七不思議
朝起きて急いで学校へと向かう。
昨日のあれは幻覚だと言い聞かせて、とにかく何でもなかった証拠が欲しかった。
学校に着くと先輩もちょうど着たところらしく少し青ざめた顔をしていたのが気になった。先輩は僕に気づかず門の前で立ち止まり深呼吸をした。
「…先輩?」
「へ?!…ぁ、あぁ、お前か。今日はやけに早いね。」
「そうですか?いつもとあまり変わりませんが…」
先輩は引きつった笑顔で時折自分の世界に入っているようだった。何かに怯えているようで…。
「どうかしましたか?」
「えっ、あ…あぁ、いや、…」
歯切れの悪い返事。気を使っているのか僕に話すのを迷っているみたいだ。僕はふっと笑顔を作り先輩の方を向いて立ち止まった。
「何かあるなら何でも相談してください。僕でよければ力になりますよ」
僕の言葉に先輩は小さく息を吐くと重々しく口を開いた。
「佑月は幽霊を信じるか?」
「…は?」
予想外の言葉に固まる。この科学の時代に幽霊?そんなもの信じる方がどうかしている。
「厳密には幽霊ではないんだが…昨日失踪した少女が私の前に現れたんだよ。特に知り合いというわけでもないのに…いや、それ以前に存在すら知らなかったのに…」
まさか先輩も西園寺麗華を見ていたとは…
「…先輩も、ですか?」
「“も”と言うことは君も見たのか?!」
「はい。…ですが、あれは幽霊というよりかは…」
「すまない、彼女の姿があまりにも似ていたものでつい幽霊と表現してしまった。」
似ている?誰に?姿というのは…
「あの、似ている、とは?」
「君は知らないのか?この学校の七不思議を。」
「七不思議…」
七不思議と言えばどこの学校にも大抵存在する噂話だ。トイレの花子さんとか夜の音楽室とか…けど、うちの学校では聞いたことがない。
「そうか…なら知らない方がいいだろう。」
「何故です?」
「聞いたことないか?七不思議を全て見つけると八つ目の不思議が現れて攫われると言う話を…」
「ないですね。」
そもそもそんな話をする友人がいないのだ。と言うのもこの学校に入って初めに声をかけて来たのが先輩で、先輩は非常にモテる。そのせいか先輩狙いの男子からは嫌われているのだ。女子には昔から遠くから陰口を言われるし、たまに物を盗まれるほど嫌われているので友達になどなれるわけがない。
…それは置いといて、先輩がモテるのもわかる。大きな瞳にぷるんとした唇。ややふっくらとした(決して太ってはいない)頬や大きな胸。キュッと引き締まったウエストに少々肉付きのいい太ももと、まさに男が求める女と言う外見なのだ。
…まぁ、僕も例に漏れず先輩のことが好きだ。だから、先輩が困っているのなら力になりたい。けれど、七不思議と言われると流石に手に負えないのではないかと始める前からやる気をなくしてしまう。
取り敢えずうちの学校の七不思議について、先輩に尋ねることにした。
「あの、七不思議について、全く知らないので1つずつ教えてくれませんか?」
「そうだな…いや、私も全てを知っているわけじゃないんだが、1つ目と2つ目と6つ目なら…」
「…順番があるんですね。」
「あぁ。それぞれの危険度を表していてな、1つ目と2つ目は実質的な害は無いんだが…6つ目が厄介なんだ。最悪人が死ぬ。もちろん6つ目で人が死ぬんだから7つ目と明かされていない8つ目も同じかそれ以上の何かがあるはずだ。」
「そうなんですか、、」
「ちなみに、私たちは既に6つ目に関わってしまっているから解決しないと大変な目に遭う筈だ。」
「えっ?!…そんな、6つ目はなんなんですか?」
「【バラバラ転校生】…だな。その昔この街で誘拐事件が発生した。その被害者のほとんどが生きて帰って来たが、1人は行方不明、そしてもう1人はこの学校の至る所からパーツごとに切断された状態で見つかった。しかし、1つだけ見つからなかったものがあった。それは、左脚。幼い頃移植されたその脚はその少女にとって大切なものらしく、以来この学校で残りの足を探す姿が目撃されるようになったんだ。」
「…あれ、でも俺が見た時は脚ありましたよ…?」
不気味な感じはしたがたしかに五体満足だった。それだけは間違いない。それに、昔の女子生徒と近くの女子校の生徒の顔が同じだなんて偶然もあるとは思えない…。
「なにっ?!おかしいな…私が見た時にはなかったぞ。…もし、巻き込まれたのだとしたら左脚に数字が出てくる筈だ。その数字がゼロになると脚を持っていかれるらしい。」
先輩が見た時には左脚が無かった…何か理由があるんだろうか?
「先輩の足に数字は…」
「あったよ。14番目らしい。君は?」
「見てないですけど……ちょっと確認して来ます。」
昇降口から入ってすぐのトイレで確認すると俺の左腿にはハッキリと12と書かれていた。