プロローグ 1
スタンリーは、自分の影を踏みにじるように、足元の石くれを一つ踏み砕いた。劣化していたコンクリートの名残は、スタンリーの足元で手応えもなく砕け散る。
スタンリーの前には、荒涼とした眺めが、何処までも広がっている。
果ての見えない荒れた大地と、そこここに点在する遺跡群。
世界の終わりを語るのに、これほど相応しい場所はないだろう。
スタンリーの前にあるのは、まさしく世界が滅んだ後の残骸だった。
あるのは、砂漠と前時代の遺物だけだ。
砂漠に好き好んで入るのは、賞金稼ぎと決まっている。普通の人間は、滅多に足を踏み入れない。それには訳が――。
「リー」
名前を呼ばれる前に、既に背中に気配は感じていた。スタンリーは、すかさず背後を振り返るなり、ホルスターから抜いた銃を連射した。
「お見事」
仲間のジョンも銃を構えていたが、ジョンの銃は火を吹く暇もなかったようだ。
スタンリーは、無言で銃を仕舞った。素早い動きができるのも、全て本能の為せる技だ。人であるジョンは、幾ら経験を積もうともスタンリーの敵ではない。
パーティーなど組まずとも、一人でも十分にスタンリーはやっていけるだろう。ただ、砂漠では何が起こるか分からない。何かあった時の為の捨て駒として、スタンリーは相棒を使っている。
ジョンの前にも、何人かの人間と組んでいたことがあった。そいつらはみんな、砂漠での不慮の事故というやつで死んでいる。スタンリー一人が、野生の勘を頼りに生き伸びてきた。
ジョンは、今のところうまく立ち回っていると言えた。ジョンとは、これで三度目の仕事となる。ジョンとの付き合いが、最長記録だった。
「全く、どっから湧いてくるんだか」
ジョンは、どこか楽しげにも見える様子で近付いてくる。
スタンリーは、銃を撃った時に浴びた生腥い液体を気にもせずに、目の前に転がるその肉塊とも泥濘とも呼べない代物を眺めた。
スタンリーの撃った銃弾をたっぷり受けたので、それは二度とスタンリーに襲いかかってはこない筈だ。殺したとは言えないかもしれない。それが、生き物なのかどうかも分からないからだ。
砂漠に人が入らない訳が、これだった。砂漠に入った者は、無傷で生きて戻ることはできない。今、スタンリーが撃ち殺したヤツらに、殺されてしまうからだ。
腕に自信のある者だけが、賞金稼ぎとして、砂漠にある遺跡から金目の物をとって帰ることができる。
ヤツらを甘く見て、死んだ人間は数知れないが、金か冒険か夢の魅力にとり憑かれた人間どもは、引きもきらず砂漠へと向かう。
そしてヤツらの、餌食になるのだ。