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第01話 一日目:異世界へのご招待

 人気MMO「ワールドエンド」

 俺はどうやらそのゲームを再現したような世界にやってきたようだ。

 ゲームでよく見た中世の町並みを眼下に見ながら、さきほどから呆然と立ち尽くしている。


 さてどうしようか。

 

 最初に一つ断っておくと、「ワールドエンド」はマウスとキーボードでカチカチ遊ぶタイプのごく普通のPCゲームで、SA○とか□グホライズンのような、ごっついヘッドセットつけて電脳空間にダイブとかは一切しない。ゲームからログアウトできないとかそんな要素はこれっぽっちもないのだ。

 だからゲーム世界にきた、のではなくゲームを再現したような世界に来た。わけだ。


 改めて自己紹介すると俺の名前は五坪正太(ごつぼせいた)17歳。高2。部活の仲間からはゴボタと呼ばれている。

 入学してから一年半、学業を全力でおろそかにしつつゲーム部の仲間と人気MMO「ワールドエンド」に励んできた。

 ついさっきまでだって自宅で遊んでいたばかりだ。

 いつものように深夜まで遊んで、

 寝た。

 と思ったら暖炉とかあるような「いかにも中世」な変な部屋にいたわけです。

 それに格好も変わってる。中世の村人みたいな服に皮のブーツに皮の手袋、いわゆるワールドエンドの初期装備に着替えていたわけです。

 ここでこの不思議な部屋もワールドエンドのスタート直後のマイルームを再現したようなものだと気づいた。

 でも違うところもあった。

 だってその部屋の壁一枚隔てた隣の部屋は、水洗トイレや洗面台や風呂があるいわゆるユニットバス、現代の部屋があったんだよね。

 鏡を見ればいつもの俺の顔。放課後、部活の先輩に整えられた眉もそのままだ。記憶もはっきりしているし、時間経過も感じられない。

 それで俺はこう思ったね、ワールドエンドを再現したようなホテルを作ったんだなと。

 それでモニター兼CMか何かのドッキリをユーザーである俺に仕掛けているんだろうと。

 起きた直後の、あわてふためく俺の顔と行動はさぞ面白かっただろう。パニックでちょっと泣きそうだったからね。モニターしているであろう大人たちはさぞ愉快だったでしょうな。

 それでちょっと憤りながら、部屋を出たわけです。

 そこにドッキリ大成功みたいな立て札があると信じて。

 でもないわけですよ。

 部屋を出てもゲームを再現したような世界が続いている。

 頭に?マークを浮かべながら、

 どんどん進んでいく。

 途中人とすれ違うけど、そいつらもゲームを再現したような鎧やらローブやらを着込んでる。

 ひとつゲームと違うところは顔が日本人ってところ。

 西洋人みたいな美形しかいないゲームと違って、そいつらはまあ普通というか微妙な顔立ちだったことかな。

 それで部屋からまっすぐ進んだところにある噴水広場にやってきて、そこから眼下に広がるゲームでよく見た町並みを見て、呆然としているわけです。

 大量の家々が軒を連ねるようにひしめき合い、家の向こうには川が流れ大きな橋が架かっている。その大橋の上には小さな店がいくつも建てられている。

 橋の向こうには、この街を囲む壁が異様に高くそびえ立っており、さらに遠くに山脈が見えた。

 これら全てが、ゲーム中に出てくる最初の街と同じデザインだ


 うん。これもうドッキリじゃないね。金で再現できるレベルを越えてるよ。

 これが見知らぬ中世だったら普通(?)の異世界転生だねって思うが、何故かゲームを再現しているところが謎だ。

 謎は他にもある。キャスティングだ。

 すれ違った奴等もそうだったが、噴水広場にいる奴等は全員日本人みたいに見えるし、所々聞こえる会話も日本語だ。

 誰かがこの世界を作ったんだとしたら、あえて日本人を雇ったわけ?

 このありえないレベルの世界の再現度と、キャスティングもうちょい頑張れよと言いたくなる組み合わせに違和感を感じる。

 それともこいつらも俺と同じく謎の異世界転移したのだろうか。でもそうは見えないくらい自然にしてるけど。それともすでのここの生活が長いとか?

 こうしていても仕方がないので、彼らの一人に話しかけて少しでも情報を得ようかと思っていた時、遠くから聞き慣れた少女の声が聞こえてきた。


「せんぱ~い!ゴボタせんぱ~い!」


 振り返ると、後輩であるナンディがこちらに走ってきていた。

 ナンディこと新倉幸果。

 彼女は同じゲーム部の一つ下の後輩だ。


「ゴボタせんぱ~い」


 大声で俺のことを叫ぶナンディ。


「ナンディ!」


 俺も大声で応える。この心細い状況で身近な知り合いに出会えたことに、嬉しくて涙が出そうだ。

 彼女もそうなのだろう。

 俺のところまで全力で走ってきて、そのままほとんど減速することなく体当たりをするように抱きついてきた。


「ぐへっふぉ」


 彼女の頭が肋骨にぶつかり変な声が出る。


「先輩?先輩ですよね!?本物の先輩ですよね?」


「うぐぐ……本物だ……よ……いてて」


「よかったあ。よかったあ。知ってる人がいたよぉ。一体何なのかまるでわからなくて……それでそれですごく不安で……」


 ナンディは心の不安を押し出すように、俺の体をぎゅうっと締めつけるように抱きつく。男としては小柄な部類に属する俺は、こう抱きつかれるとほとんど目の前にナンディの顔がくる。

