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神世界(しんせかい)の魔王様!  作者: 寺池良春
第一章:異世界魔王編
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鯛焼きを買いに

「それで、さっきの話の続きだけど。監視はウェルの外出時限定ってなってるのは知ってるよね」

「む?そうなのか?」

「え?そうでしたっけ?」

「……え?」


 白闇の説明に我、エルニス、ミノリは三者三様の反応を示した。

 どうやら皆知らなかったようだ。


「ちょっと待って。まあウェルとエルニスの二人はどうせそんな反応するだろうって思ってたから良いけど、ミノリは言った側だよね?何でそんな反応するのさ。ふざけてるの?」

「……ふざけては無い。真面目に言ってる」


 白闇の問いに対し、珍しくキリッとした表情と姿勢で言うミノリ。

 その言葉は紛う事なき真実を表すほどの重みが感じられる程。

 流石は神といったところであろうか。


「はあ、もしそうなら僕はなんで君が全知全能の神として君臨してるのか分からないよ」


 その台詞にそう呟く白闇。

 だが、待て。ミノリは全知全能の神ではないぞ。白闇よ。

 我はそう思い


「……私は全知全能の神じゃなくて、創造し守護する女神」


 指摘しようと思ったがミノリ本人が訂正した。あやつにしては珍しい事もあるものだ。

 今日はもしかしたら絶好調なのやもしれぬな。


「ああそう。それよりも。二人とも、そういう事だから」


 そう思う我と隣ではあというようなぽかんとしているエルニスへ白闇は疲れきった表情でそう告げた。


「そういう事とはミノリは全知全能の神ではなく守護する為の女神という事か?うむ、それは知っておるぞ」


 我はそんな当然の事を言われ、白闇はそれについて知らなかったのかと思った。だがそれは口に出さず、とりあえずそう返答した。


「はい。私もそれは知っていますけど……」


 エルニスも同じ反応をする。

 それを聞き白闇は(うつむ)き小刻みに小さく震えていた。余程、間違えた事―――というか、知らなかったのが恥ずかしかったのであろう。

 まあ、仕方ない。間違えは誰にでもあるものだ。恥ずかしいと思えれば次、間違う事はなくなる。

 成長の為の犠牲と言うものだ。


「あーのーさー、すぐ会話の主旨忘れるのやめてくんない!?それじゃないから!ミノリの事はどうでも良いから!!監視はウェルの外出時限定って話がいまの話の重要なところなんだからさ!」


 そう思っていた我と、首を傾げていたエルニス、関係ないといわれ多少落ち込むミノリへ白闇が怒りを込めて一気に叫んだ。その顔は真っ赤で怒りの度合いが伺える。

 それと共に我は逸れていた話の本題を思い出していた。

 まあ、白闇に言われて思い出したのだが。


「……そういえばそうだった」

「私そんな説明一度も受けてませんよ?」

「我もだ」

「いや、してたんだよ。ウェルがエルニスと挨拶のやり取りをしてた時、ミノリが。ただ、その様子を聞いてないな、これは。って思って見てたけどさ」

「……そう思ったんなら止めて。それじゃ私、馬鹿みたいに一人で喋ってるみたい」

「そうだね。馬鹿みたいに一人で喋ってたね」


 白闇は遠い目をして返答した。



 ☆★☆



 神殿を中心に広がる街。ドローシア。そこは道路も整備され車という魔力で動く運搬を目的とした乗り物が()()い、その脇道を人々が歩いていた。

 その道には所々に見た事も無いような物が建っており興味を引かれる。


「……どう?ウェル。久しぶりの外は」


 隣を歩くミノリが我を見上げつつ聞いてくる。


「うむ、そうだな。神殿の窓から見下ろしてはおったが、実際に見るとまた新鮮で面白いな」


 我はミノリにそう返答する。

 幽閉され五百年余り、窓からしか見れなかった景色が近くで見れる事がここまで新鮮で楽しいとは思わなかった。

 これも議会で皆を説得し、我が外出できるように図ってくれたミノリのお陰であろう。

 まあ、この情報はノウィールが出かける前に教えてくれたのだが。それにしても、ミノリの奴め。粋な事をしてくれたではないか。後でお礼をせねばならぬな。


「あ、あの、ミノリ様?」


 そんな事を考えていた我の後方で、戸惑うような声を出しエルニスがミノリへ声をかけた。


「……どうしたの?エルニス」


 ミノリはそんなエルニスの方へと向き、我もその方を向いた。


「これ、絶対おかしいですよ。何でこの服なんですか!?」


 その視線の先にはフリルの付いた実務では使えそうもない侍女の服に身を包んだエルニスが立っていた。


「……メイド服、似合うかなと思って作らせたのだけど」


 そんなエルニスへミノリはそう返した。

 全くこやつは……。


「ミノリよ。メイド服であるのに肌の露出箇所があるのはどうかと思うぞ?油がはねたり、掃除のときなどにぶつけて怪我をしたら傷になってしまうぞ?それにだ。あのひらついておる所がどこかに引っかかったりして破れたり、それにつられて物が落ちる危険性もあり、危ないではないか」


