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ラボで

 目覚めた後のPHをどうするか、スタンリーは決めていなかった。

 ダウに託すのは、幾ら何でも甘え過ぎというものだろう。

 イフ自身ならば、手元に置くのもよかった。しかし、幾らそっくりでも相手はイフではない、PHなのだ。

 イフは、Z1(ジーワン)は、いや、あの少年は、もうこの世にはいないのだ。

 

 スタンリーはダウとともに、裏口からラボの建物に潜り込んだ。

 研究員の一人が、ダウの知り合いとのことだった。 

 研究員は、金と知的好奇心の為にPHの再生を、一も二もなく承諾したという。

 もちろん正規の手続きは踏んでいないので、スタンリー達も大手を振って正面から入っていく訳にはいかなかった。

 

 スタンリーは、どんな顔をして、Z1に会えばいいのか分からなかった。

 

 教えられた研究員の、個人ラボの扉の前。

 一緒にいたダウに、スタンリーは感動の再会みたいで格好悪いから、一人にしてくれないかと冗談めかして言った。 

 ダウは、控え室に研究員を探しにいくと言って、戻っていった。


 スタンリーは、扉横のボタンを押して、パスワードつきのオートドアを開ける。パスワードは、ダウが教えてくれた。

 シュンと音を立てて、ドアが横に滑る。


 部屋の中には、誰かが立っていた。一瞬、研究員かとも思ったが、そうではないと思い直す。

 その誰かは、薄い水色のワンピースのように丈の長いシャツを着ていて、足は裸足だ。

 振り返ったのは、薄い金髪とスモーキーブルーの瞳を持つ少年だった。

「リー、来てくれたんだね」

 驚いたように見開かれた瞳。嬉しさを隠せない声。

 駆け寄ろうとする少年に、スタンリーも駆け寄って腕に抱き止めた。

 スタンリーの背後で、ドアがシュッと音を立てて閉まった。

 少年の体は、温かく柔らかい。髪の毛からは、洗い立てのような清潔な香りがした。

 スタンリーは、少年の髪に鼻面を埋める。

「当り前だろう」

 そう言ってスタンリーは、少年を強く抱いていた。

 そこで、扉が開いた。

 ダウが研究員とともに戻ってきたのかと思ったが、現れたのは白衣を羽織った男一人だった。ダウが言っていた研究員だろうかと、スタンリーは警戒する。

 男は、スタンリーを見るとひどく驚いた。

「君、何をやっているんだ?」

 何って。


 スタンリーは、自分の格好を考えて、恥ずかしくなった。

 思わず嬉しくて少年を抱き締めていたが、あまり見られたい場面ではない。

「俺じゃなくって、こいつが抱きついてきて」

 男は眉根を寄せると、スタンリーをどうしたものかというように見た。

「動く筈がない。まだ起動プログラムを立ち上げていないんだから」

 スタンリーは、ハッとして少年を見下ろした。少年は、目を閉じてぐったりとスタンリーに持たれかかっている。

 温もりなどない。皮膚は弾力があるが、どこか硬質さも感じさせる。

 スタンリーは、混乱した。

 たった今、少年が抱きついてきた時の温もりも、リーと呼んだ声も耳に残っている。

「だって、俺のことをリーって呼んで」

 スタンリーは、そのぐったりと動かない泥人形のような重い身体を持て余してそう言った。

 白衣の男は、スタンリーの様子から、からかっているのではないと判断したらしかった。

「そんな筈はないんだがな。たとえ何かのショックで動作行動が起きても、以前の記憶は全部消去されているんだから」

 白衣の男も、冗談を言っているようではない。


 スタンリーは、夢を見ていたのかもしれない。

 こうだったらいいと思うスタンリーの願いが、白昼夢として現れたのかもしれない。

 スタンリーは、無意識の内に、Z1をベッドから抱き上げてここに運んでしまったのだろう。スタンリーは、自分をそう納得させた。

 

 スタンリーは、白衣の男――バーンの指示で、Z1をベッドに腰掛けさせる。

 バーンは、持っていたラップトップコンピューターをベッドに置いて、ポケットから出した配線と繋いで、電源をオンにした。

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