第02話 一日目:評価はいつだって相対的だ
前回のあらすじ
俺はゲームを再現したような異世界に閉じ込められた。
同じように異世界に飛ばされていた、ユキノコさん、ヌヌハさん、ナンディとも合流した。
ここは一体どこなのか?完全な異世界ではなく、何故ゲームを模しているのか?
どこの誰だか知らないが、俺たちをこの世界に呼び集めた奴がいる。
誰でも彼でもなく、俺の所属しているゲーム部の人間を呼び集めているところに、はっきりとした意志がみえる。
まだ全員が見つかっているわけではないが、残りの部員三人がいる可能性は十分高い。
まずお互い知りえている情報を照らし合わせる。
が、大した収穫はなかった。ほとんど俺と同じ情報だ。全員ホテルのようなユニットバス付きの部屋からスタートしている。
世界については依然謎のままだが、とりあえずすぐに死を迎えるということはないだろうというのが、4人の共通見解。それについてはユニットバスの存在が大きい。どれだけこの世界に滞在することになるかは不明だが、風呂トイレに関しては中世レベルを強要されないということだ。また俺は見過ごしてしまったのだが、携帯電話らしき物も部屋に用意されているらしかった。
強制召喚ではあるが、それらに俺たちに安全に過ごして欲しいという、「おもてなし」の精神が感じられるのだ。
次に食事。生きていく上ではとても大事なことだ。
ヌヌハさんの情報によれば、ゲーム中と同じ食品を販売している店はあったとのことで、金さえあれば早急に飢えることはないだろう。
なのでまずは、残りの部員であるトライ、ヨヨミ、サイの残りの三人を探そうということになった。
なったのだが、その前に一旦俺の部屋(俺が目覚めた部屋)にみんなで戻ることになった。
俺が大事なものを部屋に忘れてきたからだ。
チェストの服があったのとは別の段に、謎の携帯電話と武器、そしてこの世界のお金があるらしい。
部屋に戻り確認すると確かにあった。
武器は人それぞれで、俺はナイフ。ナンディはフルートのような横笛。ユキノコさんはただの棒みたいな小型の杖。ヌヌハさんは鋲のついたグローブ。これらはゲーム開始時に選んだジョブの初期装備と一緒だ。
ちなみに俺の職業はシーフ。ナンディは吟遊詩人、ユキノコさんは魔法使い。ヌヌハさんは武闘家だ。
ちなみにナイフは本物で、握るとずっしりと重く、刃は鈍い銀色に光っていた。試しに切っ先で指の腹を刺したらしっかりと傷がついてちょっと血が出た。(それなりに痛いし、なんで自分の体で試したのかすごく後悔した)
お金に関してはオリジナル貨幣なので正確には言えないが、彫られている数字を見るに50モリガン銅貨。これもゲーム開始時に所持しているお金と一緒だ。
そして最後に携帯電話。
小さいスマホのような端末があったのだが、俺らがよく知るスマホとは少し違うようだ。
画面をONにすると液晶が光るのだが、そこにはスマホのようなアイコン画面はなく、フリック入力で文字を打てるUIと通話ボタンだけが出てくるだけだ。
通話ボタンがあるので、「電話をしろ」ということだと思うのだが、これが上手くいかなかった。
それぞれのリアルでの携帯電話番号を打ったが繋がらない。一応110やCMで覚えていた番号を打ったりもしたが同じであった。
謎だが、俺たちをここに呼び集めた何者かがいて、そいつがこれを持っていろといわんばかりに置いていったのだから、そのうちこれに何かしらの連絡が入るだろうという結論になった。
依然不安や緊張はあるが、こうして知り合いにも会えて時間もたってくると、だんだんと気が緩んできた。それは俺だけでなく女子三人もそうだろう。
携帯の問題をとりあず終了させたことで、俺の部屋でちょっとした女子会トークが始まった。
俺が金を数えたり、巾着にしまったりしている間、女子達はベッドに腰かけて談笑していた。
女子らしくまずは自分達が身につけている初期衣装からだ。
