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第19話 三日目:嵐の夜

ここから本編です。

 ある日、日本の片田舎に小さな隕石が落ちた。

隕石は高校近くの無人の畑に落ちたので、幸いにも怪我人は出なかった。

その日のニュースや新聞にも載ったが、その後は事件性もなく――すぐに忘れられた。

 

***************************


 木の巨人を倒し、目的の品も手に入れた。

 あとは帰るだけだ。ただ透明なユキノコさんは問題ないが、姿の露出している俺はかなり危険だった。再びリザードマンに見つかったらここまでの苦労が水の泡だもん。それは避けたいよね。

 下山中にもリザードマンゾーンはあるが、実はここは身を隠す針山が多く、ユキノコさんが先頭にたって、携帯で位置状況を知らせてもらいながら進めば、見つからずに進むのはそんなに難しくはなかった。

問題は山が終わり、山から港町へつづく平野部だ。距離はそんなにないのだが、ここでもリザードマンが何体もうろうろしていた。

 ゲーム中、この平野部分でリザードマンに見つかると、みんなすぐ近くの港町まで逃げ込むことにしていた。町まで入ると敵も追跡をやめるからだが、逃げる際に別のリザードマンに見つかり、大量のリザードマンを町の入り口まで引っ張ってきてしまうことがよくあった。するとプレイヤー達が町から出れず、右往左往するなんても、ゲームを始めた頃にはよくあったものだ。それも世界を他人と共有しているMMOらしいハプニングだ。その時は、「なんだよ、すぐ出れないじゃん」とムカついたが、そういうことも思い出となれば楽しいものとなる。1年くらい前なのになんだか懐かしい限りだ。

 昔話で話がそれたが、さすがにそういう見張らしのいい平野を、姿晒したまま横断するのは危険すぎるということで、まずはユキノコさんに、ドロップ品だけ持って先に帰ってもらった。それを急いで換金してもらう。7000モリガン銅貨を越える大金だったので、全員分の船代を除いてもまだ、薬品が買えるだけあった。それでインビジブルパウダーを複数購入。俺が待機している場所まで持ってきてもらい、それを使って街に帰るというちょっと面倒なことをした。そんなこともあり、俺が街に入ったその時には、もうすっかり夜になってきていた。

 数時間ぶりにみんなに再開できた時は泣くほど嬉しかった。不祥このゴボタ、帰って参りました。ナンディもヌヌハさんも泣いて喜んでくれた。とはいえ祝賀パーティを開くにはまだ早い。ここで夜を明かすのと、船で明かすのとでは、現実への帰宅時間が全然違ってくる。ゲームでは船は夜でも出港していたし、なんとか夜のうちに出港できれば、朝にはむこうにつく計算だ。できるだけ今夜のうちに出港したかった。俺たちは急いで港まで走る。もうくそ重たいスライム油はない。全速力である。

 幸い新しい船が停泊していたので、これに全員で乗り込もうとした。

 お金はある。船もある。トライも向こうの港町まで、急いで歩いている。

 もう少しで目標達成だ。もうすぐ家に帰れるのではないか!?俺たち全員の胸がそんな期待で膨らんだ。

 いや一人主催者を除いて。

 どうやら主催者はまだこの旅から帰りたくはないようだった。その為には、とうとうあからさまな妨害工作にでてきた。


「ちょっと、船に乗れないって、どういうことですか!?今度はお金ならちゃんとあるでしょう」


 ナンディがまず反論した。受付カウンターで、担当の男から、本日二度目の船には乗れない宣言に反論したのだ。俺もこれには反論せずにいられない。どういうことだと声を荒げてしまった。


「落ち着いてください。実は航路上に嵐が来ているんです。とても船をだせる状況じゃない。船は嵐が去ってからです」


「嵐!?嵐で船が出ないなんて、そんなのゲームじゃなかったわよ!」


「ゲームって何のことです?そっちにも事情があるのはわかりますが、船が沈没するかもしれない危険を犯してまで出港することはできません」


 全員が顔を見合わせた。そりゃリアルな海だったら、悪天候で出港できないというのはあるだろう。でもこれはあきらかに違った。俺たちを船に乗せないようにするための、主催者が追い詰められてぎりぎり繰り出してきた、苦肉の策なのは火を見るより明らかだった。

 密航作戦で姿が現れてしまうのも、おそらく主催者の妨害だったということに確信できた。そうじゃないかとは思っていたが。


「出港できないって、再開はどれくらいなんですか?」


 ヌヌハさんが恐る恐る聞いた。


「嵐は進路をこちらに向かっています。夜だから分かりにくいけど、ほら向こうの空には黒い雲が広がってるでしょ。ここにももうじき嵐がきます。どうなるかはわからないけど、あと1、2日はここで待機してください」


 全員が絶句した。

 主催者があとまだ1、2日はこっちにいたい。そう言っているのだ。


 呆然と立ち尽くす俺たち。

 しかし、活動限界までそれほど時間もない俺たちは、いつまでも悩んでいられない。


「とにかく宿をさがしましょう……今夜も野宿はみんなさすがに嫌でしょう?」


 俺がまず口にした。


「それはいいが、まずはあいつらにも報告しないと……」


 ユキノコさんがのろのろと携帯をとりだした。ナンディも頭を抱えている。


「けっこうショックな内容ですよね。主催者が俺たちを帰さないように動き出したというのは」


「まあ、そうだな。これはさすがにあからさますぎるな」


「私たちもしかしてずっとこのままとかあるのかな?」


 ヌヌハさんが当然すぎる不安を口にする。


「大丈夫ですよ!」


 ナンディが場違いなほど明るく言った。


「主催者さんがここまでするってことは、どうやらトライ先輩との合流が、主催者の望んでいないことだっていう、正解率50%くらいだった仮説が、ほぼ100%に近い仮説になったってことですよね。私たちはある意味主催者を追いつめてる。あとはきっともうすぐゴボタ先輩がまたなんか秘策でなんとかしてくれますよ!」


