蠱術の憑き物11
その日の夜に疾風は高熱を出した。
お稲荷さんによると、自らの妖力を失った疾風の体の中に今は相手の妖力だけが渦巻いて蓄積されている。
故にこの高熱は相手の妖力によるもの…
邪気による拒絶反応の一種とのことだということ。
辭は石臼のような道具で、熱によく効く薬草をすり潰して、疾風に与えた。
「これで楽になるといいのですが…」
「まぁ、多少は楽になる。
だが、それは一時凌ぎにしかならない。
こいつの体の中に溜まっている妖力が抜けない限り、しばらくは熱が続くな…」
「手っ取り早く溜まっている妖力を抜く方法は、ないのですか…?」
このままでは疾風が苦しむばかりです…!
ぐっと強く拳を握る。
辭の心配そうな顔が疾風を見つめていた。
「今の所、その方法は見つかっていない。」
もしも、もしもあるのなら…
そんな期待はお稲荷さんの言葉が、容赦なく打ち砕く。
「…そう、ですか…」
「落ち込むのも分かるが…
今は疾風を信じるしかない…」
「はい…」
辭は一晩中、疾風の看病を続けた。
翌朝になっても疾風の熱は下がらない。
辭は一人で看病をすると言い張っていたが、一人での看病はかなり体力が伴う。
話し合った結果、お稲荷さんと交代で看病をすることに。
***
二日経ったある日、疾風の看病を式神達に任せた辭はお稲荷さんと分家の近くにある山へと足を運んでいた。
きっかけはお稲荷さんの何気ない一言から。
思わず目を見張るような、そんな言葉だったのだ。
それは昨日のこと。
ふと、お稲荷さんが衝撃な言葉を呟いた。
「あー…そういやこの辺りの山だったかな…
狗神憑きが住んでいる古い屋敷があるのは…」
ポロリと私の手から古本が落ちた。
狗神がどうとか…
「え…?今何て言いましたか?」
「んー?妖達から聞いた話を思い出してな。
この辺りの山に狗神憑きが住んでいる古い屋敷があるとかなんとか…」
お稲荷さんは日向ぼっこしながら、お団子を頬張っている。
幸せそうで…少しムカつく…




