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City 2

 そして、次の瞬間。悲鳴を上げたのは少年ではなかった。

 悲鳴というより、絶叫を上げて少年にナイフを突きつけていた男が、その場にしゃがみ込んだ。

 

 ナイフを持っていた手は、手頚ごと地面に転がっている。

 男は、血飛沫を上げる手頚を抱えて、意味の分からないことを喚いていた。

「高価な買物だったが、それだけの値打ちはあったな」

 少年は、左手頚に巻いた銀の腕輪を撫でる。スタンリーの動体視力では、一瞬の間にその腕輪から光が伸びて男の腕を切断したのを捉えていた。

「畜生、ただのガキじゃなかったのか?」

 分が悪いと退散しようとした二人の男も、少年は逃がしはしなかった。腕輪の飾りような鎖に繋がったガラス玉を引くと、ワイヤーが伸びる仕掛けになっていた。

 少年は、腕を一杯に伸ばしてワイヤーを引くと、ガラスを重し代わりに、逃げていく男達に向かって投げる。一人の男の首に絡んだワイヤーは、その男の首をも切断していた。

 

 もう一人の逃げていく男には、少年は構わない。

 

 少年は、ワイヤーを元に戻したかと思うと、今度は短く引き出した。ワイヤーは伸縮自在、硬柔も自在のようだ。

 少年は、ピンと針のようになったワイヤーを転がって呻いている男の、首の後ろを狙って刺す。

 男は一度、ビクリと痙攣しただけで事切れた。

 

 苦しませずに殺す。その冷静な動作も、スタンリーは気に喰わなかった。


「殺し屋気取りか?」

 スタンリーは、少年を詰った。スタンリーとて、何十人となく殺してきている。だがそれはいつだって、命と命のやりとりだ。

 

 本気でらなければ殺される。

 

 命のやりとりはスタンリーにとっては、ゲームではなかった。だからこそ手加減はしない。

 とことん殺し尽くす。

 

 血塗れスタンリーの由来はそんなところにあった。


 少年は無表情に、危険な武器をシャツの袖の中に仕舞う。

 少年の殺し方だけは、ジョンのやり方を思い出させた。ジョンが仕込んだのかもしれない。

「私は、失うものは全て失った」

 その言葉は今までの中で一番淡々としていたが、胸を刳るような暗さがあった。

「これで、あんた一人がここに残っても、奴らの仲間に、袋叩きに合うことは間違いないな」

 もう一人の男を逃がした訳が、スタンリーにもようやく分かった。スタンリーは、もう怒鳴りつける気力さえ湧いてこない。

 このガキを手込めにしてやろうなんて、身のほど知らずもいいところだ。

 

 こいつは、人間ができてるんじゃない。こいつの性行は最低最悪だ。


「なんつぅーガキだ。初めからそれを見越してやがったな。これでジョンの野郎と血が繋がってたら、ジョンじゃなく俺が親なら泣くぞ」

 十九の頃。一度だけスタンリーは結婚を考えたことがあった。

 もしその時結婚していれば、これぐらいの子供がいたかもしれない。その時以来、子供を作ることどころか、結婚することすら考えなかったスタンリーだが。

「私があんたの子供なら、過去の栄光を喰い潰す前に殺しておくね」

 少年の方が、やはりスタンリーより上手だ。

 

 スタンリーは舌打ちすると、地上に向かう方に歩き始めた。どっちにしろ、この街にはもういられない。唯一心残りなのは、砂漠ものの大事なアルコールのことだけだった。

 少年は、やはり無言でスタンリーの後をついてくる。

 

 路地には、首のない死体と手頚のない死体だけが残された。

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