プロローグ 2
この生態も何も不明な、生き物なのかすら分からないモノは〈侵略者〉とだけ呼ばれている。これらは、砂漠の中だけに現れる。
どこからともなく湧いてくるというのが、ぴったりだった。
スタンリー達のように砂漠に入る者は、これらを古い言葉でルシフェルと呼んでいた。化け物とか、そのへんの言葉の一種らしい。
色は黒く、大小や形状は様々だ。過去にいた獣や、昆虫に似た姿をしているモノもあれば、人に似た形のモノもいる。
銃で撃ったり刃物で斬ると、アメーバー状になって、いつの間にか地面に吸われて消えてしまう。スタンリーに分かるのは、それぐらいだった。
スタンリーは、遺跡の一つに近付いた。ジョンは、ついて来ない。
遺跡と言っても、今でも十分に機能しそうな町が、砂の中に埋まっているようなものだった。半壊したり、崩れかけたりしているものもあるが、中には内部まで殆どそのままの形で残っている建物もある。
世界の終わりがどのように起こったのか、知っている者がいるなら聞いてみたかった。
どうやれば、こんなふうになるのだろう?
ある日突然、大地が荒れ果て、町が砂に飲まれたと言われなければ納得できない。
暗い室内に、崩れた天井から一筋の光が差していた。室内には、何かの破片らしい木屑が、大量に散らばっている。
正面の壁には、斜めを向いた十字のモニュメントがぶらさがっていた。ガラスが填まっていたらしい大窓の端々に、色ガラスの残りが張りついている。
その辺りの床には、青や赤のガラス片が落ちていた。
石でできているらしい大きな台だけが、無傷で残っている。人一人、横たわれそうなぐらい大きかった。
ここは一体、何の為の場所だったのだろう?
その場所を眺めているとスタンリーは、曰く言い難い気持ちが湧いてくる。その気持ちを説明するだけの語彙は、スタンリーは持ち合わせていなかった。
それとも、その気持ちを表現する言葉など、ないのかも知れない。
金になりそうなものがないことぐらいは、一目で分かる。
「リー。そこには何もないぜ」
ジョンはスタンリーに声だけかけて、自分は別の建物を物色しにいった。
ジョンには、ああ分かっていると応えたスタンリーだが、暫くの間、その場を離れることができなかった。
そこが世界の滅ぶ前、教会と呼ばれていた場所であることを、今となっては誰が知ることだろう・・・。