ざわめき
僕はふと或る人が呉れた木箱を眺めてゐたが、実に不思議な箱である。其処に虚無のやうな暗がりを見た気がして、穴の開くほど見たのだ。僕はこの暗がりにゐたのか、僕はこの暗がりにゆくのか、と夢中の心地で考えてゐた。何時か聞いた怪談話と重ね合わせたのやもしれない。線香のほそい煙が薫って、僕は咳込んでしまつた。
ざわめき
ざわめく木立が
凶音を連れる
暗がる空が
煙を隠す
折れた薔薇の梢が
地を傷つける
朱の木箱が風に揺れ
吾を隠す
叢の白き跫音たちが
吾をかくす
吾を隠す