可愛いは正義!可愛いは作れる!(絶望)
魔王の襲撃後、我等は神殿へと戻り応接間である人物を待っていた。
それはミノリの友人であるらしい神。メノウリスである。
「んんーーっ!!」
魔王が復活し、再度撃破し捕らえた事を告げ、その神とここで待ち合わせようと連絡を入れたらしい。
それを聞き、我も気合を入れて掃除をし、お茶菓子やティーセットも用意し、
「んっんんーーーーー!!!」
何もかもが完璧だと思ったのだが、その完璧とは程遠くなる様な騒音が鳴り止まない。
その音源は我等の見つめる先。猿轡をされ、体をロープでぐるぐる巻きにされながらも体をうねらせたり、跳ねたりして一生懸命に拘束を解こうとする魔王の姿があった。
見ているとこちらが疲れてくる様なその行為が見てられず、とりあえず立たせておこう。そう思い近寄ろうとするが、
「……ウェル。ダメ」
ミノリが横から現れ、我の前に立ち塞がる。
そんなミノリの表情は、珍しく真面目な表情をしていた。
多分、逃がそうとしていると思われたのであろう。
その証拠にエルニスも少し怯えた表情で我を見つつミノリの横で同じように立ちはだかっていた。
とりあえず誤解を解いておくとするか。
「大丈夫だ安心せよ。逃がす訳ではない」
「……なら、余計ダメ」
我の言葉にミノリは強く言ってくる。
って何故だ!?何がダメだというのだ?
我はミノリのその行為に頭を抱え、考える。
あ、もしや目的を言っておらぬからか?ならば伝えて―――
「……ウェル。いくらこの世界を破壊しようとした魔王だからって、お仕置きと称してこの魔王の体を好き勝手にしようとなんて破廉恥。破廉恥、ダメ絶対。神聖な神殿でそんなこと許されない」
―――おこうとした我にミノリが淡々とそう言葉を発した。
何を言っておるのだこの者は。
「え、ええ!?ウェルナンデさん、そんな事するつもりだったんですか!?」
だが、それを信じたようでエルニスは驚嘆の声をあげ顔を染めつつ詰め寄ってきた。
こやつら……。
「そんな訳なかろう。ミノリも適当な事を言うでない。全く。我はただ、この者が倒れておる状態であのように暴れては服に汚れも付くし、衛生面的に悪いと思ったから立たせようとしただけだ」
我はそう言いミノリを押し退けるように、押し退け、押し……
我が肩に軽く触れて軽く押しているのに何故か抵抗してくるミノリ。こやつ、何故行かせようとしないのだっ!
「……ウェ、ウェル。そ、そう言いつつも、こ、ここ、ここを通過すれば、す、するんでしょ。エ、エロ同人みたいに。オ、オークと姫騎士の様に―――っ!」
「暇だからってどんだけかまって欲しいのさ。ミノリ」
変な事を口走り始めたミノリへ白闇が呆れたように声をかけた、その時だった。
部屋の片隅に描かれた転移魔法用の魔方陣が輝き出し、一瞬強く光る。
その反応にその場にいた全員がそこへ視線を向ける。
「ふーう、転移成功ね」
その光が治まると、そこには一般的に言えば扇情的な、個人的に言うなれば服とは何かと思うような衣服を身に纏う女性が立ち、背を伸ばした。
「……メノウリス。待ってた」
ミノリは先程とは打って変わり、いつもの調子で淡々と女性へ声をかけた。
どうやらこの女性が先程電話をしていたメノウリスであるらしい。
「ふふ。ありがとミノリ、って、相変わらず小さいままなのね」
メノウリスは返答し振り向くと、ミノリへそう言葉をかけた。
「……仕方ない。ウェルナンデを封印してるから」
「そうねー。というか、今日は色々いるわね。前回来た時は貴女一人だけだったのに」
その言葉にミノリは目を見開くと、「……ちょっとゴメン」と告げ早足で我の元へ。
「……出て行ってて。白闇にもそう言って来る」
そう耳元で話してくる。
一瞬、本人がここで一緒に待とうと言い出したのにどうしたのかと思ったが、ふむ。ミノリの意を汲むことにしよう。
「えー、ミノリー。人数いた方が楽しくていーじゃなーい」
だが、ミノリが白闇の元へ行こうと振り向いたすぐ先に、メノウリスが微笑み立っていた。
「貴方もそう思うでしょ?」
そんなメノウリスが我へ問いかけてくる。
ふむ、まあ。確かにそう思わぬ事もないが。ミノリが乗り気では無いしな。
「それに!この子の紹介してくれないと、私帰るに帰れないわよ!」
我の返答を聞かずして話を進めた女神は近くにいた白闇を指差し興奮したように言う。
「……貴女、本当に好きね。小さい子」
ミノリはそんな女神へ淡々と言葉を返した。
「ふふ、当然。繁栄と母性を司る女神だもの私」
その女神は胸を張り言い返す。
それはもう自慢げに。
「と、まあ。そんな事よりも早く!教えてよミノリ~」
「……くっつかないで」
メノウリスはミノリに頬ずりをしつつ聞くが、ミノリは疎ましそうに相手の顔を引き離そうと押していた。
だがいくらやっても離れる様子はなく、ミノリはハアと溜め息をつく。
