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とある吊るされた男の手記  作者: 自然対数
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吊るされた男の手記

 今日から僕は日記を書くことにしました。楽しいことも悲しいことも忘れたくないから。でも、どうなのかな、大人になって読み返したりすると、恥ずかしいんだろうな。それでも僕は書きたいと思います。


 いつか天国に行けるように。


 ○○○


 ××年△△月□□日

 お母さんはいつも夜遅い。いなくなったお父さんの代わりに働く、とっても偉い人だからだ。兄弟がいないから、淋しいだろと人は言うけれど、本当にそんなことない。お母さんが働かないと、僕もお母さんも死んでしまう。だから、ぜんぜん平気だ。

 今夜もワインレッドのコートを着て外に出る。好きな色だそうだ。なぜ好きかと聞いたこともあったけど、好きな色に理由も何もないでしょと言われた。それはそうだ。


 ○○○


 ××年△△月□□日

 中学に入った。学校生活はそこそこ楽しいけれど、最近、体の調子がおかしい。第二次成長期だからかな。誰にも相談できない。


 人を食べたくなるなんて。


 ○○○


 今日、学校の女の子を殺した。そして食べた。我慢できなくて我慢できなくて我慢できなくて我慢できなくて我慢できなくて我慢できなくて我慢できなくて我慢できなくて。


 ああ、だめだ。警察に行こう。いずればれるなら、まずは母に相談したい。


 ○○○


 俺は人間じゃないらしい。だからといって母と同じ吸血鬼でもないそうだ。お前はどちらで生きていきたいかと言われた。そりゃ、人間でいたい。でも、我慢できないだろう。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

 人間でいたい! 誰も殺したくなんてない!


 ○○○


 人でいたいと言いつつ、人を殺して回っている。尻拭いをするのは母親。俺が吸血鬼として生きると決めれば、上手な殺しかたとかも教えてくれるのであろう。でもまだ俺は……


 ○○○


 ああ、なんて弱い人間なんだ。いや、もう認めてしまおうか。俺は人間じゃない。これだけ殺しといて。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。


 ○○○


 母に殺しかたを教わった。ワインレッドのコートも買い、完全に吸血鬼となってしまった。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。


 ○○○


 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。


 ○○○


 母が死んだ。死刑だった。悪人が死ぬのは母であっても気分がいい。ずっと育ててくれた母が死ぬなんて、悲しすぎる。母を殺した人間たちを許すわけにはいかない。かならず、殺してやる。やはり、悪人は死ぬべきだ。ぶっ殺す。母を殺したのは本当は俺だ。あれ、あれあれあれあれあれあれ、あれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれ? 


 俺は誰だ?


 ○○○


 面白い本に出会った。悪人こそが救われる。人とは全員悪人であり、それを自覚できると救われるのだ。全員が悪人。ならばこの世界は何のために動いているのか。そもそも、俺は悪“人”なのか。悪人になれるのか。悪事を働けば人になれるのか。課題はたくさんある。


 ○○○


 本当に人いうのは悪人ばかりだ。生き物を殺しながら、その屍の上で笑っているのだ。こんなやつらは死ぬべきだ。

 俺も死ぬべきなのか。


 ○○○


 今日、死のうと思った。でも、止められた。私も吸血鬼だと言う女。正確には俺と同じ半端な存在。だからだろうか。俺はこの人を人間のように感じる。吸血鬼は吸血鬼を食べたくはならない。だから、母は純粋に殺しただけだった。食べるため以外で殺すなど、人間も人間以外もやっていることだ。


 ○○○


 研究所を立ち上げた。ここでの実験は人間たちにとって、とても有用であり、おそらく何人もの人を救っているはずだ。見返りに、検体を食べる。

 それにしても、悪人を助けるとはどういうことになるのだろうか。善行なのだろうか、悪行なのだろうか。


 ○○○


 いつの日か、俺を助けてくれたあの子。今日、あの子が妊娠した。子供には俺のようになって欲しくない。幸せに生きて、幸せに死んでほしい。願わくばこの子が何も気づかないように。


