砂漠にて 2
一時間ほどそのままにしておいたが、もしこのまま目覚めなかったらと、壊れてしまったのではないかと、スタンリーは怖くなってZ1を揺さぶっていた。
Z1は、眠ってなどいなかったように目を開けて、その後はずっと目を閉じることもなかった。
Z1は、やはり人ではないらしい。
さすがに、下半身を見せろとは言いにくかった。幾ら無性のパーフェクトヒューマンが相手でも、見た目は十四、五才の少年なのだ。男同士と言っても、ひん剥くのは気が引ける。
別にスタンリーは、男色一辺倒の猟色家ではない。獣人という特殊な位置付けにいる為、人間に対しては情欲が湧きにくいこともあるにはある。
スタンリーは、幾ら体力に自信があると言っても、Z1と違って生き物だ。不眠不休で車を運転し続けることはできない。
スタンリーが仮眠をとっている間は、Z1がルシフェルの襲撃から守ってくれていた。三時間の仮眠は、一度ルシフェルによって破られたが、一応の睡眠はとれた。
再び、夜明け近くに、カッサンドラに向けて出発した。
朝の内に到着するだろうと思っていた矢先、車のタイヤがパンクしたのだ。
スタンリーは、Z1から受けとった飲料水をグッと空けた。まだ半分以上は残っているパックをZ1に返し、スタンリーは再びジャッキに手をかけた。タイヤを外して、予備のタイヤに替える。
ルシフェルは、今のところ現れていなかったが、さっさと終わらせるに越したことはなかった。ルシフェルとの遭遇は、数度と、いつもと変わらなかった。
Z1とイフを消したがっている奴らは、襲ってきていないが、追われている可能性は高い。怖いのは結局は人間だ。
怖いと言うより、面倒なのだ。ルシフェルは砂漠に出るものと決まっているが、人間の方は違う。
砂漠でパンクをするなど、とことんついていない。
死体なんか運んでいるから、運が落ちるのか。
街で浴びた血だけでは、こびりついていた悪運を払えなかったらしい。スタンリーには死の翁がついている。それも最強最悪の。
スタンリーは手を動かすのはやめずに、少年が首からぶらさげている十字の飾りのついた銀鎖を見た。少年は、それをロザリオの一部だと言った。世界が終わる前の人間達が、そう呼んでいたらしいと、イフから聞かされたという。
その十字なら、スタンリーも見覚えがあった。すぐには思い出せなかったが、同じような十字のかけられた建物が遺跡の中には存在する。その建物は、どこのものも内部が殆ど破壊されていた。
カッサンドラにあるものも、内部は原形を留めていなかった。勿論、世界の終わった後に生きているスタンリーは、原形など思い描ける筈もなかったが。ジョンはそこで、そのロザリオを見つけたのだという。
あの時だろうかと、スタンリーの胸の中に、懐かしいような、何とも言えない気分が沸き上がる。
ふと、Z1に聞いてみたくなった。ジョンにとって、スタンリーはどんな男だったのだろう。
お前は、お前の勝手にやればいい。俺は、俺で勝手にくたばっちまうさ。お前のいない所でな。
スタンリーが、ジョンに吐き捨てた最後の言葉だ。今も覚えている。その後に、ジョンが言った言葉も。
しかし、先にくたばったのは、ジョンの方だった。スタンリーの知らないところで、勝手に馬鹿げた死に方をしてしまった。
馬鹿げたも何も、奴には奴なりの人生があったんだろう。スタンリーにはスタンリーの人生があったように。
「ジョンは、俺のことをどんなふうにお前に話していたんだ?」
スタンリーは、Z1とイフを混同してしまう。ジョンがスタンリーのことを話した相手は、目の前にあるZ1ではなく、イフだった。
しかしZ1は面倒なのか、一々訂正もしなかった。