 ナンディが冗談ではなさそうなまっすぐな目で俺を見てくる。ここへの帰る途中、巨人戦をユキノコさんが気持ち悪いくらい俺を褒めながら、解説してきたのでナンディは俺を過剰に尊敬しなおしたようだ。


「おいおい、勝手にハードル上げないでくれよ。でも秘策じゃないけど、まずは向こうのチームには、船にはぎりぎりで乗れなかった。今夜はここで宿泊するとだけ伝えて、とりあえず朝まで待ちましょう。主催者が夜のうちに心変わりしてくれたら、嵐は夜のうちに去って朝には出港できる。それでいいじゃないですか。彼らにまで余計な心配や不安をかけさせることはない」


 俺はみんなを見た。ユキノコさんとナンディは迷っているようだ。仲間に情報を隠すという行為に納得していないようだった。ヌヌハさんは俺のことを強く見ている。たれた目が俺の心を見透かしてくるようだった。


「わかった。それでいいわ」


 ヌヌハさんが珍しく断定的に言った。


「お、おいヌヌハ。それでいいのか?」


「うん。だってしょうがないじゃない?ゴボタ君の秘策も品切れみたいだし、今夜はもう船に乗れないのは確定みたいだよ。それならまずはゴボタ君の言うとおり宿を探した方がいいよ。できるなら私ベッドで寝たいもん」


「まあ、そうですね。先輩の言う主催者さんの心変わりをまちますか~」


ナンディも野宿は嫌なようでまず宿の確保という案に、心が傾いてくれたようだ。ユキノコさんは最後まで納得できないようだが、多数決の採決に従うことにしたようだった。いや、ヌヌハさんの決めたことにか。


 宿はすぐに見つかった。というかゲームで場所を知っているのだから、当たり前だが。

 RPGの宿屋って、現実の宿泊施設に比べてすごく安いのが助かる。それぞれの個室の部屋で4人で200モリガンだった。俺たちは適当におやすみをいうと自分たちの部屋に入っていく。

 さっそくベッドに横たわりたいがそうもいかない。まだやることがあった。俺は携帯を取り出すと、ある人物に電話をかけた。ギルド通話ではない。個人的な通話だ。

 相手はすぐに出た。

 他の人間に聞かれては困るので小声でそっと話す。


**************************


 嵐が近づいて来ていた。

 塩を含んだ海風が容赦なく体に吹きつけてきている。雨はまだ降ってはいないが、すぐにでも降りだしそうだった。

 電話が終わったあと、宿屋をこっそり抜け出た俺は、モンスターが徘徊する町の外へ出た。そして敵に見つからないよう、こっそり歩き町から3、400mほど離れた小さな丘の上に立ち、ここで待ち合わせをすることにした。

 陽は完全に沈んだが、月はまだ雲に覆われていないので、大地は月明かりで薄暗くぼんやりと照らされている。

 俺は一回転しながら周囲を見渡す。俺の視界には、動く生き物は何も写っていない。人も鳥も蟹もリザードマンも。あるのは風で揺れる植物だけだ。ここなら、モンスターが近づいてくるのもよく見えた。早めに発見できれば、町まで走って逃げることがギリギリできそうな距離だ。

 とはいえ、発見が遅れればどうなるかはわからない。きっと殺されてしまうだろう。リザードマンの持つ大剣で、かんたんに俺の体なんか単数から複数系へと変化してしまうだろう。

 そんな危険な場所で、そういう無茶な待ち合わせをしていた。だが約束をしたわけではなかった。

 俺が勝手に一人でここで待っているだけだ。だから、待ち合わせというより、待ち伏せに近い。ここにきっとお目当ての人がやってくるだろうと、予想しての行動だった。しかしいくら見渡してもまだ向かって来てはいないようだった。

 もしかしたら来ないかもしれない。それならそれでいい。失敗してもいい。それなら、とぼとぼと宿屋まで帰るだけだ。

 でもかなりの確率で来るだろうと思っている。だってここは危険地帯なのだ。危険すぎる場所なのだから。

 こんな危険な場所にいてはいけない、と判断するはずなのだ。主催者は。

 心配性な主催者は絶対ここにお迎えを寄越すはずだ。

 だが、しばらく待ったが待ち人はこなかった。

 失敗だったかなと思ったその時、町から歩いてくる人影が見えた。その人影を見て予想はしていたが、少しだけ寂しい気分になった。こんな風にあの人に、現実をつきつけていいのか今さらでも悩む。

 できるなら、トライとの合流という形で終わりたかった。それが一番無難な解決だと思う。誰も傷つかない。ある意味「なあなあ」な終わり方ではあるが、いい落としどころだと思うのだ。でも、嵐で足どめなんて強引なことをしてしまうから、こちらも強引にせざるを得ない。俺らはそろそろ夢から覚めなきゃいけないんだ。お互いを傷つけあったとしても。


エラリークイーンで言う所の読者への挑戦状回です。

主催者は誰か?

そしてゴボタは何故そう結論をだしたのか。


ちなみにナンディの告白したら主催者候補から外れるという仮説は

正しいとします。(つまりゴボタとナンディは外れます)


5秒ほど考えていただけると作者としては幸いです。

(5秒以上は人生の貴重な時間を無駄にします)


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