは俺もかなり驚いたけど。
そう言えば、倫って占いババの頃から千尋ちゃんを気にかけてたよな。
面白いから一緒にからかったりしてたけど。
倫の奴、ある意味先見の目はあったのかもな。
それにしても、とは思う。
顔をほころばせて千尋ちゃんの迎えに向かう倫の横顔を見る。
こんな浮かれたこいつは初めて見るよな。
「倫、そんな嬉しいの?」
なんとなく問いかける。
「当たり前だろ」
幸せそうな顔で返してくんな。
「倫が人を好きになるなんてな」
「俺も最初は自分の気持ちに驚いたけど。自覚してみたらすとんと心が落ち着いた」
「へぇ、そんなもの?」
「そんなもの」
「遊び仲間が減るのは寂しいけど。その分俺に女の子が回ってくるからいいか」
後頭部に両手を当ててニシシと笑う。
「慧もいつか恋をするよ」
絶対に、と笑った倫を少しだけ羨ましいと思ったのは内緒だ。
本当にそんなこと、あんのかねぇ。
苦笑いが漏れた。




