〈Bar〉 5
宝探しなんてものに人生を賭けられるほど、スタンリーは若くない。スタンリーの血は、とっくに冷めきっている。
冷めている筈のスタンリーより、少年の方がずっと冷静だった。
身体全体で拒否しているスタンリーに、少年は冷ややかともとれる物言いを崩さない。
「それじゃない。親父の遺言で、砂漠に骨を埋めたいんだ」
スタンリーは、再び少年に向き直っていた。
「奴は死んだのか?」
少年が無言のまま、こくりと頷いた。
ジョンが死んだ。
死んでいて当然だ。
ジョンは、スタンリーより二つほど年上だった。
あっさりと賞金稼ぎをやめたスタンリーと違って、ジョンは幾人もの賞金稼ぎを子飼いにして、大規模な砂漠への遠征を行っていた。十年ぐらい前まで、ジョンの噂は時々聞いていたが、彼の栄光の人生もそこまでだった。
その後、ジョンがどうなったのかは伝わっていない。死んだという噂は聞かなかったので、スタンリーと同じように現役を退いたのだろうと思っていた。
そのあたりからだろう。スタンリーとジョンの名が、伝説として語られるようになったのは。
もう何年もすれば、やがて人々の記憶から、スタンリーの名も忘れられていくに違いない。今はまだ、呪いの言葉程度には、スタンリーの名前も効力は発揮するらしい。
〈Bar〉の中の人間の、スタンリーを見る目つきが変わったことからも分かる。
少年は、淡々と言葉を続けた。
「奥まで入る気はない。宝探しに人生をかけた親父の為に、砂漠に骨を埋めてやりたい。それで、昔の仲間だったあんたに立ち会い人になってもらいたかった。ついでに、傭兵として少しばかり働いてもらいたい。礼は相応のものを用意する」
この少年が生まれたのは、当然スタンリーがジョンのコンビを解消した後だ。噂にも結婚したとは聞いていないから、ジョンが華やかなりし頃、中流階級の女に生ませた子供か何かなのかもしれない。
「どうして俺のことを」
知ったのか、それとも探し出せたのかと、スタンリーは聞くつもりだったのかもしれない。それともジョンが、自分のことをどうして教えたのか、それが聞きたかったのかもしれない。
ジョンとは、喧嘩別れのような形で終わっている。自分はともかく、ジョンはスタンリーを憎みさえしていた筈だ。
「親父から色々聞かされていたから」
少年は、ほんの少しだけ目を伏せた。長い睫が陰を落とす。その時だけ、少年の淡々とした姿勢が崩れた。
少年が、造り物のように奇麗な顔をしていることに、スタンリーは今更ながら気付く。よく無事にここまで辿りつけたものだ。
スタンリーは少年の細い頤を、壊れ物を扱うような手つきで持ち上げた。
「似てないな」