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神世界(しんせかい)の魔王様!  作者: 寺池良春
第一章:異世界魔王編
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天使の涙

「さて、綺麗になったな」


 朝食時間も終わりを告げる時間。我は神殿エントランスの掃除を終わらせ額の汗を(ぬぐ)った。

 凶悪なほどに艶を取り戻し、窓から降り注ぐ太陽光で輝く床。その窓も両方から拭かれ磨かれスムーズに光を通し室内であることを忘れさせるほど明るい。

 そして、昨日溜まった溝の埃や手垢さえも取り除かれ黄金の輝きを取り戻す階段の手すり。靴の汚れで光を失っていた階段も輝かしさを取り戻す。

 くっくっく、何と爽快なことよ!

 我が掃除において一ミクロンの汚れも逃さぬと言うもの!


「ご、ご苦労様です」

「うむ。……む?どうしたお主、苦虫を食い潰して無理に美味しいと言おうとしているような表情をして」

「いや、それどういう状況ですか」

「そういう状況だ。お主ならそういう状況がいくつもありそうだからな」

「はあ……はは」


 我の言葉に突然空笑いしたかと思うと、頭を抱えうずくまった。


「む?どうしたエルニス。大丈夫か?」


 いきなりのその行動に驚き、我はそのエルニスへ声をかける。

 だがエルニスはぶつぶつと独り言を呟いていた。


 どうしたのであろう?一体何が……。

 我は思考を巡らし考える。


 特に注目すべきところは頭を抱えたところだと推測する。

 何故、いきなり頭を抱えたのであろうか?


 我は考える。監視としての緊張か?とも、初仕事の不安か?とも。

 しかし、そのような事は最終的にお腹に来るという結論に到る。


 では何だ?


 そう思った瞬間、我の視界に輝くエントランスが入る。

 いや、まあ、ずっと入ってはおったが……。

 まあ、そのような事はさて置いて、だ。


 そういえばこの者、ずっと我の掃除を見ておったな。

 そう思った瞬間、我が頭脳に電気が走った。そうか、あれか!眼精疲労か!


 長時間光を放つものを見るとなったりすると聞いた事があるからな。パソコンとかテレビとか。

 うむ、そうに違いない。

 だが、眼精疲労となると眼科に行って見て貰った方が良い気がするが、温めたり冷やしたりも良いとは聞くが、俗に言う応急処置のようなものであった気がするしな。


「何難しい顔してるの?……というか、エルニスはどうしたのさ」


 そのような声が我の耳へ入ってくる。ここにはいなかった第三者の声。

 どうやら、考え事で接近に気付かなかったようだ。


「白闇か」


 我はその接近してきた者へ言葉を返した。

 白く輝く髪と、紫色の瞳をし、幼き顔で性別不明とまで言わしめる我が友へ。


「白闇だよ。で、どうしたのさ。ウェルらしくもない難しい顔して」


 我が友は腰に手を当て顔を覗きこんでくる。


「いやな、この者が突然頭を抱えてうずくまるものだから少しどうしたのか原因を考えていてな。まあ、原因は見当がついたが、その後どう対処すべきかを悩んでいてな」

「ふーん。で、見当がついたっていう原因って?」


 我の言葉が気になったのか白闇が問いかけてくる。


「ふ、決まっておろう。眼精疲労だ!」

「ああ、うん。多分違うから安心して良いと思うよ?」


 自信満々に言うのを呆れ顔の白闇に一蹴されてしまった。

 ふ、流石は我が友。容赦がない程の切捨てだ。


「それで、エルニスはどうしたのさ。頭押さえて」


 そう言いエルニスの元へ向かう白闇。

 その様子を見て白闇は成長したと思う。人の心配をして駆け寄るなど、出会った頃のあやつからは想像できんからな。

 エルニスはその言葉に反応し白闇へ何かを話していた。

 そんな白闇は話の途中から少し呆れたような目線で我を見てくる。一体どうしたのであろう?

 む?まさか、我の眼精疲労が当たったのか?

 あの反応。呆れているようにも見えるが、少しすまなさそうに見ているようにも見える。ふふ、どうだ白闇。当たったのであろう?まあ、我は勘違いには心が広いからな。謝罪をせずとも許してやろう。

