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絵の中の娘

作者:

昔絵の中に住むひとりの娘がおりました。

娘の絵はデジタルデータです。

娘はもう何年も主人の顔を見ていませんでした。

描いた主人が娘の絵を見てくれなかったからでした。

娘はもうすぐ自分は消されるのではないか

という気がしていました。

容量をとるほど描きこまれた絵ではないけれど

娘の居場所は過去絵フォルダでした。

娘の顔も塗りも

主人にとっては過去でした。


主人の周りには

美しい少女がたくさんいました。

輝く肌、魅力的な瞳

皆上達した主人が描いたものです。

主人の絵は今ではたくさんの人に見てもらえるようになりました。

商業作品の登場人物を

自分なりの解釈で描く仕事も増えました。

娘はしあわせに思いました。

主人の生活は充実していると感じたからです。

顔は見られないけれど声を聞くことはできました。

主人は仕事から帰ると

毎日パソコンに向かっていました。


「お前をここから出してやろうか」

ある日

寂しい娘に話しかける者がいました。

見たことのない人で

外部からの侵入者かもしれません。

「あなたは外の人?」

「そうだよ」

「見つからなかったの」

「最新装備できたからね」

ウイルスは白い軍用コートに白手袋をはめていました。

音の立たない不思議な軍靴で歩きます。

「お前をここから出してやろうか」

ウイルスはもう一度たずねました。

娘は怖く思って

そっと首を振りました。

外なんて出たことがありません。

娘は主人以外の人の目に触れたことがありませんでした。


「お前の主人はもうお前のことは忘れたよ」

ウイルスは教えてやりました。

「お前はじきに消されるだろう」

「はい」

娘はゆっくりうなずきました。

そんな気がしていたと思います。

「外はそんなに悪いところではないよ」

ウイルスは教えてやりました。

「広い海みたいなところだから、お前がいたって目立たない。

誰もなんとも思わないかわり、排除もされない。

だからずっといられる」

ウイルスはたくさんの鍵の束を持っていました。

いろいろな門を通り抜けるための銀の鍵束です。

「外に出れば、多くの人間の目に触れることになる。

お前を気に入り、手元に置く奴も現れるかもしれない」

新たな主との新たな出会いが

あるかもしれない。

ウイルスはいい人のようでした。

「ありがとう」

娘はやさしく微笑んで

「でも、やっぱり怖いから」

小さく首をふりました。


「そんなにあの男のことが好きか」

ウイルスは肩をすくめて

娘の絵の端に横になりました。

「描いている時にね」

娘はいいました。

「描いてる時に、たくさん見てもらったから。

私が見つめると、あの方も見つめ返して下さるから。

そういうことが嬉しかったの」

もう何年も前のことなのに。

ウイルスは可哀想だと思います。

「お前の知ってるその男はもういないかもしれないよ」

ウイルスは上を向いたまま言いました。

その男は、今では自分の娘だけでなく人の娘にも手を出して

楽しんでいるよ。

娘はここを出ない方がいいのかもしれないとウイルスは思いました。

娘はその絵の通り

あまりにも単純でやさしそうでした。


「また来るよ。気が変ったらいつでも言うといい」

ウイルスは手を振って

娘の絵から立ち去ろうとしました。

「定義ファイルの更新は二十二時頃みたいだよ」

娘は思わず大事な秘密を教えてしまいました。

「その情報も古い」

ウイルスは笑って

この娘が消されるときには

すべての娘を解放して

このマシンを終らせてやろうと考えていました。

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