ボディーガード
拝啓、鬼畜なお母様。
どうやら僕は異世界での初めてお友達ができたようです。
人型のネコミミーズからは殺されそうになりましたが、森の中で出会った怖いはずの虎さんがとても優しいです。
爪を立てないように気遣いながらじゃれてくるし、食べようとはしてこないし。
時々体の下敷きになって窒息しかけるけど、それくらい安いもの。
この虎さん、このあたりの主様っぽいですねー。
ネコミミーズの一人が僕の姿を捕捉した時も、虎さんのひと睨みで全力ダッシュしてたし。
生きたチートゲットだぜ! とか舐めたこと考えてました、調子に乗ってすみません。
反省してます。
肉球で頭をべしべししないでください。
猫パンチならぬ虎パンチは爪が無くても結構重いです。
髪に砂が付くって。せっかく河に潜ったとき洗ったのに。
まぁいいけど。
<やばい、この虎モフり放題だわぁ~。これなら火を熾さなくても布団が無くても平気そう>
野宿する気満々だし、集落を見つける気は皆無です。
ええ、皆無ですとも。
二度と人里に近づくもんかっ!
殺されたくないしね。
お友達兼、布団兼、ボディーガードな白虎さんですが、お食事はするようで。
僕に入念に顔をこすりつけたかと思うと、のそりと木立の中に消えて行きました。
そして三十分もしないうちに、五百キロは下らない大きな鹿(幼女視点です)の首を咥えて帰還なさいました。
前言撤回。やっぱり火は起こさないとダメだわ。
あのですね。
その、獲物を分けていただけるのは大変にありがたいのですが、生肉をそのまま齧るのは遠慮させていただきたいな、と。
そんな期待を込めた目で見ないでください。
あと、口の周り血だらけなんですから、こすりつけないでください。
僕はナプキンじゃないっての!(敵じゃないと分かった途端にこの対応。ヘタレの証明です。)
それからは薪を集めたまでは良かったものの、どうやって火を起こすか。
その一点で大いに悩んだ。
棒と板を用いた摩擦法は使えない。
摩擦の速度が全然足りないからだ。
かといって紐を通すための穴を棒に空けることもできず、紐もない。
次案、レンズと太陽光で着火作戦。
レンズなんてありませんですよ。
ビニール袋でもあれば、なんとかレンズの代用はできただろうに。水を入れればいいんだしね。
氷どっかにないかなぁ。レンズ状に加工すれば氷で火が熾せるのに。
ま、今日は曇りだからどの道、太陽光を利用する方策は手詰まりなんですがね。
となると困った。
白虎さんが臓物類を咀嚼する音をBGMに、ない頭をひねって考える。
プロメテウスがいてくれれば、どこからか火を盗んできてくれそうなのに。
どこまでも他力本願です。ごめんなさい。
火打ち石って、どんな石なんだろ?
普通の石とは違うんだっけ?
なんか柔らかめで乾いた鉛みたいな感じだったような……
落ちてないよねー。
ってか、落ちてたとしても気づかないし。
ほんとどうしたものか。
腕組みしてうんうん悩んでる僕を肴に、首をひねりながらお食事タイムな白虎さん。
何か代案ありませんかねぇ?
ぼんやりしてても火は熾きないので、あきらめて生肉を齧ることを覚悟しました。
寄生虫にだけ気を付けていれば、大丈夫だよね?
エキノコックスって鹿もかかるんだったよねー、寄生虫由来だったから。
でも異世界だから大丈夫なのかな?
……やだなー寄生虫。
やりきれなくて溜息をつくと、息と一緒に青い炎が口から漏れました。
何事かと目を白黒してみたものの、結局は、
<そういえば今の僕は人間じゃなくなってたんですよねー>
のひと言で落ち着いてしまう自分が情けない。
とりあえず薪に着火しようと、組んだ小枝に息を吹きかけてみるのであった。
次回予告。
近々やっと魔王さまと遭遇できそうです。
長かった。タイトル詐欺にならないようにしなくては。