〈Bar〉 3
砂漠に出る者も出ない者も、ここの連中は若くして死ぬ。薬で身体を持ち崩すか、誰かに殺られるかだ。それが、ここにいる殆どの連中の運命だ。
平均寿命を遥かに上回る年齢まで生きているスタンリーは、〈Bar〉の片隅で静かに酒を飲んで余生を送っている。
酒場では、完全に舐められた存在だった。爺さんと呼ばれてもスタンリーは、阿りも媚もせず、一人で酒を飲むだけだ。
少年は、野次を飛ばした男達に無言の一瞥をくれる。少年は、スタンリーのシャツの襟を両手で掴んだかと思うと、一気に引き裂いた。
ボタンがパラパラと飛んで、暗がりに見えなくなった。
スタンリーの胸から腹までが、露わになる。白い短い毛に被われた下には、無駄な肉はついていなかった。鍛えられて締まった身体だ。
恥部を晒されたかのように、カッとなったスタンリーは立ち上がっていた。
立ち上がると、少年の背はスタンリーの胸ほどもない。その時はなぜか、若い頃のように自制心が働かなかった。一瞬の内に、血が沸騰したような気がする。
「何をする!」
少年のシャツの襟首を、両手で締め上げた。鼻の頭に皴を寄せて唸ると、鋭い犬歯が剥き出しになる。薬はやっていないので、歯は現役だった。
その一噛みで、腕や肩の肉を噛みちぎることもできる。老いぼれでも、獣人は獣人だ。
酒場の連中は、思わぬスタンリーの攻撃に驚いたようだが、肝心の少年は意に介した様子はなかった。喉を締められても、平気な顔をしている。
「新しいシャツは弁償しよう」
少年は、喉を締められていたため声こそ凉れていたが、ひどく落ち着いた様子で言った。スタンリーの方が、途惑いを覚えてしまう。
出鼻を挫かれ、スタンリーは怒りの持っていき場をなくした。不愉快に顔を歪めていたものの、スタンリーは少年の襟首から手を放す。
「当たり前だ」
ぶっきらぼうに吐き捨てるが、この少年をどのように相手をしたものか分からなかった。どうしていいのか分からずに、スタンリーは立ち尽くしていた。
少年が、妙に大人びた笑みを見せる。
「あんたは、老いぼれでも、貧弱なそこらの男どもとも違う。まだまだ使い物になるだろう」
わざと卑猥に聞こえる物言いで、少年は嬲るようにスタンリーの露わになった胸筋から腹筋、ズボンで隠された下腹までを、指で撫で下ろした。
スタンリー自身に触れられた訳でも、触れ方自体何らエロティックなものではなかったが、痺れるような感覚に襲われる。
思わず、少年の腕を掴んでいた。細い腕だ。少年の肩も腰も華奢で、ほんの少し力を込めただけで壊れてしまいそうに見える。
スタンリーは、久しぶりに押さえられない破壊衝動を感じた。
「犯すぞ」
腕を掴んだまま、少年の顔に鼻面を近付けて、スタンリーは声を低めて言った。