City 1
地下に不案内な者は、どこに自分がいるのか、すぐに分からなくなってしまう。スタンリーは、習慣的にねぐらのある方に足を向けていた。
少年は、相変わらず黙って、スタンリーの後からついてくる。
撒いてしまうか。
一瞬そんな考えが、スタンリーの頭をよぎった。
それとも部屋に連れ込むか。
スタンリーは、足を止めた。少年は、スタンリーの横まできて同じように足を止めた。見上げてくる少年の顔が、ぶらさがっている街灯の橙色の明かりに浮かんでいる。
その顔に表情はない。スモーキーブルーの瞳が、明かりの加減で黒に見える。
顔はいい。服を、脱がさなくてもそそられる体型をしていることは分かる。性格は――。
そこまで考えて、スタンリーは意地悪く鼻を鳴らした。痛い目を見れば、少しは大人しくなるかもしれない。
スタンリーは別に、砂漠に出るのが嫌なのでも、昔馴染みの骨を砂漠に埋めるという感傷的な話が嫌なのでもない。スタンリーは、この少年の言いなりになるのが嫌なだけだった。
四十前の男とも思えない、幼稚っぽさではある。スタンリーは、傍らに立つ少年の細い腰に腕を回した。
耳許に鼻面を寄せる。
「流石に俺も、留守にする間の荷物ぐらいまとめたいんだがな」
まとめる程の荷物なんてない。いつだって身一つで出かけられた。そうでなければ、こんな場所では暮らしていけない。
唯一、気になるのは、虎の子の酒のボトルだけだ。
出発は明日にしようと、少年を部屋に誘う。そこから先は言わなくても分かる。悲鳴を上げて懇願する少年を想像して、スタンリーは気分が少し軽くなった。
少年は、馴れた動作で、スタンリーから身を離した。
「それは、できなくなったようだ」
再び少年を抱き寄せようとしたスタンリーの手は、その言葉で宙に浮く。
気配を感じた時、スタンリー達は、数人の男達に囲まれていた。三人は、どれも先程、店で何やらおかしな動きをしていた連中だった。
一人の男が、少年を人質にとる。少年は抵抗しなかった。できなかったのかもしれない。
少年の喉元には、白いナイフの刃があてがわれている。
「あんたにゃ用はない。話があるのはこっちのガキさ」
男達は、少年の身体を盾にするようにして、スタンリーからジリジリと離れていく。
「それとも、手を出すかい?」
そう言った男は、陰気な笑みを見せた。
スタンリーの名を聞かされて、スタンリーがどう動くか、面白がっている様子だった。所詮、彼の名前もその程度でしかないらしい。
少年は、喉にナイフを突きつけられても、平気な顔をしていた。少年は、スタンリーをその紛い物の黒い瞳で見つめている。
スタンリーは、ニヤリと笑っていた。
「砂漠につくまでのボディガードまで、引き受けたつもりはない」
スタンリーは内心、喝采を叫びたい気持ちだった。
この無表情で落ち着き払ったガキを、跪かせてやりたかった。頭を下げて、いや泣き喚く姿が見たかったのか。殊勝な言葉の一つも吐けば、可愛げがあるだろう。
だが少年は、分かったというように顎を軽く動かしただけだ。