表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/34

砂漠へ 2

 本気でくるだと?

 スタンリーは、呑気に助手席で揺られている暇はなくなった。ズンという地響きがして、車が急ハンドルを切られた。

 スタンリーは、何とか体を支えて窓の外を見る。朦々とした砂煙、車の外壁に、バラバラと石が当たる音がする。

 Z1(ジーワン)は、車体を揺らして、ジグザク運転をしている。

 再び、ズンという地響きとともに、ハンドルが切られた。Z1は、ハンドルに体をおおいかぶさるようにして、車を操っている。

「私がオリジナルでもPHでも、両方一緒に吹き飛ばして、後で調べればそれで済むという訳さ」

 再び、ズシンという砲弾が地面を刳る音。

 

 本気ね。

 

 たかが子供一人。しかしそれが街の有力者の子供で、何としてでも殺さなければいけないのなら、バズーカの一つも持ち出してくるという訳か。

 PHは再生可能な機械だが、スタンリーは限りある命しかもっていない。たかが賞金稼ぎ崩れの獣人の命など、虫ケラと同じでしかないのだ。

「お前、初めから、俺を巻き添えにするつもりだったな?」

 ズンと、体に響く嫌な音。当たれば、木っ端微塵のミンチになる。 

「半端なプロなら、足手まといになるだけだろう」

 Z1は、車の運転に集中しながらも、そんなふうに答えた。

 スタンリーの方が泡を喰っている。普通の人間が、突然このような状況におかれて、平気でいられる方がおかしいだろう。


 瓦礫を跳び越えて、車体が浮いた。ガクンと着地する。

 生きた心地もしない筈だが、スタンリーはなぜか笑いだしたくなってしまった。あまりのことに頭がおかしくなったのではない。

 大人しく酒を飲んで余生を送っていただけの、染みったれた死を待つだけだった男が、何を間違ったかバズーカをぶっ放されるような羽目に陥っている。

 自分は、一体何をやっているのだろう。

「無茶な運転をしやがる」

 スタンリーは、軽口を叩く余裕までできていた。バズーカの地響きが、車体から引き離されていくことも原因の一つだった。

 Z1は、顔色一つ変えず、

「ハンドルを握るのは、これが初めてだ」と、答えた。

「ハハハ、嘘だろう?」

 スタンリーは、乾いた笑いを上げた。顔が引きつっている。

 やっと射程距離から外れたらしく、バズーカーの咆哮はやんだ。とりあえず、今は助かったらしい。これから何が待ち受けているかは、分からないが。


 死か、それとも?


 他の選択肢などあるのだろうか。ついて行くなんて言うんじゃなかった。毒なんて糞くらえだ。スタンリーは、気が遠くなりそうになりながら、何とか言葉を押し出した。

「こういうのをな、何て言うか知ってるか。誘拐だぞ」

 Z1は、スタンリーをチラリと見た。その顔に、嘲るような色があったと思うのは、PHに対しては無駄だろうか。

「ありがとう。今まで気が付かないでいてくれて」

 Z1は、しれっとそう言うと、アクセルをグンと踏み込んだ。

 地面から砂に変わった為に、車の走りは滑らかになって加速した。

 

 スタンリーは、狼そのものに吠え立てたい気分だ。

「このガキ。マジで犯すぞ」

「だから言っただろう。試してみればいいと」

 そこでZ1はスタンリーを見ると、ニヤリと笑った。そして無表情な顔で、

「因みに、私は、無性セクスレスだ」と、言った。

 セクスレス、中性ではなくあくまで無性か。男の機能も女の器官も備えていないという訳か。

 その奇麗な顔と体つきをした化け物は、何喰わぬ顔で車を運転しながら、淡々と言った。

「分化させる手間を惜しんだんだろう。セクサイドだとそのぶん時間を喰うから」

――Sit(クソッ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