 我はその服に関してミノリへ助言する。そう、作業着に変な装飾は不要と。


「……ウェル、古い。メイド服(あれ)は今ではもうファッション。実用性は求められてない」


 だが、ミノリは真面目な口調でそう言い返してくる。

 ふむ、そういうものなのか。


「でも、変に目立ってるよ」


 我の隣に立つ白闇がそう言う。

 まあ、確かに道行く者共がすれ違うたびにエルニスを見ているようにも見えるし、一部の者は立ち止まって見たりしている。


「は、早く目的の場所に行きましょう。皆さん!」


 そう発言したエルニスは恥ずかしいらしく、顔を真っ赤にして震えていた。

 無理に着ずとも良いというのに。全く真面目な奴だ。いや、これは生真面目というのか?ううむ、分からん。


「とりあえず行こうよ。立ち止まってないでさ」


 白闇にそう言われ我らは行動を開始し、十分程歩いた先で白闇は歩みを止めた。


「ここだよ」


 白闇の指差した先は【鯛やキング】と書かれた看板の店であった。

 店名のギャグセンスとは打って変わって店自体は鯛焼き専門店の割りにかなり大きく感じる。


「……初めて来たけど、スイートエデンくらい大きい」


 その店を見たミノリも驚嘆の声をあげた。


「あちゃー……。もう混んでるよ」


 だが、店の大きさを見て立ち尽くしていた我等とは違い、白闇は店から伸びる行列を見てそのような言葉を漏らした。

 これが常連の視線の違いと言う奴か。だが、少し落ち込んでいる白闇には何か言葉をかけた方がよいのかも知れんな。


「ふむ、まあなんだかんだでお主一人ではないからな。仕方ないであろう」

「……そう。それに、そんなに確実に欲しかったのであればすぐ行動すべきなのに行動しなかった白闇が悪い」


 我は白闇の心中を察しそのように言い、ミノリは多分、助言をきつく言う事で白闇が今後、後悔しないよう動けるようにと思い言葉をかけたのであろう。

 これが導く者の鞭なのだと感じる。

 しかし、白闇は呆れた表情を浮かべてミノリを見やり口を開いた。


「あのね。来たいって言うから待ってたんだよ僕は。そんな事言うなら今後、良い場所見つけても連れてかないからね。ミノリは」

「……ひ、酷いっ!」

「当然でしょ?毎回問題起こして文句ばっかり言って、少しは反省したら?」


 その言葉にピクリとミノリの右眉が反応する。

 うむ、これは雲行きが怪しくなってきおったな。


「……白闇、流石に私も怒った。―――この、シンプルオレンジパーカー愛用者」


 ミノリの発したその言葉に我は目を丸くした。

 当然である。白闇がいつも着ておるパーカーを貶し、白闇を辱めようとしておるのだ。

 なんと恐ろしき女神よ。


「え?……それ、悪口のつもり?」


 だが、白闇はその真意に気付いておらぬようで首を傾げた。


「……も、もっとある。……えーと。あのー……。そう……あれよ」

「言うならちゃんと思い出してから言ってよ。もう」

「まあまあ、お主ら。そう行列の前で喧嘩するでない。皆見ておるであろう」


 我はその喧嘩の仲裁に入る。これ以上、知り合い同士の不毛な争いを見たくないのだ。

 だが、その喧嘩を見ていたであろう者共はその場で携帯型の魔導通話機(でんわ)薄型携帯魔導通話機(スマートフォン)という物を取り出してパシャッという音を出していた。


「はあ、とりあえず並んで待つとするよ」

「……悔しい。今度は徹底的にやる」


 仲裁に入られた二人は二人でそれぞれの反応を示し、列へと並んだ。我とエルニスもそれに続く。

 列は少しずつ動き、約三十分後であろうか。我等はようやく店の中へ入る事が出来た。

 そんな店内は全て鯛焼きであったが、中身が違うものや少し形を工夫したもの。アイスの入ったものまで取り揃えられている様子で興味を引かれるものばかり。そして何より甘い香りと香ばしい匂いが鼻をくすぐり食欲を倍化させてくる。


「僕、このまま列に残って限定品買うからウェル達は自由に見てなよ。まあ、限定の鯛焼き食べたいなら話は別だけどさ」


 白闇は後ろにいるミノリ、我、エルニスへ振り向きそう言った。


「……甘味神王を目指す私が立ち退くとでも?」


 ミノリはその言葉に対しそう返した。

 それはもう真面目に。


「では、我は店内の物を見ているとしよう」

「私もそうしますね」


 我とエルニスはそう言い並んでいた列から離れ、店内に並ぶ商品の方へと向かって行く。

 見れば見るほど様々な鯛焼きがあり目を奪われる。ただ、たまにパンケーキ生地の物やパイの物もあり最近の鯛焼きは変わったなと感じる。


 まあ、白闇がたまにくれる鯛焼きしか知らぬのだが。


「わあ、苺味なんていうのもありますよ」

「ふむ、鯛味の鯛焼きと言うのもあるな」

「それただの鯛を焼いたものじゃないですか?」


 我とエルニスは様々な商品を見て感想を述べていく。

 と、そこへ紙袋を持った白闇とミノリがやってきた。どうやら買い物を済ませたようで二人ともご満悦といった感じである。


「それで、次はどこに行く?」


 そんな白闇がそう我へ問いかけてきた。


「次?もう用は済んだのであろう?帰るのではないのか?」

「ウェル。鯛焼き屋に来ただけで久々の外出が終わりっていうのもつまらないでしょ?」


 我の疑問へ白闇がそう回答してくる。

 白闇、お主と言う奴はっ!

 その返答が気遣いと分かり嬉しさとすまなさが入り混じる変な感情を我は抱いた。そして結論から言えばとても嬉しい。


「……とりあえず、近くの広い公園に行こう。外で食べる鯛焼きは格別だから」

「へえ、ミノリにしては良い事言うじゃん」


 少し感動していた我の前でミノリの提案に白闇が同意の意を示した。

 合うところは合うようだ。


「……当然。私は神だから」

「わー。神様すごーい!」

「……もっと褒め称えるがいい」

「とりあえず公園に行こうか」


 我等は鯛やキングを後にし、公園へと向かう事にした。

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