「……名前は白闇。人間よ。不老の」
「へえ、白闇君って言う―――……今なんて言ったの?」
ミノリが淡々と言う言葉に何かが引っかかったのかメノウリスは再度聞き返した。
「……人間」
「その後」
「……よ」
「違うわよ!そっちじゃなくてその後!」
ミノリのいつも通りのやり取りに痺れを切らしたメノウリスが怒鳴るように言い放った。
それに一歩たじろぐミノリ。全く、その様な反応をするなら初めからちゃんと受け答えすれば良いというのに。
「……不老って言ったの」
「不老……」
ミノリがそう言うと、メノウリスは白闇の方へ視線を向けた。
「な、何?」
白闇が言葉を発する。
「へえ~、貴方、不老者なの」
そんな白闇へメノウリスが近付きにんまりとした表情で腰を折り顔を突き出すような形で白闇と視線を合わせた。
「そうだよ」
白闇はメノウリスへそう答える。
「そう……。ねえ、ミノリ」
メノウリスは白闇を見たまま、後ろにいるミノリへと言葉をかけた。
その声色は真面目そのものだ。だが、話すときくらい相手を見ろと思うのだが。
「……何?」
だが、ミノリはその事に関してはどうでも良いらしく淡々と言葉を発した。
「この子は禁忌を犯したから処罰として、私が預かるわ」
振り向き、凄く真面目な清々しい表情でメノウリスが言い放った。
「は?」
その言葉に我とミノリ、白闇もその様な声を出した。
「……何故?」
「ほら、禁忌を犯した者は監視対象になるって神々共通の決まりがあるのは知ってるわよね?」
「……知ってる」
ほう、その様な決まりがあったのか。初耳だな。
「それで、よ。貴女はウェルナンデの封印維持で忙しいじゃない?そしたら、この子を見ておくなんて不可能に近い。そこで、私がこの子の監視をする。どう?」
メノウリスは力説するかのごとく、拳を振り論を唱える。
なるほど、それは確かに。
我は納得する。そのとても理にかなった物言いに。
「……なるほど。白闇が子供の姿で成長止まっているから自分の傍に置いておきたいと」
「そう!そうなのよ!なかなかいないわよ。この姿、この歳で不老になった人とか。それでこんなに愛らしい容姿の禁忌者なんて!もう、最高じゃない!どこで見つけたのよ―――って、ち、違うわよ!ただ、私は貴女を手伝おうと思って言ってるの。純粋に」
メノウリスはそのような事を言う。
全く何と仲間思いな者であろうか。異世界の事であるというのに仲間を手伝おうとするなど。
だが、白闇を連れて行かれるとなると、今後寂しくなるな。
「……そう。だったらまず、あれ早く連れてって」
我がそう思っていると、ミノリはある一点を指差し、そう言った。
そこには先程からずっと猿轡のせいで喋れないのにもかかわらず、騒いでいる魔王の姿が。
「連れて行ったら、オーケーって事?」
「……それとこれとは話は別。とりあえず、貴女のところの問題でしょ。あれは」
ミノリは冷静に淡々と述べる。
いつもはたまに良く訳の分からない事を言うミノリの発言とは思えぬ言葉に少し感心する。
「んんーーっ!プハァッ!!」
と、その時だった。その様な声が聞こえ、床にパサリと魔王の口から猿轡にしていた布が落ちた。
どうやら、結び目が緩み外れたようだ。
「あんた達、良くもやってくれたじゃない!それに、メノウリス。よくもまあ、私の前に現れたわね。私の睡眠中に襲撃を仕掛けて封印してきた事、倍にして返してあげるわ」
魔王は外れたのを良い事に、思いのたけであろう言葉を次々に言い放ってくる。
だが、対して女神はいやらしい笑みを浮かべていた。
「あら、良く吼えるじゃない。奇襲に気付かず寝ていた魔王様。でも、その状態でどうやって倍にして返してくれるのかしら?」
なんとも意地悪く、挑発するような事を言う女神。
そして、案の定。魔王はその発言に額に青筋を立てた。
「炎っ!」
魔王はそう言うと、ロープへと魔法を放ち、焼き切り拘束を解いた。
「ほう。初級魔法で焼き切るとは」
結構、丈夫なロープであったはずなのだが。
「ちょ、ちょっと、ミノリ!?何であいつ魔法が使えるのよ!あれ、魔法無効化のロープじゃないの!?」
メノウリス先程とは一変し慌てたようにミノリへ問う。
「……普通のだけど」
「何でよ!!」
「……予算そこまで割けないし」
「何言ってんの!?貴女馬鹿なの!?この国、いえ、この世界が滅ぶかもしれないのよ!?」
「……いや、猿轡取れると思わなくて―――」
そこまで言ったミノリは気配を感じ、視線を動かした。
それにつられメノウリスも視線を動かす。と、魔王がすぐ傍にいた。
「―――っ!」
その事に驚き固まる二人。全く、何をしておるのか。
魔王は魔力で形成した両手用の漆黒の剣を握り、そこへ渾身の一撃ばりに刀身を叩き付けた。
炎……火の魔法。ウェルは初級といってるが、実際は中級上位の魔法なので注意しようね。