初期装備だけあってファンタジーっぽい布の服なのだが、村人の服ほどやぼったさはなく、一流ブランドで仕立てようなシルエットラインが綺麗に出るように縫合されている。あまりにもそれぞれの体にフィットしているので、おそらくこれは完全にオーダーメイドだ。
その為女性陣は胸から腰回りにかけて、必要以上に立体感を強調されていた。
確かにゲーム中でのキャラクターはそうだったと記憶しているが、そんなところまでゲームを再現していた。
ちなみに女性の服は胸元が広めに開けられていて、胸元まで見えるデザインになっている。
ゲーム中ではそんなのまったく気にならなかったのだが、こうして生身の体で再現され、しかも先程のシルエットラインもあわせると、正直目のやり場に困る程だ。
特にヌヌハさん。
彼女の立体的な胸の膨らみは童貞殺しの破壊力がある。ヌヌハさん以外の二人はかなりスレンダーなので横に並ぶと落差が凄い。
ナンディはそれを正直に伝えた。
「いやあ、でもさすがヌヌハ先輩ですね。以前から大きいとは思っていましたが、制服の上からとは違って、初期装備で見ると思ってた以上です。腰なんてすっごい細いし!そのくびれ具合がより胸の大きさを強調するっていうんですか。超わがままボディっていうんですか。正直うらやましいです!」
うん、本当その通りだな。携帯を調べる手を止めて、ついヌヌハさんの首から下を見てしまう。
「ちょ、ちょっとやめてナンディちゃん」
恥ずかしそうにするヌヌハさんもまじかわいい。
「いや、本当にそうですねえ」
俺もしみじみと言った。
「お前は見なくていい!」
ユキノコさんから軽く頭を叩かれる。
「君が言うとセクハラだからね。言っておくけど」
ヌヌハさんの目がジト目に変わってきた。
「はい、すいません。調子のりました」
「なんか、この服でいるのも恥ずかしいなあ。ゲームでは全然気づかなかったけど、なんかこの服、胸元がけっこうあいてるんだよねえ」
「本当そうですよね。このゲーム、女子の鎧とか服って現実にいたら、割とびっくりなレベルで露出度高かったりしますもんね。敵からの攻撃守る気あるのかよ!ってつっこみたくなりますもん」
ワールドエンドのようなゲームに限らず、小説とかアニメとか、ファンタジーの女性キャラクターは上か下か横のどれかは、乳をはみださねばならん約束があるのかと思うほどだ。
もちろん需要があるからだけど。
「でもプレイしてると全然気になってなかったんだから不思議ですけど」
「俺も、実はさっきからそう思っていました……」
言いながら再びヌヌハさんを見てしまう。
「だから見ないでよって」
ヌヌハさんが慌てて胸元を隠し、体を横に向ける。俺は慌てて弁解しようとした。
「いや、すみません。そのナンディが着ているのを見たときは気づかなかったんですが……」
「ちょっと先輩!それどういう意味ですか!確かにヌヌハさんにくらべたらあれかもしれませんけど!」
ナンディが立ち上がりながら大声で言った。どうもさっきから失言が多い。
「ゴボタ君最低……」
「いや、ごめん、違う違う、そうじゃなくて、俺はあくまでみんなの話にあわせただけで……ってそんなこといってる場合ですか!俺らは今、自分達が置かれているこの状況を、もっと話し合うべきだ!そうでしょう?」
俺は勢いでこの話から逃げ出そうとした。
「あ~、逆ギレして、ごまかそうとしてる~」
しかしナンディのつっこみで、俺は逃げ出すことができなかった。
「だからごめんってば。まじごめん。小さいとかいって本当ごめん」
「小さいってどういうことですか!違う違ういってやっぱりそういう意味だったんだ!」
「いや、ちがくて……」
「ゴボタ君最悪……」
「私は小さくありません!ヌヌハさんが大きすぎるだけです!それに私、ユキノコ先輩よりはありますよ!」
「おいこら、お前それはどういう意味だ」
ついにユキノコさんまで参戦した。
「いえですから、大中小の順番を決めただけですよ」
