EX1 魔王さま①
今日も今日とてたいした仕事もないので、妾は天蓋付きの豪奢なベッドで二度寝、三度寝と、惰眠を貪っておった。
週に三日は取る休暇のうちの一日、日がな一日寝て過ごそうとぬぼーっとしていたときだじゃった。
<痛い! 怖い! 寂しい 悲しい 悔しい 死にたくない!>
<誰か助けて!>
頭の中に響いたのは、紛れもなく自身と同じ上位の竜種の声。
竜種にしか持ちえない、魔力共感反応だ。
属性を司る四属竜にこんな声をあげるようなものはいなかったはず。
となると、残るは最近死んだ『白竜』の後釜か。
のそりと起き上がり、声のする方角を探るために、探知魔法全開で聴き耳を立てる。
その気になれば大陸のおよそ半分はカバーできるだけの探知魔法の展開に、部屋の外からノックがかかった。
「主様、いま強烈な探知魔法を観測いたしましたが、いかがされたのです?」
「鼎か。入れ」
失礼いたします、と入室してきたのは、幾星霜とまではいかずとも、長年をともにしてきた従者。
侍女服に身を包み、栗色の髪をシニョンに結い上げた妙齢の女。
鋭い目つきを後押しするような三角眼鏡が特徴的なメイド長である。
自然な所作で一礼すると、壁際に控えた。
「たった今、竜種の悲痛な叫びが聞こえてきた故な、それを探しておるのだ」
「竜種が悲鳴ですか? また地竜様が他の竜種の方にいじられ倒されたのでは?」
「それはない。あやつらは命が危ぶまれるほどの危機に瀕しても、あのように無様な悲鳴はあげぬ。これは恐らく、新たな『白竜』のものじゃな」
顎をつまんで考えを述べつつも、意を汲んだ鼎に手伝って貰いながら身支度を整えていく。
「新たな『白竜』様ですか」
「そうじゃ。生まれたての『白竜』はヒトの子とそう変わらぬ。簡単に殺されてしまうじゃろう。早く保護に向かわねばな」
探知魔法の座標から、おおよその方角は分かった。
すぐさま寝室からバルコニーへと出る。
「ちょいと出かけてくる。おそらく『白竜』殿はまだ幼い人型のはずじゃから、用意を頼む。ではな」
「はい、かしこまりました。行ってらっしゃいませ」
美しい所作で一礼する鼎を背に、妾は城の上部にあるバルコニーから身を投げ、黒い燐光を放つ。瞬く間に巨大な黒竜へと変化した妾は、まっすぐまだ見ぬ『白竜』殿を目指して六翼を広げた。
番外編その一ですね。
ちなみに続きます。
メイド長の名前は夜刀朔夜さまからいただきました。ありがとうございます。




