庭園の妖怪13
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翌朝ー
春の暖かい日差しを浴びながら、辭は布団から体を起こした。
その隣には丸まって眠っているお稲荷さんが目に入る。
今日の午後一時。
来て、くれるのだろうか。鎌鼬は。
何だかんだと言いながら、ソワソワして落ち着かない。
お稲荷さんに少しは落ち着けと言われたが、気が休まることはなく。
来てくれるのかがすごく不安で。
時計をチラチラと見ては、立ったり座ったり部屋の中を往来していた。
こんなに落ち着かないのは、久しぶりだ。
時計は私の不安や焦燥など知るはずもなく、ただ一つ一つ時間を刻んでいく。
振り子時計の針が揃って、やっと頂点を向いた。
後、一時間……
どうしようか。
今からでも庭園に行って待っていてもいいのだが。
焦っても仕方ないのは分かっている。
だが、ジッとただ時間になるのを待つのは落ち着かない。
「何やってんだよ、辭。」
「お稲荷さんには私の焦りや不安は分からないのです。」
「分かるから言ってんだよ。」
ヒョイッと辭の膝の上に乗ってくる。
膝の上にちょこんと座ったり白い子狐は、真っ直ぐに私を見ている。
そのフワフワの頭を辭は撫でた。
白は気持ち良さそうに、身を委ねて。
何だか少し落ち着いてきた。
「どうだ?少しは落ち着いたか?」
「はい……
お稲荷さん、ありがとうございます。」
「そうか。」
ハタハタとシッポを振っている。
あ、久しぶりに見た、その仕草。
お稲荷さんが嬉しい時にする仕草。
とんと最近見ていなかったのだ。
穏やかで、優しい時間。
その時間を壊すように、ボーン……ボーン……と振り子時計が鳴り響いた。
時刻は午後一時。
チラリと視界に時計を映すと、辭はお稲荷さんと共に庭園へと向かった。
鎌鼬がいることを願って。




