一つの死
銃声がさらに二発続いた後、もう一発別の銃声がして、入口に立っていた人間の頭が吹き飛んだ。Z1は、三発の銃弾を受けて、血を流しながら、その場に崩れて動かなくなった。
Z1?
スタンリーは、ハッとしてZ1の更に向こうに目を向ける。
ガラスの抜けた大窓から、身を屈めるようにし、男が入ってこようとしていた。煙の立ち上る銃を持った男は、黒い服を身につけ、サングラスをかけていた。
スタンリーの手が銃に伸びようとする前に、サングラスの男は持っていた銃を放り出して両手を挙げる。その時には、スタンリーの銃は抜かれていて銃口は男に向けられていた。
引き金を引く指を、辛うじてスタンリーは止める。男があっさり銃を捨てていなければ、ためらいなく撃った筈だ。
闘る気のない人間を嬲り殺しにする趣味は、スタンリーにはない。スタンリーは殺し屋でも殺人淫楽症でもない。
サングラスの男は、両手を上げたまま、
「もう俺の仕事は済んだ。あんたに危害を加えるつもりはない。面倒な手間はよしてくれるか?」
と、言った。
男は、髪を長く伸ばしている。
スタンリーは、パッと入口の方に目をやった。
数人の男達が、建物の中に入ってくる。スタンリーが銃を構えている為、男達もてんでに銃を構えようとしたが、それをサングラスの男がお前達は動くなと制止した。
そして再び、スタンリーに向き直った。
「俺は、フィズ=エイドリアンの始末を請け負っていた奴を、殺す為に送り込まれた殺し屋なんだ。不必要な殺しはしない」
その時「私も、そうだよ」というZ1の声がした。
倒れていたZ1は、そのままの姿勢から、左手を鋭く飛ばした。新たに入ってきた数人の男達の一人に、ワイヤーが叩きつけられるのを、スタンリーは見ていた。
ワイヤーが触れた途端、男の顔から体から、細かく血が飛び散った。
男の肉体は、斜めに切られていた。残った男達は、Z1に向けて銃を構えようとしたが、サングラスの男がまたしても制止をかけた。
Z1の腕が、ぐったりと床に落ちる。Z1は、それ以上、何かしようとはしなかった。それとも、もう動けないのか。
「ジー、ワン」
思いもよらぬ展開にスタンリーは、何が何だか分からなくなった。Z1が、身体を痙攣させるようにして、呻いている。
いや、違った。呻いているのではない。笑っているのだ。
声を上げて、Z1は笑っていた。Z1は、笑いをおさめると、身体を少し起こした。
「ちょうどよかったよ。ジョンを殺した奴まで来ていたなんてね。見かけたら絶対に殺してやろうと思っていたんだ。ここにきて、私より先に、死体になるとは思ってもいなかっただろうね。ゲームは、最後まで分からないものさ」
Z1は、そこまで言うと、ゴボッと血を吐いて顔を落とした。一発目は肩で、致命傷ではなかったが、後の二発は、腹と肺に撃ち込まれていた。
スタンリーは、銃をホルスターに戻すのももどかしくZ1に駆け寄るなり、身体を仰向けにした。
「親父の仇だ。これで思い残すことは何もない」
Z1は、血の着いた口元を拭うこともなく微笑を浮かべた。
「どうなってるんだ。お前は、一体?」
スタンリーは、頭が混乱して、まともに質問一つできなかった。
ワイヤーを仕舞った腕輪を手頚から抜いて、Z1は、スタンリーの手に押しつけてくる。
「約束だ。あんたにやるよ」
PHも死ぬのか。人と同じように死ぬのか。
Z1は、床に手をついて身体を起こそうとする。
「ついでに、これもやろう。あんたには、迷惑をかけどうしだったから」
――済まない。そして有難う。
Z1は、凉れた声でそう言うと、身体を起こしかけたまま、首から下がった鎖を引きちぎった。
Z1の顔は、真っ青だ。




