表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/34

City 3

 人一人がやっと通り抜けられるような、狭くて急な階段を、二十段ばかり上がると、ぽっかりと出口が開けていた。

 スタンリーは、条件反射的に目の上に庇を作って空を見上げる。

 勿論、青空などどこにも見あたらない。

 

 街灯の明かりが落ちていることから、もう朝であることが分かる。明かりがない分、辺りは薄暗かった。 昼夜関わりなく街灯の世話になっている地下と違って、地上部は、昼間は街路の明かりは消えている。その為、地下よりも地上部の低階層は暗かった。

 今が早朝であるのか、それとももう昼近いのか分からない。

 

 スタンリーに続いて、その地下の穴蔵から出てきた少年は、まるで地下の空気を振り払うかのように、首を振った。

 その顔には、やはり表情らしいものは浮かんでいない。

 少年の服は、スタンリーのシャツと違って血飛沫一つ受けず真っ白なままだ。〈Bar〉に来た時と身なりは変わっていない。

 

 帰りと同じで、行きにも何人かはためらいなく殺してきたであろうことが、今ではスタンリーにも分かっていた。

 スタンリーも、二人ほど殺していた。

 その時に浴びた返り血で、シャツには点々と赤い花が咲いている。

 白いシャツが真っ赤になるほど血を浴びることから、仲間内ではレッドシャツという陰語でスタンリーは表されていた。

 それも、昔のことだ。


 シャツが真っ赤になるには到底及ばなかったが、どこかのテリトリーに入る度、まるで待ち伏せでもされていたように揉め事に巻き込まれる。

 地上に出る時には、運が悪ければ、かなりひどい目に合うこともあるにはあった。そうすると、今回は最低の運に恵まれたことになる。

 この少年は、スタンリーにとっては疫病神だ。

 

 砂漠までのボディガードは、引き受けたつもりはないなどと、格好つけたことを言ったが、絡まれる度に少年一人に任せきりにできる筈もない。

 自分の身は自分で守らなければ、ぼんやりしているとこっちがのされてしまう。


 スタンリーは体力も人並み以上にある為、疲れ知らずだったが、このか細い少年が、あの強行軍を耐え抜いたというのが、はっきり言って驚きだった。

 途中で音を上げるものと思っていた分、拍子抜けでもある。

「地上に出るのは、何ケ月ぶりかだな」

 何とか地上まで漕ぎ着けたことから、ホッとしたスタンリーの口から言葉が洩れた。

 

 辺りは薄暗く、夜明け前か夕方と言っても通じる。薄暗いとは言っても、本物の日の光が、この穴の底には届いているのだ。

 街は、地上部分の方が地下よりも古い。元々あった街の建物を土台に、地上数百メートルから地下数百メートルへと広げてあるのだ。その分、汚らしくどこもかしこも古臭かった。


「逃げると思っていた」

 少年は、感情のない声でそう呟く。

 少年は、スタンリーが黙っている限り、口を利かなかった。

 スタンリーは、決してお喋りな方ではない。ただ連れがいると、ついつい口から言葉が出てきてしまう。たとえそれが、こんな連れであっても、だ。

「シャツの弁償がまだだ」

 少年にボタンを引きちぎられたシャツを、着替えて出てくる余裕さえ、スタンリーには与えられなかった。

 胸から腹は露わになったままだ。

 そうして引き締まった身体の線が直に見えると、スタンリーは年齢よりも若く見える。元々、獣人の年齢は判り難くもあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