こんな終わり
「殺し屋ってのも、因果な商売だってか」
スタンリーの言葉に皮肉はなかった。
男は、何も言わずに横を向いた。そうだと言われていれば、スタンリーは、男を一発張り飛ばしていただろう。
スタンリーは、暗い目になる。
「こいつを殺そうとしていた奴と、こいつを殺そうとしていた奴を殺そうとしていた奴と、ジョンを殺した奴と、ジョンを殺した奴を殺そうとしていた奴と」
スタンリーは、白い煙を上げている煙草を、ブーツの先で踏みにじった。
「PHは、部品を変えればまだ使える。あんたが連れていってやると、いいんじゃないか。フィズも喜ぶと思う。自分の身代わりになる為だけに造られたPHのことで、胸を痛めていたようだから」
もしも。もしも。もしも。
スタンリーは、振り向くまいとしていた背後に向き直った。
「あいつは死んだのに、こんなモノだけあったって」
台の上には、蝋のように白い動かない人形が横たわっている。その台の下で、白いシャツを己の血で真っ赤に染めた少年は倒れていた。
スタンリーは、持っていた銃を、台の上に横たえられた人形に向けた。
滅茶苦茶にして、二度と動かないようにしてやる。
こんなモノさえなければ、こんなモノがあったって。
Z1-PPRは、少年と同じ顔をして静かにそこに置かれている。
今にも起き上がって、今までのは全部お芝居だと、言いそうに見える。
スタンリーは、銃のグリップをきつく握り締めた。
こんなモノ。
結局、スタンリーは、引き金を引くことができなかった。少年と同じ顔をしたものを、撃てる筈がなかった。
スタンリーはその時だけ、涙を流すことのできない自分を呪った。
*
獣人と、人間の間に生まれた半獣の青年は、ダウと名乗った。
スタンリーは、ダウに頼んで、Z1を再起動してもらうことにした。その為の資金も、ダウに用立ててもらった。
幾らかかるのか分からなかったが、ダウは金額をスタンリーに告げなかったし、金は、スタンリーの名前を担保に、無期限の出世払いで構わないと言われていた。
Z1の再起動の資金を出してくれたのは、ダウなりの誠意だったのかもしれない。
誠意なんてものが、殺し屋に必要とは思えない。ダウは、殺し屋には向いてないのではないかと、スタンリーは人事ながら心配した。
スタンリーは、イフ、いやフィズから受けとったロザリオはもちろん、砂上走行車や武器を売ることも考えられなかった。
スタンリー自身の物ではない。預かった物だという意識が強かった。預かった物なら、返さなくてはならない。
では、誰に?
Z1は腹部の傷を再生してもらってから、起動されることになっていた。
ある日、ダウが訪ねてきて、今日Z1が再起動されると教えられた。
依頼人に、ダウはどう話をつけたのか、ダウは何も気にしなくていいうまくやったからと、詳しいことは何一つ話してくれなかった。
イフの身体は、あの建物の中に残してきた。それが一番いいと思ったからだ。
ルシフェルに食われて死体は骨となり、その骨もいつしか風化してしまうだろう。
それまで、カッサンドラに立ち寄る物好きもいないに違いない。イフは、何者にも邪魔されず、静かに眠ることができる筈だ。
スタンリーは、少年の口元の血を拭ってやってから、Z1と交替で台の上に横たえた。
温もりも失せ、硬直を始めた体は、そちらの方が造り物めいて見えた。
白い蝋のような肌をして、淡い微笑を浮かべた少年をそこに残して、スタンリーは街へと戻った。
それ以来、地下には潜らず、砂漠近くの安宿に寝泊まりしていた。二丁の銃は、数日の宿泊費と食費に化けた。
スタンリーは、再起動されるZ1に会うのを、ためらった。やめておこうかとも思ったが、スタンリーは結局、ダウとともにその研究室に向かっていた。
中流階級にあるラボを持つ会社に、PHの修理を頼んだのだ。




