侵入者
唯ちゃんと別れ数分、俺が住んでいるアパートに到着。
築50年だったかな、なので見た目はかなり古い。だけど中は改装され広さも2LKと一人暮らしには充分過ぎるので俺は気に入っている。そして何より家賃が安い。両親から仕送りはあるがほとんど学費の支払いに使っているため実際はバイト代だけで生活をしている状態だ。
まぁ入学した時からこの生活なので自然と節約術が身に付いたし、激安スーパーを巡るうちに近所の奥様方とも知り合いになれたし、激安スーパーの情報を教えてくれたり作りすぎたおかずをくれたりととても良くしてもらっている。
と、まぁ長々と語ってしまったが要するにとても良い物件だということが伝わっただろうか?
じゃあそろそろ寒いし中に入ろうかと思って鍵を……開いてる?
……えっと……家を出るとき鍵は閉めたから開いてるはずがない……と思うんだけど……。
合鍵を作った覚えは無いし、窓が割られているだとか無理矢理入った形跡もない。残る可能性は管理人さんに開けてもらったか、ピッキングして侵入したか……。
耳を澄ましても室内から物音はしないからもう誰も居ないと思うんだけど……う~ん。あんまり変な騒ぎを起こしてここを出ていくなんて事には絶対になりたくない。ならば自分で解決するしかない。とりあえず中に入るか……。
ドアを開ける。玄関は荒らされた形跡はない。だが一つ気になるものが……
「……こんなスニーカー持ってたっけ?」
明らかに女性の物と思われるスニーカーが……。ということはまだ中に居るはず。
足音をたてないように進み部屋のドアを開ける。中は真っ暗で人の気配は無いし荒らされた様子も無い。
つー事は俺の部屋か?緊張しながら俺の部屋の扉を開ける。パッと見いつものと変わらないように見えるが明らかにおかしな点が一つ。
……俺のベッドで誰か寝てる。こえーよ一体誰だよ!?
ビビりながらベッドに近づき緊張しながら掛け布団を捲っていくと……
「スー……スー……」
「…………」
お前かよ!?(←心の声)
俺のよく知る人物だった。
☆
「うぅ……まだおでこがジンジンする~」
「お前なぁ……来るなら連絡しろよ……」
所変わって今はリビング。
目の前でおでこを押さえている女の子。この子は俺の父親の妹の娘、いわゆる従妹なのだ。
そしてなぜ俺の部屋に侵入出来たかというと大家さんに頼んだら開けてくれたそうだ。
「だからっていきなりデコピンはビックリするよ~」
「どう見てもお前が悪いだろ……で、何しに来た?」
「何しにってお兄ちゃんに会いに来たんだよ♪」
「……まだ電車出てるから家まで送ってやるよ」
「何で帰らそうとするの!?」
「ほら早く帰らないと要さんが心配するぞ」
「ちょっと待って!?他にも理由があるの!!」
「……何だよ?」
「ふっふっふ……なんと!!お兄ちゃんと同じ大学に入学していました!!」
「……聞いてないんだけど」
「うん言ってないもん、ビックリさせようと思って」
「それにしても何でこのタイミングなんだよ?」
今は4月の中旬、入学式から1週間程が経っている。
「色々と準備してたからね~」
「じゃあもう一人暮らししてるのか?」
「ううん」
「家から通うのか?」
「違うよ~」
「?」
「今日からお兄ちゃんとここで暮らすの」
「…………」
ピップルルルル……プルルルル
「もしもーし」
「こんばんは要さん、景です。すいませんこんな時間に電話して」
「いーよいーよ」
「で、本題なんですが……今うちに美咲が居るんですけど」
「あーそうそう。なんか景と一緒に暮らしたいって準備してたわ」
「……なんで止めなかったんですか?」
「私も色々と考えたよ?で、こっちの方が便利だな~って思ったから」
「俺に拒否権は?」
「残念ながら両家公認です」
「はぁ……でしょうね」
「そーゆー事。あと生活費は景の口座に振り込むからね?それじゃ娘を頼んだ」ピッ
「お母さんなんて言ってた?」
「『娘を頼んだ』って。マジでうちで暮らすのか?」
「もちろん♪」
まさかこんな事になるなんて誰が想像しようものか。えーマジでこれから美咲と二人で暮らすのか……。
……眠い、疲れた、もうどうとでもなれ。
「じゃああそこの部屋使ってくれ、布団もあるから」
と言って客人用の部屋を指差す。まぁ客人=修司なんだが。
「ありがとうお兄ちゃん♪」
「はいはいわかったからくっつくな」
時刻を確認すると午後11時過ぎ。さっさとシャワー入るか。部屋に行き着替えを持って脱衣場へと向かう。
「お兄ちゃんシャワー入るの?」
「ああ、もう夜も遅いし明日も大学あるんだから美咲は寝てな」
「私も一緒にシャワー入る~」
「おバカ。うちの風呂はそんなに大きくありません」
「……ダメな理由そこなんだ」
美咲が何か言った気がしたが気のせいだろう。さぁシャワーシャワーっと。
☆
「ふぃーさっぱりした~」
シャワーを浴びてタオルで髪を乾かしながらリビングへと戻ると……そこに一人の修羅がいた。
テーブルの上に置いていた俺のスマホを持って真顔で見ている美咲が……。
「……おーい美咲さん?」
「……誰?」
「え?」
「……この人は誰?」
と言ってスマホの画面をこちらに向ける。見るとメッセージが一件。差出人は……西山唯ちゃん?
「誰って後輩だけど……」
「ふーん後輩ねぇ……じゃあこの『土曜日が待ち遠しいです』って何?」
「あー……今日合コンがあってさ」
「ご、合コン!?お兄ちゃん合コンに行ってたの!?」
「え?うん……でその唯ちゃん「唯ちゃん!?」……と一緒に帰ってきたんだけど……」
「い、一緒に……」
「それで土曜日ってのは何か色々あってお礼がしたいからって言われて……」
「へ~……でオーケーしたと?」
「中々引いてくれなかったしな」
「……むぅ……お兄ちゃんは私のものだもん……」
「何むくれてんだ?」
「別に……」
「……?」
そう言うと部屋に行ってしまった。原因は分からんがどうやら怒らせてしまったようだ。
……う~ん、そっとしとくか。俺ももう眠いし部屋に行こう。と、その前に返事返さないと。
リビングの電気を消して自分の部屋のベッドに寝転がる。
「『俺も今日は楽しかった。土曜日も楽しみにしてる。』と、送信」
スマホを枕元に置き布団にくるまる。
今日は濃い1日だったな~と思い出しながら眠りに就くのだった。