City 10
人体クローンの場合は、半年から一年はかかるそうだが、パーフェクトヒューマンの場合は、一月ほどで生成できるという。外側部分とそれに近い部分が、有機物で構成されている。
PHは、触っても分からないし、外から見ただけでは絶対に、人間かPHかは区別がつかないという。
睡眠、食事、排泄などもプログラムをすれば可能だというから驚きだ。そうなると、ますます人間とPHの判別はつかなくなる。
身体能力は人よりも高く、知能も高い。完全なる人間。
しかし食べることはできても、それを栄養としてとりいれることはできない。
出会ってからのイフは、食事らしい食事一つしていなかった。睡眠、排泄も、スタンリーの知るところではない。
Z1は、静かに頷いて肯定の意を示した。
「私は、オリジナルの身代わりになる為に作られた。私のオリジナルは、この街の有力者アレクセイの子供だ。子供と言っても、愛人の子で認知はされていなかった。ただ、実子である異兄が事故で植物化した為に、跡を継がせる為の代用として連れて来られた。異兄がずっと目覚めなければ、イフが跡を継ぐことになる。その為、泥沼の相続争いに巻き込まれた。異兄の事故も事故ではなかったという見解がある」
イフは――いやこの子供の姿をしたものは、人ではないのだ。
表情一つ変えず、疲れも知らず、淡々と人を殺すことができるのは、人工知能しかない、心を持たない機械だから成せる技なのだ。
PHなら、感情がないのも頷ける気がする。
目を伏せたり、口ごもったり、感情の発露だと思ったものは、パターン化された動きに過ぎないのだ。
しかし人ではないと言うなら、一体どこを指して人は人だというのか。
中身、それとも心か?
では、心のない人間は人間ではないと言いきれるのか。外見だと言うならZ1は、獣人よりもよほど人らしく見える。しかし獣人は所詮獣人、PHは所詮機械だった。
「ジョンとの関係はどうなるんだ?」
Z1は、表情を作るプログラムに不備でもあるのか、どこまでも淡々としている。それとも、オリジナルだったイフという少年が、こんなに淡々としていたのだろうか。
生い立ちを聞く限り、自分の人生を達観していてもおかしくはない。
自分など、操り人形にしか過ぎないのだと。
「ジョン=シボレーは、金目当てでイフを誘拐したのだ。半年。私は、主人とは別行動だった。その間、何があったのかは分からない。ジョンはイフに実の子のような愛情を注ぐようになり、イフもまた父親に対するように相手に対して情愛を持つように至っていた、ようだ。誘拐犯であるジョンは、イフを連れた半年の逃亡のあと殺されて、そして処理された。イフは連れ戻され、そしてそれから暫くして襲われた。身代わりとして造られた私が残り、オリジナルはその時死んだ」
Z1は、体を捩って後ろを向くと、バックルームに転がっている袋のファスナーに手を掛けた。
スタンリーは、思わずやめろと言って、顔を背けていた。
「これが事実だ」
ファスナーを引っ張る音がする。
「防腐処理はしてある。撃たれたのは腹だから、顔は元のままだ」
スタンリーは、目を開けてそれを見た。
ファスナーが少し引き下げられて、頭部だけが布の中から覗いていた。目を閉じた少年の横顔は、イフそのものだった。
蝋のように白い膚は、不健康を通り過ぎて、生きていない証明となっていた。反して、Z1の身体には温もりがあった。嘘物の温もりが。
どんなグロテスクな死体を見ても平気な筈のスタンリーは、その時だけは我慢ができなくなった。
「もういい」
スタンリーは、顔を背けてそれだけ言った。吐き気がする。