 我は言葉には出さず表情で示す。我と白闇の間に言葉は不要であるからな。

 そんな白闇は我の方へ向き手招きをしていた。

 ふむ、行ってやろうではないか。

 我は白闇の元へと向かう。


「何で機嫌良いの?」


 我の顔を見るなりそう言う白闇。ふ、分かっておるくせに。


「まあいいや。それよりも、確認だけど。……二人とも昨日の話ちゃんと聞いてたの?」


 そんな我とエルニスにそう言う白闇。

 その言葉に少し首を傾げる。


 昨日の話し?……あ、そう言えば。


「確か、今日お主のよく行っている鯛焼き屋が開店二十周年で特別な鯛焼きを限定販売するとかと言っておったよな?それがどう関係するのだ?……まさか」


「違うよ!何がまさかなのさ!」


 ただ、まさかと言っただけなのだが怒られてしまった。

 しかし、違うとなるとなんであろうか。昨日の話とは。


「はあ、もう。あのね、そっちじゃなくて」

「……特別な鯛焼き。白闇。その情報詳しくっ」

「ああもう。どっから沸いてきたの!?ややこしくなるからミノリは引っ込んでて!」

「……酷い」

「そうですよ!ミノリ様に対してなんて言葉遣いを!」

「いきなり復活して入ってこないでよ!面倒くさいなあ!もう!」


 真剣に考えている我の前でそのようなやり取りをする三人。正確には一人と一体と一柱。

 全くこやつらは。

 やれやれと思いつつ我は口を開く。


「白闇よ。教えてやっても良かろう。その特別な鯛焼きについて」

「あのさ。今、必要な話はそこじゃないから」


 どうやら鯛焼きの話より重要な話のようだ。


「いい?僕が言いたいのは監視の話だからね?」

「む、そうか」

「そうだよ」

「……鯛焼きの話のほうが重要」


 そこへズイッと入ってくるミノリ。まあ、我も気になるところではある。何故なら、白闇が一向に答える気がないみたいであるからな。


「……。とにかく、昨日のその話しについて理解してる事を話してみて」


 ミノリに呆れた視線を向けた白闇は無視する形で話を進めた。

 と言われてもな。


「特別な鯛焼きとしか聞かされておらぬからな」

「私はその話分かりませんし……」

「ああああ、もう!二人は何なの!?どんだけ鯛焼きの話したいのさ!もういいよ、勝手に悩んでれば!」


 そう言いフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向く白闇。

 どうやら我等の返答が気に入らなかったらしい。しかしそう言われてもな。


「あのー、白闇さん。ごめんなさい。私も少しボケてみたいなって思って言った事なので、そんな風にされると少し(つら)いです」


 そんな我の前でエルニスはすまなさそうにそんな白闇へ声をかけた。

 しかし、こやつは何を言っておるのだ?ボケてみるとは……?


「……ウェル。ウェルもふざけてないでちゃんと話を戻して」


 そう考えていた我にミノリが声をかけてくる。

 それはそれは真面目な表情で。


「何を言っておるのだ。我がいつふざけたと言うのだ?」


 我はその言葉に心外とばかりに返答する。まあ、本当に心外だが。


「分かった。僕が浅はかだったよ。まず、ウェル」

「む。どうした?」

「昨日の監視がつくって話。分かってる範囲で話してみて」


 午前中だというのに少し疲れたような表情で白闇がそう言う。

 監視の話か。

 我は思い出してみる。確か……


「監視の者がつくと言われて、それでエルニスを紹介されたな」

「それだけ?」

「うむ。簡潔にそう言われておるからな」

「あ、そ。……じゃあ次。エルニスは?」


 我の回答を聞いて溜め息をついた白闇はエルニスに話題を振った。


「えっと、ウェルナンデさんを監視せよという話と、ウェルナンデさんの紹介と配下である白闇さんの紹介をされましたね。ただ―――」

「ちょっと待て」


 我はそれを聞いて話を止めた。一つ間違いがあったためだ。

 それを訂正するべく我は口を開いた。


「白闇は配下ではなく、我が友人(・・・・)だ。そこを間違えるでない!」


 我はその訂正箇所を強めに言う。大切な事であるからだ。

 そう白闇は友だ。決して配下などではない。

 ましてや手下と言う者がおれば我は怒る覚悟だ。


「それはどうでもいいよ。それよりも話し続けて。ただ、どうしたの?」

「ええっと、あの、ですね。その、え~と……」


 白闇はそう言い話を戻そうとエルニスへ続きを話すように促した。

 だが、そのエルニスはなんとも煮え切らないような返答を繰り返し、最終的に黙ってしまった。

 そんな彼女をその場にいる我等が見守る形で見ていると申し訳なさそうに口を開いた。


「すいません。先程の中断で忘れてしまいました」

「ちょっとウェル。なんて事してくれてんのさ!」


 その返答を聞いた白闇が我に食って掛かってきた。

 そう言われてもな。


「……ウェル、ここは謝罪すべき」


 戸惑う我にミノリもそのような言葉を向けてくる。

 だが、正論だ。我のせいでこうなってしまったのだから。

 我は覚悟を決め、そして言葉を発し


「違います。私が言おうとした事をもっとしっかり覚えていなかったのが悪いんです」


 ようとした所でエルニスが先に言葉を発した。とてもすまなさそうに。

 その彼女の自らが傷つき相手を庇う言葉に我も行動しなければいけない。


「いや、中断させてしまった我にも非はある。すまなかったな」


 そう思った瞬間、我もそのような言葉を発していた。


「ウェルナンデさん……」


 その言葉を聴きエルニスは祈るように手を組み目尻に涙を浮かべる。

 それは安堵と謝罪の入り混じった涙。

 そこまでしてこの者は責められるであろう恐怖に耐え、我を庇ってくれていたのか。なんと、何と良い娘であろうか……!


「……良い話ね」

「何も良くないよ。ほら、そこの二人帰ってきてー」

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