 ○○○


 子供を産むと言うのは悪行ではなかろうか。だって命は罪であるのだから。

 それでもやはりこの子には幸せになって欲しい。そう考えるのは悪なのだろうか。


 ○○○


 あの子は吸血鬼じゃないらしい。言い訳をいろいろ言っていたが、結局はただの快楽殺人者だそうだ。俺の子供が生まれてから言えば、殺されないと思ったらしい。浅ましい。自分の子供を保身に使ったのだ。許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない。絶対に。


 ○○○


 もう、考えるのがしんどくなってきた。最愛の人を殺してしまったのだ。最愛の人は食料。食料と結ばれたのだ。吐き気がする。とにかく、何も考えず、殺して食べる。

 

 ○○○


 興味深い兄妹に出会った。今まで何も考えず生きてきたのだろう。何も食べようとしない。このままでは死んでしまう。しょうがないから、鍵を開けておこう。人はいくらでもいる。


 ○○○


 なぜあの時、自分の手が止まったのか。今でもわからない。ただ言えることは私は彼らに手を出せないということだ。おそらくレントと重なっているのであろう。

 籠の鳥は首輪をつけて逃がしてしまった。もはや異能を持つ彼を蠱毒に投げ入れる意味もない。果たして彼はどうなるのであろうか。


 ○○○


 深い絶望の中、女神が手をさしのべた。純粋に嬉しかった。救われたような気がした。まだ小さいレントにも教えてあげよう。そうすれば、苦悩せずに生きられるかもしれない。


 ○○○


 研究の過程で異能の存在をを発見した。業の深い異能者を食べれば、救われるのではないか。悪人を殺せば救われるのではないか。


 ○○○


 行ったのは聖因子投与とそれに関わる能力の発現について。聖因子を卵巣に直接投与した雌個体に子を生ませることで得られる。だから静脈注射には意味がないことはわかっているのだが、他の保護物質と共に投与することでどのように効果が出るのかを観察した。

 シクロスポリンとともに投与。だが、Tリンパ球の活動と聖因子は関連がないらしく、能力の発現には至らなかった。さらに濃度を高くして投与したところ、熱をあげた。能力の発現かと予想したが、献体は日和見感染をしただけであった。検体はその後死亡。食べてもよかったが、女児体だったため、気が引けた。

 いったい自分は何をしているのか。小娘を捕まえて、薬を投与して殺して。

 こんなことをして救いに繋がるのか?


 ○○○


 やはり、遺伝子レベルでの改変が必要だと判断。投与したのは、ホルムアルデヒド、ヒ素、アフラトキシン、ヘリコバクター、変異型イッシェリヒア、HIvirous、ラジウム222……。どれを投与しても能力の発現には至らない。


 ○○○


 過度のストレスが遺伝子の改変を示す論文を発見。投与したのはアドレナリンとアトロピンの高濃度混合液。被検体の血管は極度に収縮し、ショック状態になって死亡してしまった。だが、その瞬間、被検体は炎に包まれた。実験は成功と言っていいだろう。

 だが、心は晴れない。救われない。私はいったいなぜ人を殺し回っているんだ? 本当は何がしたくて、何がしたかったんだ?


 ○○○


 レントを高校にいれた。かわいらしい女の子たちを集めたつもりだ。これで、衝動は抑えられるかそれとも逆に働くか……。はあ? 私は自分の息子を実験体にしようとしているのか? 俺は俺は俺は俺は俺は俺は、レントにどうなってほしいんだ?


 ○○○


 濃度を調整しているが、被検体は必ず異能とともに死んでしまう。やはり自然なストレスでないといけないのか。ではどうするべきか。


 ○○○


 こうして地獄は創られた。心を砕くその檻の名はーー


 ○○○


 研究所に邪魔が入った。せっかく育てた芽が奪われた。悔しい。生き残りの子が二人とも脱走してしまった。欧州連邦の方は狼。聖の方は鬼になったそうだ。


 ○○○


 鬼が来るのがわかる。いつやらの絶食も来る気がする。ああ、絶望的だ。


 絶望こそ希望。悪人こそはどうなればいい?


 ○○○


 ただ、地獄に堕ちたくなかっただけなのに。


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