City 4
少年は無表情のまま、スタンリーの裸の胸をジロジロと眺め、
「見られたものじゃないか」と、言った。
性的な視線なら対抗のしようもあるが、少年が無表情である分、値踏みされているような気になった。肉体ではなく物として扱われる方が、屈辱的な感じがする。
スタンリーは、視姦されているような、羞恥心が湧いた。
「見物料をとるぞ」
馬鹿馬鹿しいとは思いながらも、スタンリーは不貞腐れたようにそう言った。
たかが十四、五の子供に、いいようにあしらわれている自分が情けなくもある。年をとった年をとったと思っていたが、自分を抑えられなくなるほど、存外スタンリーは若いのかもしれなかった。
少年は、パンツの尻から数枚のコインをとり出すと、スタンリーの手に押しつけた。本当に見物料を払う気かと、一瞬スタンリーは馬鹿なことを考える。
「約束は約束だからな。そこらで見繕ってくるといい」
シャツを弁償すると言ったのは、冗談ではなかったらしい。
少年は、建物の一つによりかかった。ついてくる気はないようだ。
「多くないか?」
「ついでに、朝食も買ってくるといい」
「逃げたらどうする?」
スタンリーは、意地悪く聞いた。少年は顔色一つ変えずに、
「あんたが、それだけの男だったという証明にはなる」
スタンリーは、渡されたコインをポケットに捩じ込んだ。少年は、もう何も言わず、スタンリーも何も言わなかった。振り返らずに歩き去るスタンリーを、少年は追ってこなかった。
スタンリーは、そのまま逃げてやろうかと考えた。いつまでたってもスタンリーは戻ってこない。
ざまあみろだ。
別の入口から地下に潜るか。暫くの間、地上で暮らすか。どちらにしても、まとまった資金がいる。
結局、少年の隣に座り込んで、トルティーヤを頬張るスタンリーの姿があった。
新たに買った服に着替えているが、それも白いシャツだ。
少年は、スタンリーから少し離れた所に同じように腰をおろしている。
身体を動かした後は、気持ちよく食事ができる。身体が、失ったカロリー求めているのだ。
スタンリーは、少し多目に食べ物を買い込んできている。スタンリーは、二つ目のパンに手を伸ばしながら、少年に聞いていた。
「食わないのか?」
少年は気にするなと言うように、首を縦に振った。自分で他に何か買ってくるつもりもないらしい。
あまりにも疲労が強いと、反対に身体が受け付けなくなって食べられなくなるが、少年がそれだとは思えなかった。
スタンリーの口調が、我知らず刺々しいものになる。
「下賎な奴らの食い物は、食えないってか」
少年はフッと笑って、まあねと言うように頷いた。スタンリーは、食事をする手を止めて、少年を胡散臭く見つめる。
「上流階級の人間が、血も繋がっていないたかが成り上がりの賞金稼ぎ風情に、そこまでやる理由ってのは何だ?」
砂漠に出て骨を埋めるというのが、言い訳に過ぎないことが、スタンリーには分かっていた。何かあるのは分かっていたが、それが何なのかまでは、流石のスタンリーにも分からない。
スタンリーが少年に聞かなかった(聞く暇もなかった)こともある。少年が、答えるかどうかもまた分からなかった。
上流階級というのは、何となく口をついて出ただけだ。
少年は、上流階級の人間だと言われたことを、否定しなかった。
案外、本当に上層域で暮らしているような人間なのかもしれない。少年の言葉遣いは丁寧だし、物腰も洗練されていることは認める。それにしては危険な武器を操り、大の大人相手にも引かない根性はある。




