City 6
少年――イフは、そんなスタンリーをじっと見ていた。スモーキーブルーの瞳に吸い込まれてしまいそうになる。
「何だ。俺に惚れたってか。もう遅いぜ」
スタンリーは、気分よくそう言った。
スタンリーには、高価な武器も弾けるような若さもなかったが、長年培われた技術と経験、何にも増して強力な武器となる肉体があった。イフが得ようと思っても、得られないものだ。
イフは、ジッとスタンリーのシャツに視線を注いでいる。そして。
「確かに、遅いな。サルサソースは簡単には落ちないから」
スタンリーは、視線を落とす。シャツの袖口に、パンに載せてあったソースが付着していた。
ゲッと、思わずスタンリーは呟く。パンツの足元に仕込んであったナイフを抜く時、パンを包んでいた包装紙にでも当たったのだろう。慌てて指で拭ったが、染みになってしまった。
そんなスタンリーを、イフはもう見ていなかった。
――Sit
誰が悪いのでもないが、スタンリーは天に向かって悪態を吐いた。吐かずにはいられなかった。
それから何度、スタンリーが天に悪態を吐く羽目になるか、薄々ながらスタンリーは感じていた。何と言っても、連れがこれである。
その連れは、何も感じていないような顔で、ただぼんやりと座っていた。
*
砂漠に出るまでに、結局三日かかった。スタンリーが砂漠に向かう時、いつもなら二日で行けるから、一日余分にかかったことになる。邪魔が入った所為だ。
やられるのは、自分ではないとスタンリーは半ば思い込んでいた。絡まれるのは少年の方と決まっていたし、一日目の行程が終わる頃には、誰もスタンリーら二人組には構わなくなっていたこともある。
一日目は、結局野宿だった。スタンリーは、一人の時も安ホテルには泊まらず、野宿を決め込んでいたから気にはならなかった。
二日目。スタンリーは、少し気が緩んでいたのかもしれない。一緒にいれば一緒にいるほど、少年が何者なのか分からなくなってくるようだった。街にいた三日の間で、スタンリーが少年について知り得たことなど皆無に等しい。
スタンリーが見ている限りでは、少年は、食事も殆ど摂らず睡眠もとっていないようだ。スタンリーが、昼食用の食料の調達の為に、少年と別れた途端の出来事だった。
スタンリーは、数人の男達に襲撃されていた。スタンリーは、自分がそんな目に遭うことが信じられなかった。危険な仕事を請け負っている訳でも、身に覚えのあるようなことも何もない。あるとすれば――考えにくかったが、少年に自分が同行しているという一点だけだ。
襲ってきたのは数人だったが、銃を持っていたのは一人だけだった。だがスタンリーは、その長銃を持っていた男に物の見事にやられていた。
格好悪いことにスタンリーは、麻酔銃の針を喉に撃ち込まれていた。悪いが人間用の麻酔薬は如何に強力でも、獣人には効かない。それは人間用ではない、対獣人用の麻酔ガンだった。
どうして自分が?
即、殺されるのではなく、自分の自由を奪おうとする連中の意図が理解できなかった。
その時、スタンリーの本性が爆発した。持っていた銃で、スタンリーは襲ってきた奴らを皆殺しにしていた。銃は、地上に出てすぐに他人の持っていた物を戴いておいた。
スタンリーは、他の連中とは違って、物にはこだわらない。ナイフだろうが銃だろうが、その辺りに落ちている酒瓶だろうが階段の手摺りだろうが、何もなければ自分の肉体を武器にする。