「カテゴリ別けするなら、ヌヌハは大かもしれんが、私もお前も小だろう。まるで自分は中あるみたいじゃないか」
「ふふふ、それが言葉のマジックです。評価は常に相対的ですから!それに私はまだ将来の可能性を秘めていますし」
ナンディは自慢気に胸を反らす。起伏の少ない緩やかな曲線が美しい。
「それなら私だってまだ可能性はあるわ!」
「いや、二人とも落ちついて……」
俺は止めるが、二人とも聞いてはいなかった。そんな二人のやりとりをみて、ヌヌハさんがぼそっとつぶやいた。
「二人ともいいなあ。私はもっと小さくなりたいよ……」
「「自慢か!」」
二人の息のあったつっこみがはいった。
「ええい!くだらんハレンチな話はこれで終わりだ!」
ユキノコさんがやれやれと座り直した。
「そ、そうですね。私たち、もっと話し合うべきことがあるような気がします」
ナンディも落ち着いたようだ。
「そうだね。まずはみんな座ろう。全部ゴボタ君が悪いってことで」
どうやらヌヌハ裁判官の判決によって、俺の有罪が確定してしまったようだ。
「そうですね。先輩の視線で妊娠させられてもいやですし……」
「俺はどんな目力もってるんだよ!」
俺のつっこみを完全スルーして続けてユキノコさんが言った。
「ゴボタにはあとで、ちょっとした罰を受けてもらおう。内容は考えてあるから、後のお楽しみだ」
何それ怖い。悪役みたいなヒヒヒ笑顔が超怖い。
「え~と、それで何の話だっけ?」
「初期装備がかわいい話ですか?」
ナンディが答える。
「うん、違うな。そうじゃない」
「普段のコスプレ衣装と比べてどうですか?」
「う~ん、しっかり作られてるな。驚くほどに」
「実際この服お金かかってますよね。初期装備の服が体型にぴったりフィットしてる件とかどうですか?」
俺も気になっていたことを言ってみた。
「またイヤらしい質問ですか?なんですか?AVの見すぎですか?」
ナンディが見下すような目でこちらを見る。あれ、言葉選び間違えたかな。
「違うよ!この服がまるでオーダーメイドみたいに俺らの体にぴったりだって話だよ。その、胸が強調されてるっていうのも、ひとえにそういうことでしょう?要は誰かが採寸したってことで、俺らをここに集めるのにかなり計画性があったってことになりませんか?」
俺がさきほどから思っていたオーダーメイド説を唱えた。
「おお、言われてみるとそういえば体型にフィットしている。私がDカップだということをいつのまに調べたんだろ!?何か気持ち悪い!」
ナンディは悪寒が走ったように両腕で自分を抱きしめた。
「どれだけ私たちのことを知ってるんだと寒気がするよな。あとナンディはさらりと嘘をいうな。嘘を。どうせAだろお前も」
ユキノコさんが鋭く突っ込む。
「あ、いえ私Bですけど……あの、も、ってどういうことですかね」
ナンディが真顔で真面目なトーンで返した。
「……………。コホン。そこで、私はひとつ提案したいのだが……」
ユキノコさんはナンディに背を向けるように俺とヌヌハさんに向かって言った。
「もう少しこの世界を探索してみないか?」
「あの、も、ってところを詳しく……」
しつこく聞くナンディ。
「私たちはまだ街の一部しか見ていない。ここにいても、この世界は一体何なのかずっとわからないままだ」
無視するユキノコさん。
「もしかしてユキノコ先輩はA……」
「うるさい!」
ユキノコさんが魔法の杖を振った。それをさっとよけるナンディ。何だか息のあったつっこみ漫才をみているようだった。とにかくこのままでは話が進まないので、
「はいはい!いいと思います!というか見に行きたいなってさっきから思ってました!」
と大声で賛成した。
「何よりここにいてもトライたちには会えませんからね。早く噴水広場に行きましょう。多分そこにいれば会えるはずです」
「うむ、まったくだ!そもそもゴボタが最初から忘れ物をしなければいいのだ!」
俺はユキノコさんに杖でかるく脇腹を小突かれた。