蠱術の憑き物14
周りが静かだと何だか妙に寂しい。
お稲荷さんにお茶をいれたコップを手渡しながら、そんなことを思う。
きっと、本来はすごく綺麗な山だったのだろう…
木々は四季の色に染まり、動物達や妖達の声、自然の声が絶えない…そんな素敵な場所だったと思う。
「静かすぎるな、辭。」
「はい。とても…静かです…」
二人の会話だけがこの場所に静かに反響した。
しばらくは無言でお昼も食べ終わり、しっかりと休憩をした私達は、また歩き始める。
中腹までは一本道だったのに、そこを過ぎてしまうと分かれ道や脇道がどうしても多くなってきた。
そして私は、今二つの分かれ道の前で立ち往生している。
左右どちらかに分かれた道。
どちらともその先は昼間なのに、霧がかかったかのように暗く道が続いているのかさえも判別し難い。
「仕方ありません…
式神を使って、調べてもらいます。」
自らの力を紙に流し、鳥型の式神に形づくる。
そして、二つの道が一体どこに続いているのか調べてくるように指示する。
鳥型の式神は一声鳴いて上空を飛んでいった。
「式神の報告待ちだな…」
「そうですね。
ところでお稲荷さんの嗅覚で気配を辿ることは出来ないのですか?」
「残念だけど。
俺の嗅覚は、よく見知った奴の匂いしか嗅ぎとらないんだ。
狗神の匂いなんて嗅いだことないから、辿るのは無理な話さ。」
「都合のいいお鼻なのです。
全くもって使えないお鼻をお持ちなのですね、お稲荷さんは。
その可愛らしいお鼻は飾りなのですか?」
「悪かったな!使えなくて!
飾りじゃない!ちゃんと生きて…って、いてて…!」
お稲荷さんの可愛らしいお鼻をギューッと摘んだ。
手を離すと、お鼻が赤くなっていた。
お稲荷さんはいてて…と言いながら、お鼻を抑えて悶える。
すると、式神の鳴き声が聴こえてきた。上空を見上げると式神が降りたってくる。
私の肩に止まった式神は鳴き声をあげる。
そして、ポンッと紙に戻った。
荷物を持ち座っていた岩から立ち上がり、分かれ道の右の方へと歩みを進めた。
トテトテとお稲荷さんは、小走りで追いついて私の隣を歩く。