 顔を見れば目には涙が溜まっている。本当に心細かったのだろう。

 

「そ、そうか。同じだな。俺も気づいたら謎の部屋で寝ててさ……」


「おんなじです!私も同じです。さっき起きたら知らない部屋で、でもよく見たらワールドエンドの世界で……誰かに話しかけても日本?何だそれって……怖いこと言うし」


「もう誰かに話しかけたの?」


「はい、何人かに話しかけたんですけど、みんな日本なんて知らない。ここはタクトルだって言うんですよ」


 タクトル、街の名前もゲームそのものだった。


「一体何なんだろうな。何で俺たちこんなところに」


「もしかして他にもいるんでしょうか?部員メンバーとか」


「トライとかユキノコさんたちも?」


 確かに俺とナンディがいるなら、他のゲーム部の連中も召喚されていてもおかしくない。

 そんな俺の予感という名のフラグは速攻に回収された。


「大声がするなと思ったら、やはりナンディとゴボタではないか!」


「本当だあ!おーい二人とも~」


 声の方向を見ると、階段下から部長のユキノコさんとヌヌハさんが広場に登ってくるところだった。二人は既に合流していたのだろう。

 彼女たちも俺たちと同じ初期装備を身にまとっている。

 これでゲーム部七人中の四人が集まった。残りの三人、トライとサイ、それにヨヨミさんがこの世界にいる確率は高そうだ。


「ふむこの短い間に随分と親密度をあげたな二人とも。吊り橋効果というやつか、不安な世界に二人でいるとそうもなるか」


 ナンディが抱きついている状態の俺らを見て、ユキノコさんはニヒヒと笑顔になる。


「あ、いやこれは違う!ちがくて、そのナンディが勝手に」


 俺は慌てて取り繕う。主にユキノコさんの横にいるヌヌハさんに向かって。

どうしよう、彼女に変な誤解されたら……違うんです。これは何でもないんですよ!俺としてはあなたに抱きついてきて欲しかったんです、というか抱きつきたいんです。

 そんな俺の気持ちとは裏腹にヌヌハさんはなんとも思ってないように、微笑ましいねえなんて顔をしているが。


「む、何ですか先輩、まるで私に抱きつかれるのが迷惑って口ぶりですけど?」


 ナンディが面白くなさそうに俺に向かってジト目をぶつけてくる。先程の捨てられた子犬みたいな弱さは既にない。ただ離れる素振りもない。


「いやそういうわけじゃないけど、とりあえず一旦離れませんか?ちょっと不安で抱きついただけじゃないか」


「そう言われると離れたくありません。私今すっごく不安なんでしばらくこのまま抱きつきます」


「いや、まずいだろ」


「まずくありません。えいえいグリグリ」


 ナンディは頭を俺の胸にぐりぐりと押しつけてくる。


「おいおい、こんな状況なのにお前達は余裕があるなあ。ラブコメやってる場合じゃないぞ」


 ユキノコさんがたしなめるように言った。

 く、あなたの一言のせいなのに……ぎりぎり。この人は俺の気持ちわかっててああ言ったに違いないのだ。


「まあ、そうですね。先輩をからかう、じゃない冗談はここらへんにして状況を把握しましょう」


 ナンディはスイッチを切り替えたのか、ぱっと俺から離れた。

 あれ?何?お前俺をからかってたの?

 俺がヌヌハさんを好きだってことが、もしかしてナンディにもばれてるのかしら?


「二人はいつこっちに来たんですか?」


 赤面して何も言えない俺の代わりにナンディが質問する。


「んー三十分前以上かなあ。謎の部屋で起きてさ」


 どうやらヌヌハさんも俺たちと同じようだ。


「あまりのことによくわからないままどんどん進んじゃって、大橋のところの商業区まで行っちゃって道に迷っちゃったんだよね、そこで偶然ユキに会ったんだ」


「いや幸運だったな。たまたま私もそちらを視察してたからな。私は一番最初なのかな?多分一時間前からいるから結構さまよってたんだ」


ユキノコさんが眼下の街を指さす。


「あの遠くに見える町並みが、近くに行ったら実ははりぼてってことはないんですね」


「ないな。店の中までしっかり作られていたよ。多分買い物もできると思う」


「ううむ。何なんですかね……これ?」


 ナンディがお手上げといわんばかりに両手を上げた。

 どうしてこんなことになったのだろうか。

 俺は平和だった今日の放課後の事を懐かしく思い出す。



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